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「どうやら、本当に解毒薬みたいですね」
「当然だ。さすがの俺も、弟を殺したりはしない」
「毒を盛ったのに?」
「それくらいは、どの国でもよくある話だろう?殺さなかっただけ、まだマシな方だ」
「そうですね…」
クルト王子がリアムを見ている。
まさか解毒させておいて、手をかけるようなことはしないだろうけど…気にはなる。
僕がリアムの口の中に黒い薬を押し込むと、ゼノが水を飲ませた。
リアムの喉が動き、上手く飲み込んだことを確認して安堵の息を吐く。
リアムがゆっくりと息を吐き出し「兄上」とクルト王子を呼ぶ。
クルト王子はその場を動かずに答えた。
「なんだ」
「俺を…嵌めたのに、なぜ、今は…助けようとするのか」
「ふん、おまえに死なれたら、おまえを推す奴らが騒ぐだろ。それはそれで面倒だ。だからこの男が、おまえを連れ出すことに協力しようと思った。リアム、おまえは恋人と暮らすことが、一番の願いなのだろう?」
「そうだ…」
「その願いを叶えてやる。王都を出て、この男とどこかの田舎で暮らせ。二度と王都に戻ってくるな。ならばおまえ達を逃がしてやる。追っ手もかけない」
「しかし…父上が…黙ってはいない」
「問題ない。イヴァル帝国の王が代わるように、バイロン国の王も代わる。父上はなにもできぬ」
ゼノが「えっ」と声に出して驚き、僕も再び振り向きクルト王子を見上げた。
「王が代わるとは…どういうことですか?王の身になにか?」
「俺に対して能無しだの役立たずだのとうるさくてな。リアムに飲ませたのと同じ毒を、酒に混ぜておいた。少々効きすぎたらしく、寝込んでしまわれたよ。言葉もままならないから、今日にでも次の王が決まる。リアムがいなくなれば、俺しかいないだろう?」
「王になんということをっ」
「死にはしない。それに手厚く看病もしてやる。それでいいじゃないか、ゼノ」
「…俺は口を挟む立場ではありませんが。クルト王子、国を良くしてくださいますか?」
一瞬、クルト王子が黙る。しかし次の瞬間、今まで見たことのない真剣な顔つきになって、はっきりと口にする。
「当然だ。国内だけではない。他国との争いも避け、我が国発展のために交流を盛んにしたい。…おい、イヴァルの前王よ、貴様に誓おう。バイロンは今後一切、イヴァルに攻め込まぬ」
「クルト王子…ありがとうございます」
僕はクルト王子を見つめ、頭を下げた。
今のクルト王子は信用できる。これまでは濁ったような目をしていたけど、今は澱みのないキレイな目をしている。どうかバイロン国の民を幸せにしてほしい。そしてネロとも、友好関係を築いてほしい。
「イヴァルの新王と、仲良くしてあげてください。あなたも知ってる方ですよ」
「なに?」
クルト王子の顔に動揺が走る。
僕は笑って頷くと、リアムに顔を寄せた。
「リアム、気分はどう?」
「手足の痺れが治まってきた…。目も回らない」
「動けそう?」
「ああ、大丈夫だ」
そう言って、リアムがゆっくりと起き上がり、ベッドから降りて立つ。少しふらついたけど、ベッドの周りを数回歩いてもう一度「大丈夫だ」と言った。
僕はたまらずリアムに抱きついた。
リアムも僕を抱きしめ返して、背中を撫でる。
「よかった…」
「心配かけたな。もう大丈夫だ」
「リアム…本当にいいの?もうこの城には戻れなくなるけど、僕と行ってくれる?」
「フィーよりも大切なものなどない。二度と放さないからな」
「うん…」
ずっと一緒だよ。僕が死ぬまでの間は。
心の中でそう答える。
ゼノが棚の中からシャツとズボンと上着を出して、ベッドの上に置く。
「ではリアム様、着替えてください。その間に、俺はリアム様の部屋から荷物を持ってきます」
「待て」
急いで出て行こうとするゼノを、クルト王子が止める。
「リアムの荷物なら、そこにまとめて置いてある。おまえ達が来ると予想した時から、用意してある。感謝しろ」
「え…?ありがとうございます…」
クルト王子が顎で指し示した場所に、大きな四角いカバンがあった。カバンの上に、リアムの剣もある。
僕は、まだ少し動きの鈍いリアムの着替えを手伝った。
「フィー、ありがとう」と笑うリアムに、僕の胸に好きが溢れる。それと同時に、少し痛みも感じた。胸が痛い。胸だけじゃない。背中も腕も。これはたぶん、痣が出ている場所全てだ。いよいよ…なのかもしれない。
僕の表情が曇ったのだろう。
リアムが僕の頬に触れて、心配そうに覗き込んできた。
「どうした?ここに来るまでに、どこか怪我でもしたか?」
「…ううん、少し疲れただけ。でもリアムと会えたから、元気になったよ」
「そう?何かあれば、すぐに言えよ?」
「うん、ありがとう」
僕は笑った。病み上がりのリアムに、心配かけさせちゃダメじゃないか。まだ大丈夫。我慢できる。とにかく早くここを出よう。
しかしラズールは騙せない。
僕の手を取り、じっと目を見つめてくる。
「なに?大丈夫だから」
「本当に?俺の背中に乗りますか?」
「何言ってるの。歩くよ。ラズールは荷物を持ってよ」
「…フィル様」
「しつこくするなら、置いていくよ」
「…すいません」
ラズールが僕から離れ、荷物に手を伸ばす前に、ゼノが荷物を持った。
「俺が持つから大丈夫だ。ラズール殿は、リアム様とフィル様の護衛を頼む」
「わかった」
「では急ぎましょう」と部屋を出るゼノに向かって、クルト王子が声をかける。
「そんなに慌てなくてもいい。誰もおまえ達を追ったりはしない。この建物から門まで、誰も近づかないよう命じてある。まだリアムは早く歩けないだろう。ゆっくりと進んで大丈夫だ」
「俺は…はっきり言って、まだあなたのことを信用できません。だが今は、あなたの言葉に縋るしかない。無事に王都を出た後、俺はリアム様について行きます。でも、もしも力が必要な時は呼んでください。すぐに駆けつけます」
「…そうか。期待しているぞ」
「はい…」