※視点がコロコロ変わる。雑なくせに長文です。
ガチャ、と玄関が開く音と足音。
顔を覗かせれば思った通りの人物。
「兄さんおかえりなさい。らっだぁさんもいらっしゃい」
にこりと優しく笑った俺の兄、クロノアさん。
その友人のらっだぁさん。
「トラゾーただいま。ちゃんといい子してた?」
子供のように頭を撫でられて、恥ずかしさで後退った。
「一個しか違わないのに子供扱いしないでください!それに高校生ですよ、恥ずかしいです…っ」
「俺の弟は可愛いな」
「ノアが羨ましいぜ」
らっだぁさんが兄さんの肩を小突く。
「でしょ?…”俺の”弟」
「…あぁ、全くな」
「「……」」
急に無言になる2人を見て首を傾げる。
不穏な空気が流れてるような…。
「兄さん、らっだぁさん?」
声をかけるとパッと表情を戻した2人はいつものような穏やかな顔に戻った。
「なんでもないよ。俺ら部屋で課題してるね」
「トラは気にすんな」
「⁇…じゃあ、飲み物とお菓子でも持って行きますね」
若干の違和感を残しつつ、兄とその友人にそう言う。
「トラゾーありがとう」
意味のある笑みを向けられて、顔に熱が集まる。
「!!、いえ…そんな…っ」
「じゃあ、頼むね?」
「はい」
二階に上がっていく兄さんとそんな俺をチラリと見たらっだぁさんを見送ってキッチンに向かった。
「トラ」
「ん?らっだぁさん?あれ、もしかして飲み物とか足りませんでしたか?」
キッチンで夕食の準備をしているとらっだぁさんに声をかけられた。
「いいや?大丈夫。…いや、トイレ行ったついでにちょっと見て欲しいものがあってさ」
「見て欲しいもの…?」
俺のほうに近寄ったらっだぁさんはスマホを取り出す。
「?」
『や、ぁッ!…に、ぃさん、そこだめぇ…っ!』
『兄さん?』
『く、くろの、あさん…ッ、ゃぁあ…っ』
それは、見られてはまずい俺らが隠していることで。
「!!?」
「…学校でもこんだけ盛ってたら、家じゃどうなんだろうな」
「ま、さか…」
人が来ない場所だと思っていたのに、まさか見られていたなんて。
「大丈夫、俺しか見てないよ。……けど、これ先生に見せたらどうなるかな?」
「!!」
「大学進学決まって優等生で通してるノアが、実は血の繋がった弟と学校でこんなことしてるってバレたらどうなんだろうな?」
慌ててらっだぁさんの持つスマホに手を伸ばすも躱される。
「そ、それ消して下さい!」
「え?やだよ」
「どうして…⁈」
肩を掴まれて冷蔵庫に押し付けられた。
逃げようとしたらバンッ!と大きな音を立て両腕で囲い込まれる。
「ひっ…」
「消して欲しいなら、…どうすればいいか分かるよな?」
「どう、すれば…?」
「俺の言うこと、聞けるよな?」
「!、ゃめッ…」
首筋を撫でられて反応したくないのに、そう変えられた俺の身体はびくりと跳ねた。
「ノアとできて俺とできねぇなんて言わせねーよ」
「やだっ…」
ダメな関係であるのは分かってる。
人に言えるようなことでもないのも充分理解してる。
それでも、兄さん以外は絶対に嫌だ。
「……ふぅん?じゃあ、これ匿名で高校と大学に送っちゃおっかなぁ?」
「なッ!!?、だ、ダメです!!」
「……じゃあ、分かるよな?」
そんなことされたら、あの人の人生が狂ってしまう。
「…なんで、こんな、こと…」
血の気が引いて震える声でらっだぁさんに問いかける。
「え?俺がトラのこと好きだから」
「⁈」
「ラッキーって思ったぜ」
にこっと笑うらっだぁさんはまた動画を再生する。
『すき、です…くろのあさん、すき…っ』
「やめてください…!」
「それに捉え方によっちゃあ、お前がノアを誑かしたって思われるかもしれないしな」
らっだぁさんは動画を再び止めて、震える俺の耳元で囁いた。
「ノアの為にトラが我慢するか、自分の為にノアを犠牲にするか。……優しくて賢いお前なら答え、すぐ出せるよな?」
「……お、俺が、我慢すれば、ホントにそれ、消してくれるんですか…?」
「うん、…約束する」
スマホを振ってズボンのポケットにしまう。
「………わかり、ました…」
天秤にかけた時、俺なんかのことより兄さんのことで完全に傾いた。
「そ、その代わり痕とか絶対に付けないで下さい…っ」
「……いいぜ?」
階段を降りてくる音がして、らっだぁさんが俺から少し離れた。
リビングに入ってきた兄さんはキッチンのほうに顔を覗かせる。
「らっだぁ、トイレ長いけど大丈……トラゾーと話してたの?」
「ん?まぁ世間話、かな」
「……にしては近すぎじゃ」
細まる翡翠に、ものともせず紺色の目で見返していた。
「お兄ちゃんてば過保護だな。…なぁ?トラ」
変なこと言うな?言ったら分かるよな?と意味を込められ名前を呼ばれる。
「、ほ、ホントに世間話してただけですよ」
「……ふぅん」
意味深な返事をした兄さんはじっと俺を見る。
「ほら、部屋戻って課題の続きしよーぜ」
「……あぁ、うん」
納得いかない表情をしつつも部屋のほうに戻っていく兄さん。
「……トーラ」
「!」
先程と同様耳元で、聞いたことない低い声で愉快そうに囁かれる。
「明日から、俺ともいーっぱいシような♡」
「……は、い…ッ」
どうしてこんなことに。
そう思ったけど、なってはいけない関係になったことに対する罰なのだと自分を納得させるしかなかった。
「(絆されやすいんだな。こりゃノアが過保護になんのも分かるわ)」
向かい合わせで課題をしているノアをチラリと見る。
「(お兄ちゃんの為に健気なこった。てかこんな脅迫じみたことバレたらノアに殺されそ)」
「?、なに?分かんないとこでもあった?」
俺の視線に気付いたノアが顔を上げる。
「んー?いや、別に」
「(にしても、あの絶望したような顔のトラも可愛かったな。動画は消さないし、痕もつけるけど……騙されやすいな、マジで)」
「…らっだぁ」
「うん?」
「トラゾーになんかしたら許さないからね」
その翡翠は、自分の大切な家族であり、守るべき弟であり、愛してやまない存在を傷付けたら殺すという含みのある目だった。
「なんもしねーって」
「(呑気な奴。お前の為に弟が自分のこと差し出してるの知らないで)」
「……」
野生の勘でもあるのか猫のように細められる目。
「そんな顔すんなって。トラが見たら泣くぜ?」
「トラゾーには見せないよ」
「ふーん」
「(こいつがブチ切れたとこ数回しか見たことないし、この顔だって優しいほうなんだろうなぁ)」
ノートに目を落とした何も知らないノアに、優越感を感じつつ俺も同じように課題に再び取り掛かった。
「じゃあまた邪魔するわ」
「勉強しに来るだけでしょ。邪魔ってなんだよ」
「えー?まあ、色々?」
さっきから妙な言い回しをするらっだぁと余所余所しいトラゾー。
余所余所しいというより怯えているような。
「トラも、またな」
「、ッはい、また…」
びくっとと小さく強張ったトラゾーはらっだぁに小さく返事した。
「(なんかあったのかな…あの時、世間話とかしてた時に…)」
らっだぁを見送って、トラゾーに向き直る。
「トラゾー」
「っ、は、はい」
「らっだぁになんか言われた?それとも何かされた?」
「え、…いや、その…」
目線を逸らすトラゾーの手を掴む。
「トラゾー」
「らっだぁさん、に、…その、」
「うん」
「勉強のことで、ちょっと、…」
トラゾーに何か言うくらいということは理数系のことだろうか。
けど、そんなことでこんなに怯えるものだろうか。
数学は確かに壊滅的にやばいところはあるけど。
「分からないとこあったら俺に聞きなよ?」
「はい、ありがとうございます。兄さん」
眉を下げて申し訳なさそうに言うトラゾーも可愛い。
贔屓目なしに。
実の兄との関係がらっだぁさんにバレてしまった。
あの人の将来のことを考え離れなければならない、自分なんかといてはいけないと分かっている。
許されるものでもない、誰からも喜ばれる関係ではない。
それでもあの人以外は無理で、けど俺のせいで大切な兄の未来を潰すことになるなら離れたほうがいい。
「トラ、考え事してる?」
「ひ、ぐ、っ」
気持ちが伴わない行為は体が拒絶する。
けど俺がここでらっだぁさんを突き放せば、兄は、
「ノアの時みてぇに可愛い声出してくれてもいいんだぜ?…まぁ、そうやって我慢してるほうが啼かし甲斐あって楽しいけど」
「ぅぁあ…ッ!」
浮かぶのは罪悪感。
兄を裏切っていることと、俺が縛り付けてしまっているのではないかという感情。
離れたくないけど、離れなければならなくて。
「ノアが知ったらどんな顔するだろうな?」
「っ、やめ…兄さんには、言わないって…!」
「言わねーって。あーでもそん時は俺殺されるかもな」
勉強熱心な兄さんは大学が決まっていても予備校に通っていた。
そのことを知ってるらっだぁさんはその間に訪ねてきては、そういうことをするのだ。
「勘のいいノアが気付かないの意外だな」
「ひ、っ…ぅ!」
「もう知ってたらどうする?トラ」
びくりと肩が跳ねた。
それは恐怖によるものなのか或いは…。
「ま、俺には関係ねぇけどな」
「ゃ…ぁ、んぅうっ!!」
「ははっ♡かーわい♡」
せめてゴムだけはしてほしいと懇願した。
ナカに出されるのだけは絶対に避けたかったから。
らっだぁさんはあっさり了承してくれた。
その代わり、自分の気が済むまでヤらせてね、と言ったのだ。
どちらにせよ、俺は断れる立場にはない。
泣く泣くその提案を呑んだ。
「ノアはずるいよな。トラのこと独り占めにして」
ぐりぐりと奥を抉られる。
それ以上進もうとするらっだぁさんに首を振って抵抗していた。
兄しか許していなかった場所だけ守りたくてどうにか入られないようにしていた。
「も゛ぅ、…ゃら…ッ」
「俺は別にやめてもいいけど?……どうなるかな?」
どうして、こんなことになってしまったのだろうか。
らっだぁさんの言う通り、俺が兄をおかしくしてしまったせいで。
「!…ごめ、な、さ…ぃ」
昔から俺に対して過保護なところがあった。
病弱とまではいかなかったけど、よく体調を崩していた俺のことを忙しい両親の代わりに看てくれていたのは兄だった。
だからか、怪我一つでも軽い風邪を引いた時でも尋常じゃないくらい心配された。
口から漏れた謝罪は一体誰に向けたものか。
でも、自分以外の人に対してなのだろう。
両親、友人、先生、らっだぁさん、そして、兄に対しての。
無意識下にあった罪悪感に今更苛まれ耐えきれず涙は止まることはなかった。
「お、ノアおかえり」
「らっだぁ…?なんでウチにいんの」
「んー?トラに”勉強教えてやってた”」
玄関で出くわした友人は含みのある言い方と笑みを浮かべていた。
「……」
「ヤキモチ妬くなって。ほら、お兄ちゃんに言いづらいことだってあんだろ?」
「必要ないよ。トラゾーには俺がいれば充分だから」
「…へー?」
違和感と胸のざわつきと苛立ち。
「他は要らない」
「トラゾーのこと解放してやれば?いつまでもあいつは子供じゃねぇし。トラに執着して縛ってやんなよ」
「らっだぁには関係ないでしょ。赤の他人が俺らのことに口を出さないでくれる?」
一瞬無表情になったらっだぁはすぐにいつもの笑顔に戻し背を向けた。
「赤の他人だからだよ。んじゃ、お邪魔しましたー」
そう言って帰って行った。
「何なんだ、あの言い方…」
そう言えば、いつもは俺が帰った時は出迎えにくるトラゾーが来ない。
「寝てんのかな」
手洗いとうがいを済ませて、トラゾーの部屋に向かう。
「トラゾー?」
ドアをノックして声をかけると返事が返ってきた。
「入るよ」
「おかえりなさい」
「…ただいま」
すぐ目に止まったのは泣いた跡。
そして、
「トラゾー、コレ何」
「ぇ…?」
首筋に濃く残されてる鬱血と噛み跡。
「俺、ココに痕なんか付けてないよ」
びくりと肩を竦めるトラゾーはあからさまに動揺していて、叱られるのが怖いと、泣きそうな顔で俯いた。
「そ、それ、は…っ」
部屋に入った時から残っているらっだぁの匂いと、消えきってない明らかな空気感。
「……へぇ?俺以外の奴に許したんだ」
フローリングに座り込んでるトラゾーを押し倒して、制服のネクタイで両手首をきつく縛る。
「⁈、ほ、解いて下さいっ!兄さん…!」
薄い膜の張っていた緑色が揺れている。
「らっだぁとここで、何してたの」
「らっだぁさ、ん…に、べんきょ…」
「勉強、ねぇ?…あいつと同じことを言うんだ。身体を許すのが勉強って言うなら俺としてるのもそうなるのかな?」
「に…いさ、ん…?」
自分のモノに手を出された。
大切にしてきた存在を汚された。
「俺以外に触らせたんだから。約束破ったトラゾーにはお仕置きだよ。…痛がっても嫌がっても泣いても、やめないからね」
俺がつけてない痕が目につく。
「ゃ、やですっ、きょ、今日は…!」
脚をばたつかせるトラゾーの下を全部脱がす。
「やめ…っ」
「どういうつもりでらっだぁにココ許したのか知らないけど、……ねぇ、あいつにどこまで許したの?俺しか許してない場所まで?ナマで?中出しも?」
「ゆ、るして、ない…にいさ、いがい、は…ッ」
「確かめれば分かることだよ」
「ひ、ぅ゛っ⁈」
慣らさなくても充分柔らかいソコを一気に貫く。
「ッゃ、ぁあぁぁ…っ!!」
「どれだけヤッてたの?すげぇ柔らかいけど」
腰を掴んで浮かせるようにして、俺しか入れない場所に先端を捩じ込む。
「っ゛つゔぅ〜〜ッッ!!」
「ココは守ってたんだ。…けど、そもそも身体を許したこと自体がダメだろ」
「ん、ぁ、ひ、ぃあぁぁ…!」
膜の張っていた目から落ちる涙に、ぞくりと背筋が震えた。
背徳感、支配欲、加虐心、独占欲、執着心。
全てが混ざり合って、もっと泣かせてやりたい。
守りたいと同時に壊してやりたい、そう思った。
引き金を引いたのは他でもないトラゾーだ。
「さっき言ったの全部守ってくれてたみたいだけど、ダメだからね」
優しく声をかけてらっだぁと何があったのか聞けばいい。
それができないのは激しく嫉妬してるから。
自分のモノに触られて不快に思っているから。
「ふッ、ぁ、ん!、ひゃぁあッ!!」
「あとでお風呂入ろうね?俺が綺麗にしてきちんと上書きしてやるから」
トラゾーに染み付くらっだぁの匂いが腹立たしい。
どれだけ許したのか。
「今は消毒。多少乱暴でも許してね?」
「────────っ!!?」
更に奥を貫く音が内側からした。
目を白黒させるトラゾーは何が起こったのか分かってない。
「は、ッ、ぇ…⁇」
「俺の根本まで入っちゃったよ」
縛った両手首を首に回させ密着する。
「ぁ゛ぅう…っ!!」
「ナカすごい痙攣。気持ちいい?」
「き、も…ち、いいれす…ッ」
止まらない涙が伝うトラゾーが眉を下げて震えながら言った。
「俺も気持ちいいよ」
入ったばかりのソコを抉れば首を横に振って嫌々をする。
「だめ、ッ、に、ぃさ…ゃぁあっ!」
「俺のこと、2人の時はなんて呼ぶんだっけ?」
「ぁ……、く、ろのぁ、さん…ッ」
「ん、いーこ」
優しく突けば横に振っていた首が仰け反った。
「優しいほうがトラゾーいいの?」
「ぃ、…いたくて、も…がまん、します、っ、おれ、が、わるッ、い…から…!」
「まぁ、俺も痛くしてもやめないって言ったしね。俺の覚えるまでココたくさん突いてあげる」
そして、俺以外は絶対に受け付けない身体に変えてやる。
「俺だけのトラゾーにしてやるから」
目を見開いたトラゾーはきゅっと眉を寄せて小さく頷いた。
それを見て混ざり合った感情が満たされていく。
「(誰にも渡さない、俺のだ)」
トラゾーを寝かせたあとは、らっだぁに聞かなければならないことが山ほどある。
絆されやすくても守ることは守る弟が、俺以外に身体を許した理由を。
さてそろそろ寝るかと思った頃、案の定の人物から電話がかかってきた。
「もしもーし」
『何を使ってトラゾーのこと脅した』
「開口一番……いや、聞いてくると思ったぜ」
『言えよ』
優しさの塊みたいなノアの声は怒声で低い。
「……脅しというか、交渉?トラはノアの為に俺に身体を差し出したんだぜ?」
『は?』
「周りに気をつけてヤらんと。俺でよかったな?通りかかったのが」
思ったよりも早くバレた。
まあ勘のいいこいつが知らないままなわけない。
それに、わざと見えるところに痕をつけたのだから。
『………あー、そういうこと。で?それ使ってトラゾーを言いくるめたわけだ』
「献身的で健気だな。ちゃんとしとかないとトラ離れてくぜ?」
『言われなくても一生離す気ないし、逃がさない』
「お兄ちゃん怖ぇ」
異常なほどのトラへの執着。
「ま、俺もトラのこと諦めるつもりねぇけど」
『あ?』
「トラの気持ち、ちゃんと聞いてやれよ?」
しばらくの沈黙のあと、ノアが口を開いた。
『……それでも離してはあげられない』
それだけ言って切られた。
「不器用な兄弟だな」
なんか当て馬にされた気分だ。
いや、そのつもりでもあったけど。
あわよくば俺に乗り換えてくれないかなとか淡い期待を抱いていたけど、どうやらそれは難しそうだ。
「丸く収まったらどうしてやろうか…」
そう呟きながらスマホに保存していたデータを消した。
「ぅ、うん…?」
散々喘がされて喉が痛い。
兄さんは宣言通り、俺が嫌がろうと泣こうと痛がろうとやめることはなかった。
起き上がれば兄のベッドで寝ていることに気付く。
見慣れた景色に目をもう一度閉じた。
彼の為に身を引かなければならない。
将来の為にも、幸せな未来の為にも邪魔になる俺はいなくならなきゃいけないのだ。
「……」
他人だったら。
女だったら。
なんて考えて、溢れそうになる涙を堪えて顔を手で覆う。
そんなことになっていたら出会うことはなかった。
家族だったからこそ、兄弟だったからこそ会うことができたのだから。
「、ふッ…ぅ…」
クロノアさん以外に許した自分なんか消えてしまえばいいのに。
「っ…うぁ…ッ」
こんなことなら、こんなことになるなら、
「すきに、なるんじゃ…なかった…」
「そんなの許さない」
「っ!!?」
顔を覆っていたせいで気付かなかった。
水とスマホを持った兄が立っていることに。
「そんなの、俺は許さないよ。トラゾーが俺から離れようとするのも許さない」
手を掴まれて頭の横に縫い付けられる。
上半身だけ覆い被さるようにベッドに座る兄さんは俺を見下ろした。
「らっだぁに見られてた。…それを言われてトラゾーは俺のこと考えて身体を許したんだろ」
「っ」
「俺は、そんなことなんかよりトラゾーのほうが大事だよ。だから、」
「そういうわけにいきませんッ…俺なんかのせいで、兄さんの人生を棒に振るわけには…!」
「トラゾーは俺のこと嫌い?嫌々俺としてたの」
見下ろしてくる翡翠は、いろんな感情が入り混じっている。
「そんなわけ…っ!好きじゃなきゃ…!!」
「なら、どうして好きになるんじゃなかったなんて言ったの」
「、だって…だって…!」
「俺のこと、好きなら離れんなよ」
「!!」
「らっだぁのしたことも許されることじゃないし、俺に相談もなく勝手に決めて身体許したトラゾーもダメだよ。…けど、俺がトラゾーのこと離してあげられないんだ、俺がトラゾーのことダメにしたんだよ」
ポタポタと顔に落ちてくる雫は翡翠から溢れているものだった。
「…俺だけのトラゾーでいてよ」
「に……クロノアさん…」
「俺の将来や未来にトラゾーがいないのなんて考えられない。俺から離れるなら一緒に死んでよ」
「、つ、」
抱きしめられて耳元にクロノアさんの震える声がする。
「そのくらい、トラゾーがいなきゃダメなんだよ。…大学なんかより、将来より、トラゾーのほうが大切なんだ」
「ク、ロノアさん…」
「トラゾーの気持ち、教えて」
クロノアさんを落ち着かせるように背中をゆっくり撫でる。
「お、れは………俺は、クロノアさんと離れたくないです。できればずっと一緒にいたい。…でも、ふと思うんです、俺がいなければあなたは普通に幸せになって両親からも友人からも祝福される人生を歩んでいたのではないかと。何も与えることができない俺なんかよりも、と……確かにらっだぁさんに脅されて、この身体を差し出しました。…俺が我慢すれば、クロノアさんは大学に行ってそこから順風満帆な将来に向かって行けると…俺のほうこそあなたから離れなければならないのに、それがどうにもできなかった………こんな、汚くて穢れた俺でも、あなたの隣にいてもいいですか…?」
「トラゾー以外は要らない。汚いっていうなら俺が綺麗にしてあげるし、俺の隣に他の人間をいさせたりなんかしない。トラゾーの思う普通を、俺はトラゾーとしていきたい。どんなに罵倒されても、祝福されなくても。俺はトラゾーじゃなきゃ嫌だ。この先、どんなに苦しいことになっても俺が守るから、誰にも傷付けられないようにトラゾーのこと。…いや、他人に傷を付けさせたくない。トラゾーに傷を作るのは俺だけでいいんだ。全て、俺だけが与えたいから。…だから、俺から離れたりしないで」
「…はい、離れません。…ごめんなさい、勝手なことして」
顔を上げたクロノアさんの表情は苦しそうで、だけども確かに嬉しそうだった。
「俺もごめん。…トラゾーを傷付けたね、」
「いいんです。…クロノアさんになら、何をされても幸せですから…」
何かを堪えた顔をしてクロノアさんは口を開いた。
「…らっだぁにはきつく灸を据えとくから」
「ふふっ、あなた怒ると怖いですからね」
「……誰に聞いたの」
動きを止めたクロノアさんを見上げる。
「ぺいんととしにがみさんにですけど…」
「……どうやら灸を据える人が増えたみたいだ」
「その理屈なら俺もお灸据えられちゃいますけど」
「え?」
「さっきのクロノアさんはちょっと怖いと思ったんで。…俺も、兄さんの怖いところ知っちゃったから」
「今据えてあげようか?」
近付く顔にハッとして咄嗟に顔を逸らす。
きっと他のみんなのお灸と俺のお灸は意味合いが違う。
「も、もうダメですっ!」
「遠慮しなくていいよ。実際、トラゾーにはらっだぁに身体許したことのお灸し足りないからね」
「ゔぐ…っ」
俺の手を縫い付けるクロノアさんの手に力が加わる。
「今度は優しくて甘やかして俺しか考えられないようなドロッドロの身体にしてやるから」
「ふぁ!」
「俺と”勉強”しようね?」
「は⁈、それ、どういう…ちょっ、もう!!」
勉強と謎のワードに困惑しているうちに完全に逃げることができず、そのままクロノアさんにドロドロにされたのだった。
兄さんの前で正座をさせられてる三者三様の姿に、焦りながらその景色を眺めていた。
「…ぺいんととしにがみくんは、言わない約束してたのにどうしても言ったのかな?」
「「スミマセン」」
「謝罪は聞き飽きたよ。俺が聞いてるのはどうしてか、なんだけど」
「クロノアサンッテ、怒ルト怖イノカ、トラゾー二聞イタラ」
「怖イ?怒ッタノ見タコトナイッテ言ワレタノデ…」
「それで?怖いから怒らさないほうがいいよって?アドバイス?俺がトラゾーのこと怒るわけないだろ」
「お前らみどりみたいな喋り方すんなよ。てかノア、トラのことは叱りはしてるけどな」
「らっだぁは黙れ」
「「クロノアサン、本当ニスミマセンデシタ」」
「…まぁ、いいよ。ある意味ぺいんとたちのお陰でトラゾーにわからせることできたから」
「「…うわっ、当て馬にされた気分」」
ハモる2人を見下ろす兄さんはらっだぁさんに視線を向けた。
「さて、らっだぁは弁明があるなら言ってみなよ」
「俺が全面に悪いけど、あんなとこでヤッてたノアも悪いと思いまーす」
「……ぺいんと、しにがみくん。らっだぁの両腕と両脚押さえといてくれない?」
「「ハイ!!」」
「あ!おい!!お前ら!!」
「反省の余地なしと。…大丈夫、友人のよしみで軽く気絶させるだけだから」
「怖っ!!気絶って、…ぺいんともしにがみも離せし!」
「僕たちも自分の命は惜しいので…」
「お前の命で助かるなら、俺らはクロノアさんの味方につく」
「こいつら…!、トラ、助けて!」
急に話を振られてびくっと肩が跳ねる。
らっだぁさんに対してまだ飲み込みきれない感情はあるけど、優しい先輩だというのも分かってるから腕を回る兄さんの制服を引っ張る。
「に、兄さん、もういいですって。…俺なら大丈夫ですから。ね?」
「…ダメ。トラゾーがよくても俺が許さないから」
頭を撫でられて、制服を掴んでいた手を離される。
「おら天誅!!」
「いゃぁ゛あ゛!!」
「「汚ねぇ悲鳴だな!!」」
耳を押さえたぺいんととしにがみさんがらっだぁさんの肩を叩いた。
床に倒れたらっだぁさんに流石に慌て、駆け寄ろうとしたら止められた。
「兄さん…?」
「行く必要ない。どうせ気絶してるフリなんだから」
「…あ、ホントだ」
「こいつ悔しい顔してやがる」
そう言われて起き上がってきたらっだぁさんは俺を見上げた。
「嫌になったら俺のとこいつでも来ていいからな。…耳が弱い可愛いトラちゃん」
「なっ…!!」
「……」
ゆっくり後ろを振り返れば、笑顔で俺のことを見る兄がいた。
当然、振り解くことができないくらいの馬鹿力で押さえられてる。
「……トラゾー、帰ろうか?」
「え、…あ、あの…っ」
「帰ろうか」
「ハイッ」
ぺいんとたちには同情された顔で見送られ、らっだぁさんはニコニコ笑っていた。
「っ〜!!」
らっだぁさんだけは許さない。
明日、肩パンをお見舞いしてやる。
「(終わった)」
耳を執拗に責められ、見事にクロノアさんの声だけでイッてしまう身体にされた。
その時の愉しそうな兄の顔に悦ぶ自分もいたことは内緒だ(すぐバレたけど)。
後日、らっだぁさんにはきちんと肩パンをお見舞いしてやった。
ちょっと嬉しそうな顔に若干引いたことは言わないでおこうと思う。
コメント
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やばいですわ語彙力失いましたでございますわ(??) trさんのことを死守するkrさんとわずかに空いた隙間を抜け通ってくるrdさん…これにはkrさんもお困りですね でも絶縁してないから仲はいいままなんだな〜って微笑ましく思います笑 そして怒られてるsnさんとpiさんにはいい判断をしたと思ってます(rdを捉えるの) 今後trさんはrdさんからの猛烈なアプローチとkrさんの死守に悩まされるんだろうなぁ…
きゃわわ… 私にっこにこになりましたわ… krさんの為なら自己犠牲を厭わない感じのtrさんLoveです!!