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「お兄さん。高くて買えないって顔してますねっ。もしかして魔獣用の武器ははじめてですか?」
クリクリとした愛らしい目で見上げながら女の子が聞いてくる。というかそんなに顔に出てたとは。
「ああ、普段は獣専門でな。魔獣はたまに出てくる小鬼しか経験がない。しかしこれほど値がはるとはなぁ」
「それはそれは。けれども小鬼は魔獣ではないのですよっ。あれは知性の劣る人間の亜種のようなものですっ。魔獣はこの世界の魔力と呼ばれるものを取り込んだ獣が姿を変えたものなのですっ。魔力で変化した魔獣はもろもろが強化されて並の人間では太刀打ちできないのですっ」
小鬼は魔獣とは違うのか。人間の亜種ってなんだか考えてはいけないワードが出てきたが。何匹か殺してるぞ俺。
魔力っていうと、この世界に満ちていて、けれども人間が扱えず生身で認識する事のできない力の源だったはず。
まあいまはそんなことよりも──
「だとすると魔獣用ではない武器で予算内の1番いいのを買うしかないかな」
なんとなく金が足りない事と魔獣というのをよく知っていないことに恥ずかしさを覚えて呟いてしまう。
「なにと戦うのか知りませんが、そうするとまともに傷をつけることも出来ないと思いますよっ。死ぬだけですっ」
なぜ断言できるのか、そんなふうに言い切られると聞き返してしまう。
「いや、普通のと魔獣用のでなにがそんなに変わるんだい? 専用のものでないと闘えないなんてのはおかしくないか?」
すると女の子は少し困ったような申し訳なさそうな顔をしただけで、カウンターの方を見やる。無愛想な男がそれでも一部始終を聞いていたのだろう。
「そうだな、一流の猛者であればただの包丁でも斬れるかもしれんな。あんたはそんな凄腕なのか?」
静かな威圧するわけでもない淡々とした低い声で。
「そこにあるのはそうでない大多数の人間向けのものだ。ギルドの上位者でも殆どがそれらを使わないと命を落とす」
それが、常識。魔獣を狩る冒険者たちの──魔獣と戦ったことのない俺ならなおさらの常識。
しかし、それでは復讐などとても果たせるものではない。街に戻り私財をかき集めても買えないのに。こんな事ならもっと貯金に励めば良かった。いや、寄付でも募るか?
だめだ、獣相手でも人死になんてありふれているものに誰もそんな事しない。俺だって払わないさ。だったら、もう死ぬつもりでやるしか。
「なんだかすごく思い詰めてますねっ。まるでお金がないから仕方なく死ににいくかっみたいな顔してますねっ」
精神的に不安定なのだろうとは思ってるけど、金がない顔ってそんな顔してたのか⁉︎ 少なくともそんなちょっと散歩程度の気軽さは出してないはずだ!
「けど、俺はいま魔獣を倒さなきゃならない。でもそれが叶わないのなら仕方ないじゃないか!」
女の子は黙ったまま、耳がピコピコと動きしっぽはゆらゆらと振れて、人間と同じ鼻を少しひくひくと動かして。カウンターの男に声を掛けた。
「ねえ、この人に作ってあげない? ダリル」