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俺たちは今日もいつものメンバーで食料調達の依頼で森へ入り、イノシシなんかを狩って帰るだけのはずだった。
槍のニール、斧のバンズに弓のサラ。そして剣士の俺ビリーの4人はラタンの街の冒険者ギルドに所属しパーティを組んで活動している。
危険な魔獣なんかじゃない、ただの食肉調達専門だ。その俺たちが森の奥深くまで来たところで、そいつに出会った。
全身を覆う黒い毛、鋭い爪を持ち牙を剥き出しにした二足歩行の狼。そして禍々しい気配を醸し出しているそいつは俺たちがオオカミ頭と呼び決して出会いたくないと願う魔獣だ。身の丈2mほどの筋骨隆々としたその魔獣との距離はおよそ10m。
魔獣を見つけたらすぐに逃げろ。
それが俺たち凡庸な者の取れる生き残るための唯一の手段だと教えられている。
逃げたいこちらと、1対4と数で劣るオオカミ頭とでしばし見つめ合う。
魔獣とやり合うのは専門の奴らがいる。普通の人間が敵うものではないんだ。
俺たちがどうするかを小声でやりとりするその間にも向こうはジリジリとにじり寄ってきている。
俺たちの決断は遅かった。いや、出会った時点で運命は決定していたんだ。無惨に食い散らかされる仲間たち。せめて1人でもと逃された俺。心臓が破裂しそうなほどに走った。
そのあとは覚えてはいない。気づけば俺は森を抜けて街道にへたりこんでいた。
ラタンの街とは森を挟んだ反対側へ抜けたさきにあった街にたどり着いた俺はどうやったのか覚えてはいないが、オオカミ頭の出没とパーティ壊滅を衛兵に伝えていたようだ。
伝えたまま気を失い詰所で寝かされている間にこの街の冒険者ギルドに討伐クエストとして受理されたとのこと。ただこの街にもいまは腕利きがおらず、すぐには討伐されないだろうとのこと。あとこの街はスウォードというらしいことを目が覚めてから衛兵に聞かされた。
それから3日。最初に目が覚めた時には夢だったと思い込もうとして震えて泣きながら過ごし、翌日にはさすがに詰所を放り出され、それでも取ってくれた宿の部屋で後悔に震え、今日は朝から復讐ばかりを考えている。
ラタンに帰り準備を整えるのも手ではあるが、その場合森を抜けるか、かなりの遠回りをすることになる。
森を抜けるにはヤツが気がかりで、遠回りはヤツを逃す可能性も高まるだろう。
であればここでどうにか武器を調達し挑むのがベスト。数を頼む金などない。ヤツに通じる武器の一つでも手に入れられればよし。それでなくとも……腕の一本でももらわねば収まらない。
「いらっしゃい」
カランカランとなる扉をくぐり、中に入る。
なるほど、宿のおやじがこの街には武器屋は一軒しかないと言っていたが、この広さにこの品揃えであればそれも頷けるというくらいの店ではある。
カウンターには店員だろうか大柄で無愛想な30前くらいの男がいて、フロアには頭に大きな耳を生やした桃色の毛が特徴の獣人の女の子の店員がいる。
武器屋というよりは鍛冶屋に近いのだろうか。鍋なんかも置いているし絶えず金槌と炎の噴くような音が聞こえる。あとおっさんたちの暑苦しい掛け声。
「剣を探している。それも魔獣を斬れる剣を」
カウンターの男に聞いてみると
「切れ味ならそっちの棚。素材でなら向こうの棚だな」
愛想のない返事だが武器屋なんてそんなものだろう。とりあえず言われた所を見てみるが──
(高いっ! とてもじゃないが俺の手持ちで買えるものなどないではないか)
「お兄さん。高くて買えないって顔してますねっ。もしかして魔獣用の武器ははじめてですか?」
クリクリとした愛らしい目で見上げながら獣人の女の子が聞いてくる。というかそんなに顔に出てたとは。