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#TL
瀬名 紫陽花
14,533
#BL
多 動 症 .
30
シートベルトを締め、静かに動き出したエンジン音を聴きながら
私はフロントガラス越しに流れる街灯の光を見つめた。
「うわあ……車までこんなにカッコいいなんてさすが『超絶イケメンのスパダリ』って噂されるだけはあるね…」
「何それ。褒めてるつもり?」
「褒めてるよ!だって、部署の女子たち、みーんな叶人くんの噂で持ち切りなんだから」
「ふーん…」
叶人くんはハンドルを握ったまま
前方を見つめた状態で、低く落ち着いた声で問いかけてきた。
「さっちゃんは、どう思ったの?」
「え?どうって?」
「さっちゃんも、俺のこと……カッコいいって思ってくれた?」
「えっ!?あ、そ、それは…その……うん」
急な直球にドギマギしながら、私は誤魔化すように笑った。
「昔の泣き虫な叶人くんとは、本当に似ても似つかないから、最初は誰かと思ったよ。でも、ここまで変わるなんて、本当に凄く努力したんだろうなって」
「それは……まあね。あの頃の、弱くて泣いてばかりの俺じゃ…守れないから」
「守れないって?」
「いいや、こっちの話」
叶人くんは小さく首を振ると、赤信号で車を止め
不意に私の方へと視線を向けた。
その瞳は、昼間の爽やかなエースのものとは全く違う、どこか暗い熱を帯びている。
「それよりさ……さっちゃんって社内で『経験豊富』って噂されてるけど、それって本当?」
「へっ…!?」
予期せぬ方向から飛んできた刃に、私の心臓が派手に裏返った。
「いや、昼間に部署の女の子たちが『桜先輩は恋愛のベテランだから、相談すると的確なアドバイスをくれるんです!』って、みんな口々に言ってたからさ」
ヤバい、ヤバいヤバい!!
脳内で緊急警報のサイレンが鳴り響く。
ここで「ただの噂だよ、実は恋愛経験ゼロだよ」なんて正直に言ったら
私がこれまで彼氏どころか
男性経験が一切ない年齢=いない歴の干物女だということが完全にバレてしまう。
みんなが勝手に盛り盛りにした噂だとしても
後輩たちからあれだけ尊敬の眼差しを向けられているのだ。
今更それが嘘だとバレたら居心地が悪いし、何より───
仮にも、昔からずっと意識している初恋の相手にだけは
自分が「男に全く免疫のない処女」だなんて、恥ずかしくて絶対に知られたくない!
(ここは大人の女を演じきるしかない……!)
私は必死にパニックを押し殺し、わざと余裕をかました笑みを浮かべて答えた。
「ま、まあね!色々経験はある方だし?これでも24歳だからね!」
「へー…どんな経験?」
「えっ!?そ、それは…その、ある程度のことは、一通りなんでも……?」
まさかそこから深掘りされるとは思わず、言葉が詰まる。
叶人くんの目が、獰猛な肉食獣のように細められた。
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