「もうやめてほしい」そう言われるんやと思っていた。でも、阿部ちゃんの口から出た言葉は全く違くて。
阿部「ごめん」
康二「……え?」
なんで阿部ちゃんが謝ってるのか、わからんかった。阿部ちゃんは本当に申し訳なさそうな顔をしていて、何回も、何回も謝っていた。
阿部「俺、康二が蓮のこと好きなの気付いてたのに」
”蓮”呼びに胸が苦しくなる。ずっとめめやったのに。めめがそう呼んで欲しいって言ったんかな、想像すると苦しくて、やめた。
阿部「どうしても好きで…っ」
きっとめめは優しいから俺を振ったことを話してないんや。どうなってもきっと、めめは阿部ちゃんを選んだはずやのに。
選ばれたのに泣いている。なんで怒らないのか。なんで泣いてるのか。わからんかって。
……本当に?
めめを諦めきれなくて、みんなに迷惑かけて。阿部ちゃんを苦しませて、泣かせているのは。
ぜんぶ、全部俺や。
途端に自分が凄く惨めに感じて、耐えられなくなって。
康二「……何なんよ」
違う、こんなこと言いたいんやない。
阿部「康二、」
康二「もう出てってや!」
気持ちとは裏腹に声はどんどん大きくなって。阿部ちゃんの顔なんて見れやしなかった。
惨めで、自分が最低で、気持ち悪い。
康二「阿部ちゃんなんか、」
ダメや。これだけは言ったらあかん。こんなこと思ってない。取り返しのつかない事になってしまう。
康二「阿部ちゃんなんか、大っ嫌いや……っ」
がたん、よろけて机にぶつかる音。その音でハッと我に返る。
康二「ぁ、ちが…っ」
顔を上げると、傷ついた、顔。ちがう、こんな顔させたかった訳じゃない、俺は、俺は……
もう何も分からなくなって、リビングに阿部ちゃんを残して外へと走った。何から逃げているのかも、何処へ行くのかもわからない。ただただ走った。
ずっと走っていると流石に体力の限界が来て、地面にしゃがみこむ。冬の始まりを感じさせる寒さに少し身震いする。持ち物はポケットに入っていたスマホだけ。
康二「ごめん……ごめんな…さい……っ」
誰にも届かないのに。大切な人を傷つけて逃げてきたのに。涙に後悔が溶けてこぼれ落ちる。
暫くそうやって泣いていた。沈みかけていた夕陽が落ちて、空が暗闇を連れてきた頃。後ろから声をかけられた。
ラウ「康二くん……?」
振り向くと、買い物袋を下げたラウールが立っていて。隣にはふっかさんもおった。
深澤「こんな所で何してんの?」
康二「……別に、なんも」
道端に座り込んで何も無いって言うのもおかしいけれど、そんなこと気にできるような状態じゃなかった。
深澤「何もなくないでしょ、はい連行〜」
そう言ってラウと2人で俺の腕をがっしり掴んで引きずられる。直ぐに家に連れていかれて。
康二「あの………ほんまなんでもないです、から」
ラウ「ごちゃごちゃ言わなーい」
強引に家に入らされ座らされる。2人は鍋パするつもりだったのか鍋の準備をし始めて。
キッチンから2人の楽しそうな声が聞こえてくる中、リビングに1人正座する俺。どうしたらいいのか分からなくて、ただただ待っていた。
ラウ「康二くーん、ちょっと手伝って〜」
暫く正座していると声をかけられて。立とうとすると足が痺れていてよろけてしまう。
深澤「大丈夫かっ」
2人とも笑いながら支えてくれて。そのままキッチンへと向かった。
※
割とすぐに鍋の準備ができて、みんなで食べることになった。
ラウ「いただきまーす!」
深澤「うまっ」
ラウ「あ、ちょっとフライングずるいー!……うまっ」
2人が楽しそうに鍋をつついている中、俺は何も口にできなかった。罪悪感と、何を聞かれるんだろうという緊張感。
胃がキリキリと傷んで、苦しい。
深澤「おーい、お前も食えよ〜?」
食べる気になんてなれなかった。暖かい部屋の中で、俺だけが冷たい空気を纏っているみたいに手足の先は震えていて。
康二「……なんで、俺のこと連れてきたん」
ラウ「………はぁ〜〜〜??」
楽しそうに食べていたラウの手が止まって、少し苛立ったような声が返ってくる。
ラウ「泣いてるメンバー置いて行くわけないでしょ!ばか!」
そう言って頬を膨らましている。本気で怒っているわけでは無さそうだけど、俺にこの空気は耐えられなくて。
康二「放っといてくれたらよかったんに……っ」
そう言った瞬間、頬に鋭い痛みが走る。
深澤「それ本気で言ってんの?」
隣にいたふっかさんに頬をつねられていて。すぐに離してくれたけど痛い。何も答えられない俺に、優しく語りかけてくれた。
深澤「……あのさぁ、俺全然事情わかんないけどさ、流石にメンバーがこんな事になっちゃってるのは放っておけないわけ」
3人の問題ってことはわかってんだよ?と、いつもより数段優しい声色で言うふっかさん。
深澤「でも、なんかその……頼ってほしいというか、うん」
ラウ「ふっかさんがいいこと言ってる……」
深澤「だぁーー!!なんか俺こういうキャラじゃねぇ!」
1人で暴れているふっかさん。呆気に取られている俺の手をラウがそっと握ってくれた。
ラウ「……なんかあったんでしょ?」
抑えていた感情が涙に変換されて、溢れ出て止まらなくなる。
康二「……おれ、俺阿部ちゃんに…っ」
阿部ちゃんに、酷いこと言ったんよ。阿部ちゃんを、傷つけてしもたんよ。自分勝手な感情で、勝手なこと言って、逃げてきたんよ。
康二「謝りたい…っ」
その後は大泣きしてしもて、何も事情は伝わらなかったと思うけど、2人は相槌を打ちながら聞いてくれていて。
その日はそのままふっかさん家に泊まることになった。
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作者様に出会えて光栄です! 続き楽しみに待ってます!🧡
フォローしました! 続きめっちゃ待ってます!