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僕と再構築し娘たちともまた暮らせる、というこれ以上はない魅力的な餌を目の前にぶら下げられて、夢香は僕の言いなりになった。同居していた頃、あれほど見られるのを嫌がったスマホも一言言っただけで素直に差し出してきた。
ハメ撮りの類いもあったが、それらはすべて松永とのもの。鷲本との画像はせいぜいキスまで。それも服を着た状態のものばかり。一枚だけお互い裸でキスしている画像があったが、初めて行為した直後に記念撮影したものだという。撮影日は一年前。つまり夢香は一年前にはもう僕との離婚を考えて、なるべく有利に離婚できるように相談していたわけだ。
「はじめはただの相談でした。そのうちやたら褒めてくるようになって、弁護士におだてられて舞い上がってしまいました」
気づけばホテルに行く関係になっていた。松永と違って鷲本に愛情はなかった。ただ承認欲求を満たすために会い、そして行為した。鷲本の方も彼の妻より十歳若い女の体で性欲を満たしたかっただけ。妻には頼めない過激なプレイを試みることも多かった。
「僕とは三年もレスだったのにね」
「すいません」
すいません? それだけ? 僕が三年間どれだけ苦しんだか。さっきも僕が再構築を匂わせた途端、あなたを愛しています! という取ってつけたような愛の言葉が飛んできた。
言葉が軽いのは本当は僕を愛してないし、僕と行為したいと積極的に思っていないからだ。愛がないことを責めるつもりはない。僕だって夢香と憲和弁護士が刺し違えるなどして共倒れになってくれればいい、と願っているわけだから似たようなものだ。
ただ困るのは、どれだけ夢香を孤立させても僕に依存させることが難しい、ということだ。それなら方針を変更して、子どもたちとの同居を前面に押し出して、それを餌にして言うことを聞かせるまでだ。
憲和弁護士とのLINEのトーク履歴を全部僕のアカウントに転送した。一応、松永とのトーク履歴も。
夢香はさすがに渋ったが、
「嫌なら娘たちとの交流はあきらめてね」
と突き放したら折れた。
松永との行為動画を見たとき違和感を感じた。僕に対してあれほど威圧的だった夢香が松永に対しては従順で、何を言われても逆らわなかったからだ。LINEトークもそうだった。夢香は松永を賢人さんと呼び、憲和弁護士は先生と呼んだ。言葉遣いは全部ですます調。何を言われても断らない。松永にマッサージしろと言われて、やめろと言われるまで三時間も続けたこともあったようだ。お遊びでやってるのかと思ったが、吐き気がするほど徹底した上下関係。メイドとご主人様というより、奴隷と所有者と言う方が近い。
夢香の方が浮気してるんじゃないかと和海に言われたとき、こんな偉そうで口の悪い女を相手にする男なんているもんかと呆れたが、どうやら夢香が態度悪いのは僕に対してだけだったらしい。
憲和弁護士とのLINEトークには佐礼央や僕も登場した。
憲「夢香、子どもを連れ去った奥さんにとってもっとも理想的な展開ってどうなることか分かるかい?」
夢「旦那に子どもを会わせずに婚費をむしり取り続けることですか?」
憲「あははは! それは理想でなくて現実。僕の指示で子どもを連れ去った奥さんは何十人といるけど、みんなそうやって幸せに暮らしているよ」
夢「じゃあ、理想って何ですか?」
憲「簡単さ。旦那が死ぬことだよ。旦那が死ねば親権問題は最終解決。旦那の退職金も生命保険も全部奥さんのもの。旦那が不動産を持ってればそれも相続できる。最近、一人息子に会えるのを夢見て毎月婚費を払い続けていたお人好しの旦那が自殺してね、奥さんがいくら手にできたか分かるかい? 六千万だよ。成功報酬として千五百万ほどいただいたけどね」
夢「すごい! どうしたら旦那が自殺してくれるんですか!」
憲「その奥さんの場合は不倫相手の男がクズでね。同棲してた男が虐待して息子を死なせてしまったんだ。奥さん、もとからその子のことは金づるとしか見てなかったから、あまりショックは受けてなかったけどね」
夢「私は娘たちを愛してるので、旦那が死ぬのはいいけど娘たちが死ぬのは困ります」
憲「心配いらない。僕の指示した通りに旦那を追いつめれば絶対に勝手に自殺するよ。実際、僕の依頼者の旦那はもう七人も自殺してる」
夢「その方法を教えて下さい!」
憲「ベッドの上でたっぷりと教えてあげるよ」
夢「先生に抱かれたくてもうびしょ濡れです」
憲「仕方ない女だな。じゃあ、いつものホテルで」
夢「今すぐ行きます!」
「知らなかった。あなたは僕に死んでほしかったんだね」
「違うんです! 気持ちが盛り上がって、つい心にもないことを言ってしまいました」
心にもないことを言った、というその言葉の方が心にもないことのように僕には聞こえたけどね。愛していますとさっき言われたのがただの嘘だとはっきりして、かえってすっきりした。
それで教わったのが、僕の不倫やDVをでっち上げて近所に吹聴し、有り金全部と僕名義の通帳まで確保した上で娘たちを連れ去って、連れ戻しに来た僕を警察に逮捕させる、という鬼畜の手口。確かにあれはそれまでの人生で一番ショックな出来事だった。
でももっとショックなことが、そのあといくつも続くことになる。
只野佐礼央の自殺、夢香の不倫発覚、そして人の不幸を食い物に荒稼ぎする鷲本弁護士のような悪徳弁護士が存在して、多くの連れ去り被害者が泣き寝入りして、そのうち少なくない者たちが追いつめられて自殺していると知ったこと――
やはりこの男は破滅しなければならない! LINEトークを見て、その思いを強くした。鷲本夫妻を破滅させる方法はまだ全然思いつかないけれど……