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ランドルフ帝国帝都・グランドール―――
その王宮、各国の使節団に割り当てられた
一室で、二十名ほどの集団がテーブルを囲んで
座っていた。
「さーてと。じゃ、何から話し合うかねえ」
真っ赤な長髪の、いかにもな海賊風の衣装に
身を包んだアラサーの女性が、部下たちを前に
テーブルの上に足を投げ出す。
「正直、脅威としか言いようがありませんな」
「特にあの水中戦力―――
ゴーレムを操るのがさらにゴーレムと、
無人の兵器を実用化している」
「まだ高度な作戦が出来るとは思えませんが、
今後を考えると、我が連邦でも対応を研究した
方がよろしいかと」
ランドルフ帝国と辺境大陸連合の合同軍事演習を
目の当たりにした彼らは、
『あんなものに勝てるはずがない』という本音を
国家の重鎮としては隠しながらも……
最悪の事態に備えて頭をフル回転させていた。
「まあそこまで神経質にならなくてもいいだろ」
ドラセナ連邦のトップである女帝イヴレットは、
あっさりと楽観的に言ってのける。
「いやしかし」
「それは―――」
面と向かって反論も出来ずに、面々が戸惑って
いると、
「少なくともあちらさん、強硬策には出ない
だろうよ。
あれだけの戦力を持っているってんなら、
隠したまま突然攻め込む方がまだ効果的だ。
それを一応見せたって事は、その武力を背景に
けん制……
もしくは今後の国家間の交渉や商談を
有利にって腹なんだろう」
『なるほど』『確かに』と部下たちは
うなずき合い、
「それにあの軍事演習で見せたのが、
『全て』とは限らないわけですからな」
「まったく底が見えない。
辺境大陸の各国と国交を持った事は知って
おりましたが―――
予想外の技術、それに亜人・人外を組み込んだ
戦力となっている」
「あちらの技術者が亡命してきた事で、
帝国の各方面は一変したとも。
料理や生活面でも、多々それを実感します」
アストル・ムラトの亡命以降、確かに軍事を始め
娯楽や生活レベルも劇的に変化していたが、
それがウィンベル王国の一冒険者に
よるものとは、さすがの彼らも想像すら
出来ずにいた。
「そういえば面白い男がいたな。
今回の軍事演習の特別顧問とやら、らしいが」
『雷嵐を呼び起こす者』の異名を持つ彼女は、
あの演習を見せつけられたまま、帰る事を
良とせず、
警告とけん制を込めて、演習用の予備標的船に
それをぶつけていた。
「あれですか。
各国の度肝を抜いた―――」
「ですが、その男と何があったのですか?」
比較的若い、女性幹部たちが女帝に聞き返す。
「まだ海中に誰か残っているかも知れないから、
安全確認が取れるまで、と止めてきたんだ」
そこで部下たちは顔を見合わせ、
「そんな命知らずがいたのですか」
「ですが英断だと思われます。
もし死者でも出したら、問題になって
おりましたからな」
一行はその男の指示に従い、女帝イヴレットが
魔法の行使を止めた、と理解したが、
実際のところ彼女は、死者を出しても構わないと
思い、強行しようとしたのだ。
その方が恐怖を与えられるし、しかも先立って
皇帝マームードの縁戚であるティエラ王女様の
許可は取っている。
もちろんそれも女帝の計算の内であり、
それで抗議されようと、予めティエラ王女様の
許可は得たと言って、却って逆抗議する事まで
考えていたのである。
だが現実には、結局安全確認が取れてからの
発動となった。
「(魔法が発動しなかった。
魔力は感じたので、あったはずだ。
何者かかがアタシの魔法を封じ……
そしてご丁寧に、安全確認後戻してくれって
事かい。
そしてそんな事が出来たのは、シンと呼ばれた
あの男……!!)」
自分の思惑通りにいかなかった事と、さらに
魔法を封じる事が出来る人間がいるという事が、
思考を連邦のために別次元で突き動かしていた。
「まっ、そーゆーわけだから。
そいつをちょいと探ってくれ。
さてさて、と。
お待ちかね、あの軍用食ってのを食べて
みよーぜー」
女帝イヴレットの声と共に、テーブルの上に
各種の品物が従者の手によって運ばれる。
それは軍事演習後、各国にお披露目と売り込みが
行われたもので―――
保存性の高い携帯食がメインであり、
チョコレートバーやキャンディ、調味料として
味噌・醤油・めんつゆの類などもあったが、
干し柿などのドライフルーツ、魚の干物や
燻製などもあり、
その中でも特に目を引いたのが……
「これが即席麺と言われるものですか」
「お湯を注ぐだけで、あの麺類と同じものが
食べられるとか―――」
彼らが手にしているのは……
コップ状に薄い木の皮を丸めて作られた、
円筒形状の物体。
中身はすでに味付けされた麺と粉末スープ、
それに乾燥された肉や野菜などが入った―――
いわゆる『カップラーメン』であった。
シンから地球の知識を受け、ウィンベル王国の
王家直属の研究・開発機関が作ったもので、
今回の演習に間に合わせて納入していた。
もっともまだ技術的には未熟であり、保存期間は
せいぜい十五から二十日程度というシロモノで
あったが、
「……う、うまい!!」
「遠征、特に船での航行期間中の食事は、
パンと干し肉と塩スープくらいが
関の山でしたが」
「お湯さえ用意出来れば―――
船の上でもこんなものが食べられるのか……」
彼らは味に注目していたが、女帝は異なる目で
それを見る。
「(元はすごく軽い。
って事は、運搬出来る量が桁違いになる。
水は水魔法がありゃどうとでもなるし、
つまり、それまで食料に取られていた分、
詰め込める事になる)」
この世界、魔力さえあれば食事は生命維持に
必要ではないが、
軍人や船乗りたちには、身体強化を始めとして
魔法を常に使う事が望まれる。
その重量を削減する事が出来るのであれば、
という考えに彼女は達していた。
「しかしどうしますかねえ。
肝心の奴隷取り引きは先細りですし」
「この後、ランドルフ帝国とも交渉するので
しょうが……
女帝イヴレット様はどのようにお考えで」
合同軍事演習の観戦に連邦として使節団を
寄越したのは、むしろこちらが主題であり、
帝国が奴隷取り引きに後ろ向きになりつつある
現状を、どうにかして方針転換させられないかと
いう期待もあった。
だが、彼女の口から出てきた言葉に、幹部たちは
面喰う事になる。
「アタシとしては―――
連邦としては、奴隷取り引きを止めても
構わないと思っている」
「な!?」
「じょ、女帝、それは」
部下たちは次々と困惑した声を上げるが、
「まあ聞け。
ランドルフ帝国が奴隷に関して、いろいろと
緩和したり消極的になっているのは事実だ。
事実を無視して行動は出来ないだろ?」
「それはそうですが」
それでも幹部の一人が聞き返す。
「アタシのところには、奴隷の待遇は確かに
良くなったが……
奴隷制度そのものを否定しているわけじゃ
ないと報告が上がっている。
あくまでも期限付きで、いつか解放される
というのがキモだ。
逆に言えばそれさえクリアすりゃ、
まだ望みはあるってワケでさ」
今度は誰も口を挟まず、聞き入る姿勢を取る。
「それに、奴隷の需要だって無くなった
ワケじゃない。
いくら帝国として奴隷取り引きを忌避しても、
じゃあ今まで奴隷で成り立っていた分野は?
人手も労働力としても、奴隷無しじゃ
成り立たないところもあるだろう。
だからそこに先駆けて、ウチが手を付けよう
ってんだ」
「と、言われますと?」
幹部の1人がおずおずと問うと、
「だいたい奴隷ってのは、犯罪や連座制で
巻き込まれた連中を抜かしゃ、経済的理由で
なったヤツが多いだろ。
むしろ家族や身内のために、あえて自ら
奴隷として自分を売るヤツも多い。
そこが狙い目だ」
そして女帝は一息入れて、
「だから今後は、奴隷としてではなく
『労働力』として連れて行くんだ。
自分を奴隷として売りたくても、帝国まで行く
金も無いってヤツもいる。
その交通費をドラセナ連邦が肩代わり
するんだ。
そんで合法的に期限付きの労働力として、
提供・斡旋するってワケ」
「な、なるほど。
それにランドルフ帝国の奴隷待遇改善を
聞けば、そちらに行きたいという者も
出てくるでしょう」
「多少高くても、合法的に集めた経費込みですと
言えば、文句は言われないでしょうし」
幹部の面々は女帝イヴレットの提案に
賛同を示す。
「ですがそうなると―――
女子供は扱えなくなりますね」
「『労働力』というのは、さすがに無理が
ありますからな」
そこで部下たちは眉間にシワを寄せるが、
「まあそこも話してみようと思ってる。
子供は食事が必要だからな。
奴隷にもなれないんじゃ餓死するしかない。
何せ奴隷待遇改善をするような『お優しい』
国家が……
そんなかわいそうな子供たちを見捨てるなんて
ありませんよね♪ ってさ」
彼女は笑いながら語るが、事実それは深刻な
課題であり、奴隷にすらなれない子供は餓死か
犯罪に走るかの選択肢しかない。
この世界、奴隷はセーフティーネットとして
機能している部分は否めず―――
それを聞いた部下たちは苦笑し、ドラセナ連邦は
今後の交渉に向けて動き始めた。
「……ではこれより、大ライラック国として
今後どのように動けばいいか、
あの合同軍事演習を見た上での、諸君らの
所見を聞きたいと思う」
騎士らしき衣装に身を包んだ集団が、
ドラセナ連邦と同様、王宮の一角に与えられた
使節団向けの一室で―――
会合を開いていた。
リーダー格の男がまず各自に発言を促し、
それに対し配下らしき者の一人が口を開く。
「正直、亜人・人外との連携があれほどの
ものとは思いませんでした。
水上・空中まではまだわかりますが……
水中までとは」
「演習後、ワイバーンや魔狼に話を聞く事が
出来ましたが―――
彼らのほとんどが人の姿を保てるとの事」
「それはこちらも耳にしました。
中には、結婚している者もいると」
一人が呼び水となって、口々に感想を語り出す。
「あの戦力と相対した時、勝てるか?」
その場の主であろう男の言葉に、空気がいっそう
重くなった。
別にランドルフ帝国と敵対しているわけでは
ないが、国家の中枢は最悪の事態を想定する
義務がある。
やがて一人がおずおずと片手を挙げ、
「図らずも女帝イヴレットが対応策を示して
くれました。
あの雷嵐ですが、どうも女帝が突発的に
行おうとした事で、演習の予定には無かった
との事。
それで少しひと騒動あったようです」
「騒動?」
リーダー格の男が聞き返すと、
「はい。何でもあの時、女帝が魔法を使おうと
したところ、止めに入った者がいたそうで。
実はその時、まだ海中に誰も残っていないか
どうか、確認が取れていなかったらしく……
それで待ってもらったと」
それを聞いた他の配下たちも顔を見合わせ、
「なるほど。雷魔法は水に対し効果的だ」
「我が大ライラック国にも、その魔法の使い手は
それなりにいる。
彼らを水上戦力に加えれば」
「だが、強力な広範囲魔法は船の上では
禁じ手だぞ?
味方の被害を考えると―――」
口々に意見が飛び交う中、彼らの上司であろう
男が『ふむ』と一息吐いた事で中断され、
「であるならば遠距離、もしくは陸上から
水上に対する雷魔法で対抗は可能だろう。
ただ問題は、どうやって水中の敵を察知
するかだな。
闇雲に撃っても効果は薄い」
続けて、トップとしてその手段とデメリットを
洗い出し提示する。
「水中探索の方法は、帰国してから早急に
研究を開始しましょう。
ただ一朝一夕では無理でしょうな。
時間稼ぎが出来ればいいのですが」
それに呼応するように、配下の一人が上半身を
テーブルの上に押し出し、
「ランドルフ帝国の属領地域を……
裏から支援するのはどうでしょうか。
足元がぐらつくような事態になれば、
それなりに時間稼ぎは出来るかと」
だが、それを聞いたリーダー格の男は
首を横に振る。
「その事なのだがな。
今回の軍事演習観戦に、属領も呼んでいた
らしい。
さらに彼らに、属領自治を認める方針で
あるとも聞いた」
彼の言葉に、しばしの沈黙の後―――
理解した順から場はざわついた。
「自治を認めると?
それではランドルフ帝国は、属領の独立を
容認したのでしょうか」
同じ頃、ドラセナ連邦・大ライラック国と同様、
王宮の一角に与えられた使節団向けの一室で、
モンステラ聖皇国が、その使者のトップである
女性司祭らしき人間を中心に、状況把握と議論を
進めていた。
「いえ、あくまでも帝国の一部という事です。
ランドルフ帝国自治領として、ある程度の
自治権と裁量を与えると……
今回集めた属領の使者たちと、すでに詳細を
つめる交渉に入っているのだとか」
そこで他の階位の高そうな人間が、
補足するように説明する。
するとそれを聞いていた別の階位の者も、
「うまいやり方だと思います。
あれだけの軍事力を見せつけておきながら、
そこで自治権などの権利拡大を申し入れ
られては。
属領には現実的に敵対するだけの力は
無いでしょうし―――
受け入れるしかありません」
階位が最も高そうな女性司祭が首を傾げ、
「しかし、ランドルフ帝国は武力行使を辞さず、
周辺各国を侵略した覇権国家だったはずです。
それがなぜ、方針を変えたのでしょう?」
彼女の疑問に、下位と思われる者の一人が、
「今回の合同軍事演習ですが……
辺境大陸の各国との合同で行われております。
その辺境大陸では、獣人や亜人への差別は
ほとんど無く、非常に寛容であるとの噂が
あります。
そこと軍事同盟を結んだ以上、路線変更を
余儀なくされたのではないでしょうか」
彼の説明に、それぞれの階位の者たちが
うなずき合う。
「もしそれが本当であれば、非常に喜ばしい
事です。
ドラセナ連邦も大ライラック国も非常に
好戦的な国ゆえ、その対応に頭を痛めて
いたのですが。
ランドルフ帝国だけでも慈悲の心に目覚め、
やがて各国もそれに倣い―――
いずれ各国が、我がモンステラ聖皇国の教えに
従い、心穏やかに暮らすようになれば……
真の平和が訪れるでありましょう」
実際のところ、聖皇国も宗教の違いから
布教という名の下に周辺勢力を抑圧して
いるのだが、彼らにその自覚は無く―――
それだけに質が悪かったのだが、それが
善行だと信じている一行は話を続け、
「それと、白翼族でしたか。
あの方々はぜひ、モンステラ聖皇国に
招聘しなければなりません。
あの神々しいお姿こそは、神の御使い……!
出来れば、天人族も」
やはりというか、背中に真っ白な翼を背負った
白翼族たちは、宗教関係者からするとどうしても
天使、神の使いに見えてしまうのは仕方なく。
「はい。すでにランドルフ帝国に申し入れを
行っております。
可能ならば、あの方々に今回の使節団に
同行して頂き―――
聖皇国を一目見てもらいたいものです」
その言葉に、階位の上下なく彼らは
うなずき合う。
「交易の件についてはどうしましょうか?」
「そちらも可能な限り進めましょう。
我が国の料理に似たようなものも多数見られ
ますが、ボーロや麺類、天ぷらやフライなど、
初めて見るものも見受けられます」
地球では宗教上、食事の制約が付く事が多く
あるが、異世界では食事が必須ではない事も
相まって、さほど問題視されておらず、
特に甘味は各国ともに大人気であり……
チョコの原料であるカカオや、砂糖になる
メープルシロップの苗木、甜菜などは大量に
購入される事となった。
「そういえば、アウリス様との連絡は?」
「一応、連絡はついているはずですが」
女性司祭らしき人物は、少しうつむいて、
「あの方も、いい加減我が国に戻って来て
頂ければ良いのですが」
「各地で見分を広げるとおっしゃっておられ
ましたけど、
ここまでの変化があると―――
わがままを言ってもらっては困ります
からねえ」
ため息とも呆れが半々の声が交わされ、
「確か帝都グランドールにある、冒険者ギルドに
潜んでおられるんですよね?
白翼族の方々を招聘出来ましたらぜひとも、
あの方にも会って頂きたいものです。
大精霊様に愛されたエルフ族として……」
「あのう、もしお会いする見通しが無いの
でしたら、私が行ってきましょうか?
冒険者に扮して、直接訪問する手もあります」
彼の提案に各自はうんうんとうなずき、
「お願いします。
それも想定した上で、あなたを使節団の一員に
加えたのですから。
アウリス様はそこで、『ベッセル』という
名前で過ごしておられるはずです」
そこでモンステラ聖皇国の会議は一段落し、
それぞれが次の行動に入る事となった。
「いやぁ~、まさか生魚がこれほど
美味しいなんて。
生きててよかったなぁ~……♪」
合同軍事演習から数日後―――
中肉中背で目付きの鋭い、シルバーの短髪の
男性……
ベッセルギルドマスターが、私の前で海鮮丼に
舌鼓を打っている。
ここに来たのはエードラム君に会うためで、
彼の父親であるモンド伯爵主催の元……
『神前戦闘』を開催して
もらったからだ。
今回の合同軍事演習に合わせ、亜人筆頭の
獣人族のイメージアップと扱い改善を各国に
考えてもらう目的で、
元・闇闘技場であった地下施設でそれを
行ったのだが、その反応を確認したかった
のである。
ただ肝心のエードラム君は、お土産である
食材を渡した途端、それを見て目を輝かせた
クエリーさんに厨房に拉致されてしまい、
さらに『万能冒険者が新たな素材と料理を持って
来たぞー!!』という声がギルド内に広まって、
仕方なくその嵐が通り過ぎるのを、
ギルドマスターの部屋で待つ事になった。
「でもまあ、シン。
『神前戦闘』は帝都でも大好評だったって
聞いているよー」
「映像記録用の魔導具や、演出を惜しげも無く
使いまくったのであろう?」
アジアンチックな童顔の妻と、西洋風の
プロポーションを持つ妻がフォローしてくれる。
(ラッチはティエラ王女様に預けてきた)
「そうそう、それ!!
自分も見たけどあれはすごかった!
選手入場に合わせた音楽、あと魔導具による
光があちこち飛び交ってもう何ていうか―――
いやー、演劇とか見世物とか、興行が一変
するよアレは!!」
丼を頬張りながらギルドマスターは熱弁する。
「ベッセルギルド長、何も食べながらで
なくても。
少し落ち着かれては」
受付嬢であるカティアさんがたしなめるが、
「そういうカティアさんも食べながらだけど?」
「だってこのチョコレートパフェって
美味し過ぎるんですもの。
止められない止まらない」
メルのツッコミに、受付嬢は真顔で食事を
継続しながら返す。
「甘いクリームに、各種フルーツ……
そこにほろ苦いチョコレートを加えた、
恐らくこの世界では最高級のスイーツで
あろうのう。
同じ女として気持ちはわかるぞ」
呆れながらも、アルテリーゼも同調する。
「ところで、後どれくらい帝国には滞在して
いるんだい?」
ギルドマスターが話を変え、私に問う。
「『神前戦闘』の興行が終わるまではいますよ。
一応、合同軍事演習が終わった今―――
割と時間は自由に取れていますので」
私はそう答えるが、ウィンベル王国始め
連合各国は今頃、クアートル大陸の各国と
交易やら何やらで交渉を重ねているだろう。
ただ平民である私が介入出来る事はあまり無く、
そういう意味では久しぶりに自由行動が取れて
いたのだ。
「なるほどなるほど。
じゃあ、また冒険者ギルドの厨房で、
新しい料理を教えてくれないか?」
「まあ、滞在している間であれば」
そう私が答えかけたところ、ノックの音が響き、
「?? 誰ですか?
来客の予定は無かったはずですが……
エードラムさん?」
カティアさんがドアの方へと向かう。
私も彼が直接訪ねて来たのかな、と思って
いると、
「君は―――」
「お久しぶりです、ベッセル様」
顔見知りだったのか、ギルド長がその人物の
顔を見て口を開く。
しかし現れた彼は細身で、あまり冒険者には
見えない。
攻撃魔法タイプという事もあり得るけど。
二十代半ばに見える青年は、当たり前のように
室内に入って来てベッセルさんと対峙し、
「連絡が行ったはずですが、返事がありません
でしたので、こうして参りました次第」
「だからねえ、急には無理なんだよ。
自分はこの冒険者ギルドのギルドマスター
なんだから……
そうおいそれと簡単には動けないんだって」
どうも無理難題というか、無茶な依頼でも
持って来たのだろうか。
ベッセルさんは消極的に対応し、
「そう仰ると予想されたので、私が派遣されたの
でしょう。
いい加減、一度は『戻って』頂きますよ」
そう言うと彼は片手を挙げ、何か精神を
集中させるような感じとなる。
「シン! 魔法を使い始めたよ!」
「気をつけるのじゃ!」
メルとアルテリーゼが警戒態勢に入る。
「く……!
まさか、無理やり連れて行く気か!?」
「何度も要請したのに―――
断ったのはベッセル様でしょう」
そうやり取りする間にも、室内の空気は震え、
魔法を行使しているであろう彼の背後の、
『空間』が歪み始める。
「これ……まさか、『ゲート』?」
「空間転移系の魔法か?
よもや、人間で使える者がいるとは」
妻二人は冷静に分析するが、
「今回ばかりは観念してもらいますよ、
ベッセル様。
あなたの『自分だけの世界』も、
転移魔法には対抗出来ないでしょう?
文句なら向こうでゆっくりと、
お聞きしますので……」
「ベ、ベッセルギルド長!!」
カティアさんが慌てふためく。
あれ? ちょっと待って。
これ、ランドルフ帝国のギルドマスターが
誘拐されようとしているのか?
そして現場に残ったのは私たち―――
ウィンベル王国の者で……
つまり容疑者最有力候補になってしまう
事になる。
最悪、国家間の問題に発展するんじゃ?
そこまで考えた私は無意識に小声で、
「長距離、もしくは空間を移転する魔法・
手段など、
・・・・・
あり得ない」
そうつぶやくと、訪問者の背後に開きつつあった
空間の穴が消滅し、
「えっ!?」
彼は慌てて背後やその周囲を確認するように
見渡すが、
「あの、落ち着いてください。
当人の意思の確認も取らずに、というのは
ちょっと乱暴過ぎるのでは。
それに、国外に勝手に連れ出したりしたと
なると―――
国際問題になるんじゃないですかね?」
「……う、いや……」
彼はこちらの説得というより、魔法が
無効化されたについて困惑しているよう
だったが、
「まー座って座って」
「それに、各国が合同軍事演習で集まって
おるのだぞ?
物騒な真似は止めた方がよい」
そう言ってメルとアルテリーゼが彼を
ソファに座らせ―――
改めて話し合いの場が持たれる事となった。