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〜想い〜
仁人ver
「おーい、仁人」
後ろから絡んでくる甘ったるい声。
急に背中からぎゅっと抱きつかれた腕の温もりだけでも、胸が痛くなる。
「やめろって」
これ以上の触れ合いは、苦しいだけなのだと。
そう言い聞かせていかなければ、この想いは何処に届ければ良いのか分からなかった。
今日はグループでの収録。歌番組でのパフォーマンスに、汗ばむメンバー。そうして、そのまま楽屋に入っていく。次の仕事に行かなければならない。俺はラジオの収録がある。勇人はそのままドラマ撮影に入る予定であった。最近、本当に仕事に恵まれていて、様々な仕事を経験させてもらっている。その中で、俳優業も目まぐるしくこなす勇人の姿は、何度見ても尊敬している。
「なんだよ、仁人、大丈夫か?」
「いや、だからくっつくなよ」
構うのは、もうやめて欲しいのだ。前々から、勇人は俺を甘やかしている。勿論歳は上だけど、リーダーとしてまとめているのは俺であるわけで。周りのメンバーにも「また2人のいちゃいちゃ?」と見られる年齢でもない。20代も半ば過ぎて、若いノリでくっつかれても、困ってしまう。
そしてもう一つ。最近勇人の存在が遠く感じてしまうのだ。仕事も忙しくて、以前よりも一緒にいる時間が極端に減ってしまっている。何よりもグループを大事にし続けてくれていた勇人に、そんな女々しい気持ちなんて気づいてほしくない。もしかしたら、これが「寂しい」という感情なのか。理解を受け入れたら、そのまま深い闇に呑まれそうで怖かった。
「最近遊べねぇから」
「忙しいことはありがたいことでしょ」
俺の言葉に勇人も被せてくる。
「勿論感謝してるよ
でも、昔の生活も懐かしいよ」
年始はそれぞれの家族で過ごすことを大事にしながら、それでも年末や長期休みはグループ5人でわいわいやってたし。普段のオフの日は、ドライブしたり、家でゲームしたり、たわいもない時間が本当に楽しかったのだ。でも大人になれば、そんな遊びも段々と変化していくものなのだと。それぞれが好きなこと、夢中になること、大切にしたいこと、が見つかっていく。
特に勇人といる時間は長過ぎて、自分にとっては思ってた以上に、勇人の存在が俺自身を支えてくれていたことに、気がついてしまった。
「仁人」
そう呼んでもらえる度に、安心感と、ちょっとしたくすぐったさが、心地いい。だからこそ、『自覚』してしまったのだ。それが、ただの仲間ではない、自分にとって大事な人になっていたことに。
「ほら、忙しいんだから、早く行きなさい」
これはリーダーとしての言葉。
「はーい…そうしますよ
みんなおつかれー」
そうして、勇人は衣装を脱いだだけで、すぐに着替えて私物をまとめて、一番に楽屋の扉に手をかける。
『ほんとうはふたりでいっしょにいたい』
これは知られてはいけない本音の想い。
この気持ちは心の奥底の箱に鍵をかけてしまっておくべきものなのだ。
「次は、PV撮影んとき、よろしくな」
またな、と空いた扉がばたんと閉じて、勇人の姿がいなくなり、胸の奥がちくりと苦しくなった。
勇人ver
「おーい、仁人」
いつものように、背中から抱きついて、少しでも仁人に触れられたら、傍にいられたら、と思うのは俺の我儘なんだろうな。
「やめろって」
案の定掴んだ背中は直ぐに肩を竦められ、逃げられてしまった。きっと、これは、俺だけが秘めていかなければならない想い。いつからだろう。仁人のことが大切な存在で、離れたくないと思うようになったのは。
「なんだよ、仁人、大丈夫か?」
ありきたりな言葉しか掛けられない自分がもどかしい。仁人にとってみれば、俺は少し年上の兄貴みたいな存在なんだろう。勿論グループとして歌でもダンスでも、メンバーの精神的な面でも支えてくれたのは彼なわけで。それはよく理解しているつもりである。だからこそ、このグループを知ってほしくてM!LKを何より大事にしてきたのだ。
「いや、だからくっつくなって」
ここ1年の変化が目まぐるしい。俺だって日々のメンバーの活躍が本当に嬉しいのだ。でも、仁人は好調な今だからこそ、考え深く、先のことを見据えて不安になることもあるんだと思う。そして、今までより一緒にいられる時間が、ますます少なくなってしまった。仕事のことを考えながら、でも、ふと前みたいに仁人と馬鹿騒ぎして、ちょっとやんちゃして、そんな楽しかった昔を思い出して、少し胸が痛むのは、俺だけなのだと、自覚すればするほど余計苦しくなる。
「最近遊べねぇから」
思わず本音が出てしまった後に、今更何を言っているんだと、浅はかだったと思ってしまう。
「忙しいことはありがたいことでしょ」
そんな俺の焦りには気付いていないのか、興味もないのか。今、グループとして、現状としての忙しさは、目指したものなのだから。
「勿論感謝してるよ
でも、昔の生活も懐かしいよ」
みんなで頑張って来たからこその今があるのは分かっている。でも、あたりまえに近くにいた存在が、どんどん離れていってしまっていることに、焦燥感を隠しきれない。
「ほら、忙しいんだから早く行きなさい、」
仁人が掛けてくれる声はどこか掠れて、でも心地いい。
「仁人」
「なに、勇人」
目があった途端、思わず呼んでしまった名前。ああ、やっぱりこの声が心地いい。
『ほんとうはふたりでいっしょにいたい』
もしそんなこと俺が言ったら、仁人はどんなを表情をするのだろう。触れてみたくて、声が聞きたくて、傍にいてほしくて。でもこの想いは自分のエゴを押し付けているだけなのだと。そう思い込ませることで隠していくしかない。この関係が壊れてはいけないのだ。
「次は、PV撮影んとき、よろしくな」
動揺をみせるのは柄じゃない。現場に私情を持ち込むほど子どもでもない。一度だけゆっくりを息を吐いてから、扉に手を掛けた。
コメント
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寺島あおいです🌷 読ませていただきました…「ほんとうはふたりでいっしょにいたい」——この一言が両方の視点で出てくるのが、本当に胸に刺さりました。お互いに同じ想いを抱えているのに、すれ違ってしまうもどかしさに切なくなりました。特に仁人さんの「触れ合いは苦しいだけ」という台詞に、恋する者の複雑な心理がよく出ていて…続きがとても気になります。