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PIECE COLLECTOR

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22

第22話

2022年12月16日

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【第二十二話】





それから毎日が慌しかった。

大学院を辞め、俺は寝る間を惜しんで事を進めた。


施設を作るにあたっての事務処理…

選りすぐった人選や役所とのやりとり…


今まで無気力で興味すら沸かなかった親の遺産の使い道も

あれこれと運用する様になってソレの扱いに困り果てていたが

これを気に父の書斎を漁り、見つけたファイルで初めて方々に連絡した。

連絡も途絶え、途方にくれていたらしいお抱え弁護士達も喜んでくれた様だ。


急に現れては指示をして何かと急かす俺を

訝しがってはいたが

お金の使い先を言い、その事への熱意を伝え、

その事業を手伝う事に彼らのメリットをつけて話すと


(施設の建物に彼らの所属する事務所のプレートを掲げる事で

後々社会に独立していくだろう彼らを未来の顧客にしようと言う

思惑なのか、孤児を引き取りに来た‘余裕のある階級’の人間との

橋渡しを狙っての事だと予測されるが、それは互いにメリットのある事なので

そういった意味でも良い出会いと言えるだろう)


彼らはこの事業を前向きに薦めてくれた。

そしてその弁護士事務所がスポンサーの一つとして名を上げるという事が

評判になっていたのか、色んな企業がこの事業に参加する事を申し出てくれた。

そしてかつて父と馴染みがあった政治家達も…


いや、それは明らかな売名行為というか…イメージアップを狙っての事だろうが

それでも手を差し伸べてくれるのはありがたかった。

俺はいつまでこうしていられるか…分からないのだから…


研究の合間を縫って遺産を株式投資で増やしては

その全てを施設に振り込んだ。

そうして子供達が保護され、今まで路上に溢れていた

物乞い達の姿も見なくなった。


大人にはひと時の宿と手に職を…

子供には自立出来るまでの教育と…宿と食事…

そして職員達の愛情を…


彼女の望むままに…彼女の望むように…


事業はどんどん膨れて俺の手を離れても進んで行ける様な

状態になり、俺は元の静かな生活に戻ろうとしたが

フィオナはその施設の様子が気になるのか…毎日視察に出かけるもので…

彼女から離れていられない俺は、結局毎日施設めぐりをする羽目になった。


特に彼女は何をする訳でもないのだが…子供達と遊びまわったり…

彼らの悩みを聞いたり…


それが原因か子供達はフィオナを慕った。

まるで自分の母親の様に…彼女もまた、母親の様に彼らを褒め…叱った。


彼らに対して俺は特に何の感情も持っていなかったが

俺の元へ掛けてきて「ありがとう」と微笑んでくれる度に

胸が熱くなるのを感じ、彼らの頭をそっと撫ぜた。


されるがまま俺の手の感触を味わうように気持ち良さそうな顔をして

頭を撫ぜられている、その彼らを見ていて俺は思わず

「ありがとう」と言っていた。


「嬉しいと思ってくれてありがとう。

喜んでくれてありがとう。

この手にそのぬくもりを分けてくれてありがとう。

皆が生まれて出会えた事が…とても嬉しい」


自分でもどうしてそんな事を言ったのか分からない。

でもそう言うと心がすっきりしたからこの気持ちは俺の中に

在った物なんだろう。


彼らはいつも余り話しかけない俺がいきなり

こんな事を言って驚いたのか、しばらく固まっていたが

涙をぽろぽろと零し、足にしがみ付いてきたので俺は何か

酷い事を言ったのかも知れない…と言う話をフィオナにすると


彼女はとても嬉しい顔をして俺に「ありがとう」と言った。


彼女が微笑み、俺に言う「ありがとう」が

俺の心を高揚させ、この上ない幸福をもたらした。


それを得る為なら全てを投げ出したって構わなかった。

この快楽に変わるものなど何も無い!そう思った。

快楽主義者の血は払拭できないのか…俺は狂ってしまったかの様に

彼女の「ありがとう」を求め奔走した。


俺は全てをつぎ込む様に施設を次々建てようとした…

が…


「自分の今後の生活の為にも置いておかないと…」

そう眉間に皺を寄せ、俺を心配する彼女に

「自分の事なんてもうどうでも良いよ…君さえ幸せなら…」

そう言う俺の首に手を掛けそっと額に自分の額を付け

「だったら…二人の今後の生活の為に…だったら…?」


俺の手を握り、頬を赤らめそう言う彼女…

その姿に俺は…どうする事も出来ない胸の熱さに

黙って焦がされるしかなかった。


「どうか俺と…結婚……」

「…っえ!今、何て言ったの?」

「……何も無い。幸せだって言っただけだよ。」



俺の生涯をかけたパートナーに…

ずっと君と…差さえあって…笑いあって…

喧嘩して……仲直りして…そしていつしか子供を…


一生そうして過ごせたら…きっとこれ以上無く

幸せなんだろう…


でもそれは……俺の儚い夢…


彼女と出逢って‘生’というモノの

価値が分かれば分かる程、俺は今まで散らせてきた

何十人もの命の重みを知る事になる。

俺が殺した彼らだって…幸せになりたかっただろうに…


そう思うと尚の事…

許されない…許されるべきではない…


例えば彼女が…フィオナが誰かに殺されてしまったとして…

俺はどうするだろう…と言うと…

生きてはいられないだろう…そして俺からその幸せを奪った犯人を

決して…生かしては置けないだろう…


俺はいずれ…例え自首したとしてその罪が赦される事は無いと思う。

自分からも…世間からも赦される事が無いまま

…きっと塀の中で死を迎える事になる。…

それは良い。俺が歩いてきた道だ。当然の報いなんだ…


でも…俺は彼女に自分のしでかした汚名を共に背負わせ

輝かしい一生を…犯人を隠匿した共犯者として…

殺人鬼の妻として…暗黒のレッテルをつけて

修羅の道を歩ませる…のか…?


プロポーズなんて出来る訳も無い…

永遠なんて望める立場じゃない…

だったらさっさと自首してしまえばいいものを…


そうすれば彼女と離れなくてはならない…

それが…どうしても耐え難い…


どうして愛してしまったのだろう…

どうして生かしてしまったのだろう…

あの時、引き金さえ引いていれば俺はこんなに

愛に焦がされ、引き裂かれ…身もだえする事も無かったのに…


彼女は俺にとってまさに空けてはならないパンドラの箱だった。

こんなにも甘美なものが入っていたなんて!

こんなにも強い毒薬が入っていたなんて!


喜びと激痛が合間見える胸の中…

血の滴るその想いを得ても尚…想うのだ…


…彼女と居るこの時間よりも…

勝るものなど何処にもない…と…

麻薬の様なその言葉に…触感に…香りに…

俺はもう…愚かに滅んでしまっても構わない…と。


俺は彼女に毎日「何が欲しい」と聞く

彼女は俺に「貴方との永遠の絆…」と言う。

「永遠の絆とは何か?」と問うと彼女は

「貴方の伴侶としての揺ぎ無い確証と…二人の子供…」


そう言う彼女に

ソレばっかりは与えてやれない…と首を振る度に

彼女は悲しい顔をして頷いた。


永遠の絆…そんなもの…赦されるなら…俺だって…

二人の子孫なんて…そんなもの…赦されるなら…


彼女がそれで幸せな道を歩めると言うなら

悪魔にこの身を売ってでも欲しいさ…

たとえ俺の耐え難い苦痛と引き換えだったとして

俺は何を迷う事があるだろうか…


でもきっと茨の道を歩ませる事など想像にたやすい。

そんな事…俺には出来ない。

この愛しい人をそんな目になど…


そう思ってはいても酒を飲むたび俺は無意識に彼女に結婚を乞う…

幸せにしたい…と…家庭を二人で作りたいと…

ソレこそが俺の幸せだと…俺の幸せが自分の幸せだと言ってくれるなら

どうか…どうか!俺と…


でも酔いつぶれてベッドで目が覚める度に否定する羽目になる…その度に彼女を失望した顔にさせた。


罪深い俺に振り回された彼女の気持ちを思うと

居たたまれなくなって俺は何度も彼女に別れを告げ

彼女はその度に‘私はもう不要なの?’と泣いた。


不要だなんて…思いたいさ。

必要で必要で困ってるんだ。

君との永遠が欲しくて苦しいんだ…

君の幸せが欲しくて…二人の生きた証を残したくて…


俺は狂ってしまいそうなんだよ…なんて事、きっと

君には分からないんだろうな…俺の表情も言葉も余りに乏しいから…。


【続く】

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