サイド リオ
俺がこのバイトを始めたのは一ヵ月ほど前のことだっだっす。
時給がいいのと、成果を上げれば上げるほど給料が多くなるから違法だと分かっても必死に取り組んだ。
だけど、俺は成果を上げ過ぎたんすね、きっと。そのせいで上から目を付けられた。
警察を呼んだのも、ここに俺を向かわせたのも、全部俺を警察に突き出すため。
なら、逆にこっちが警察に突き出してやる。
「用済みになったら切り捨てるなんて、お互い考えてることは、同じ様ですねっ!」
「!!」
バッと俺は封筒から紙の束を放り投げる。壱万円札がヒラヒラと辺りに舞った。
瞬間、俺は外に飛び出した。同時に、警察が玄関や窓から一斉に姿を現す。
半数は老婆、に変装した社長を取り押え、もう半数は俺を追ってきた。
「止まれ!!」
「誰がっ、捕まるのに、止まる、かっ!」
余裕なんて全く無いが、そう返す。捕まる訳がない。
『そこの青年、止まりなさい!』
「ウゲッ?!」
前言撤回!パトカーも相手になるなんて聞いてないっす!
慌てて方向転換して、細い路地裏に入る。
そして直ぐに空き家に不法侵入した。素早く扉を閉めて、近くの棚を倒してバリゲートを築いた。
ブワッと辺りに埃が舞う。そして、その埃が地に落ちる間に俺は変装を解いた。いや、さらに変装した、の方が正しいか。
「キャア!」
先程会った少女をイメージしてみた。わざと警察の前に出て転んだフリをする。
「大丈夫ですか?!」
「さ、さっき男の人が、急に……!」
そう言って俺……いや、“私”は適当に指をさす。思惑通り、警察はそっちの方へ走って行った。
「君は、怪我してない?」
若い警察の一人が俺にそう聞いた。直ぐに追いかけず、私を心配するなんて、以外と優しいんすね。警察って。
「だ、大丈夫!あの人、捕まて!」
「情報提供感謝します!」
お礼もちゃんと言うんだ。もっと冷たいと思ってた。ホント、イメージって当てになんない。
警察があらぬ方向に走っていき、完全に見えなくなったところで、俺は変装を解いて元の姿に戻る。
「バーカ」
ボソリとそう呟いた。
ホント、心配してくれてありがとう。でも、ごめん。その少女が、君らが追っかけていた青年なんすよ。
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