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「むーーーーっ」
その日の放課後。
葵は自分の部屋に入るや否や、ベッドの上にドスンと腰を掛けて、不満気にぷくりと頬を大きく膨らませた。餌を頬いっぱいに詰め込んだハムスターみたい。
「そんなに気にすることないよ。あれはただの竹田さんなりの冗談だろうし」
まあ、冗談にしてはちょっとやりすぎだなあとは思った。めちゃくちゃビックリしたもん。まさか、あんなことをされるだなんて。驚天動地とはまさにこういうことを言うんだと初めて理解した。
と、思ってたんだけど。
「そうじゃない! 別に竹ちゃんのことを怒ったりしてるわけじゃないから! 私が怒ってるのは、憂くんに対して!」
「……は?」
葵の怒りの矛先、竹田さんに向けてのものじゃなかった。
「僕に対して? ど、どういうこと?」
「だってさあ。憂くんったら竹ちゃんにあんなことされて、すっごくデレデレデレデレしちゃってさ! あの時の憂くん鼻の下、すっごく伸びてたんですけど! 床にまで届いてたし!」
いやいや。まず、僕は決してデレデレなんかしてなかったから。それに、確かに『鼻の下を伸ばす』っていう慣用句はあるよ? でもさ、床に届くぐらいって……。それってもはや、ただの妖怪の類いかと。
「で、どうだったの? 竹ちゃんのお胸のご感想は?」
「うん。すっごく大きくて、すっごく柔らかかった」
「私より? 私より大きかった?」
「うーん。まあ、そうではあったけど。でも、不思議なんだけどさ。朝、葵と一緒に登校した時のあれと違って全くドキドキもしないし、やけに冷静だったんだよね」
「ふ、ふーん。そ、そうなんだ。えっと……じゃ、じゃあ憂くんは今朝の私のアレ、ど、どんなふうに感じたの?」
「そんなこと言えるわけないじゃん。というかさ。竹田さんには怒ってないって言ってたけど、なんで?」
「なんでって……」
僕の投げかけた質問に少しの戸惑いの感情を顔に滲ませながら、葵は口を開いた。
「だ、だって、竹ちゃんは……」
そこまで言葉にしたところで、葵は頭を振った。
「どうしたの?」
「う、ううん。何でもない」
何だろう? やたらと葵の歯切れが悪い。でも、深くは訊かないようにしよう。二人には二人の事情もあるだろうし。
「そ、そんなことはいいの! それよりも! 憂くんはもう少し女の子に対して警戒心を持った方がいいよ? 無防備すぎるから」
「わ、分かりました……。それで葵様。僕のことを許してくれましたでしょうか?」
「許すも何も――あっ!」
「どうしたのいきなり」
何を思い付いたのか。葵はモジモジしながら顔を紅色に上気させる。落ち着かないのか、手遊びまで始める始末。
そして葵は、照れ。恥じらい。面映さ。様々な感情をミックスジュースのように一緒に混ぜてしまったかのような、そんな表情を浮かべた。
「ゆ、許してあげなくもないけど……。た、ただ! ひとつだけ条件!」
「条件? え? 僕ってそこまで悪いことしたの?」
「した! したの、憂くんは! とにかく! 私に許してほしかったら、その条件をしっかり飲んでよね!」
そんなめちゃくちゃな。と、思った僕だけど、今の葵の心境がなんとなく伝わってきた。理由やら理屈やらは関係ないんだ。
ただただ、『条件』という言葉を名目にしたいだけなんだろう。それは、葵が子供の頃によく使っていた『照れ隠し』のような感じなんだと、すぐに分かった。
そして葵は、僕にこう伝えた。
「わ、私とデートしてくれたら許してあげる!」、と。
『第13話 葵と誘いの口実と』
終わり
「私より? 私より大きかった?」
「うーん。まあ、そうではあったけど。でも、不思議なんだけどさ。朝、葵と一緒に登校した時のあれと違って全くドキドキもしないし、やけに冷静だったんだよね」
「ふ、ふーん。そ、そうなんだ。えっと……じゃ、じゃあ憂くんは今朝の私のアレ、ど、どんなふうに感じたの?」
「そんなこと言えるわけないじゃん。というかさ。竹田さんには怒ってないって言ってたけど、なんで?」
「なんでって……」
僕の投げかけた質問に少しの戸惑いの感情を顔に滲ませながら、葵は口を開いた。
「だ、だって、竹ちゃんは……」
そこまで言葉にしたところで、葵は頭を振った。
「どうしたの?」
「う、ううん。何でもない」
何だろう? やたらと葵の歯切れが悪いように感じる。でも、深くは訊かないようにしよう。二人には二人の事情もあるだろうし。
「そ、そんなことはいいの! それよりも! 憂くんはもう少し女の子に対して警戒心を持った方がいいよ? 無防備すぎるから」
「わ、分かりました……。それで葵様。僕のことを許してくれましたでしょうか?」
「許すも何も――あっ!」
「どうしたのいきなり」
何を思い付いたのか。葵はモジモジしながら顔を紅色に上気させる。落ち着かないのか、手遊びまで始める始末。
そして葵は、照れ。恥じらい。面映さ。様々な感情をミックスジュースのように一緒に混ぜてしまったかのような、そんな表情を浮かべた。
「ゆ、許してあげなくもないけど……。た、ただ! ひとつだけ条件!」
「条件? え? 僕ってそこまで悪いことしたの?」
「した! したの、憂くんは! とにかく! 私に許してほしかったら、その条件をしっかり飲んでよね!」
そんなめちゃくちゃな。と、思った僕だけど、今の葵の心境がなんとなく伝わってきた。理由やら理屈やらは関係ないんだ。
ただただ、『条件』という言葉を名目にしたいだけなんだろう。それは、葵が子供の頃から使ってる、『照れ隠し』のような感じなんだと、すぐに分かった。
そして葵は、僕にこう伝えた。
「わ、私とデートしてくれたら許してあげる!」、と。
『第13話 葵と誘いの口実と』
終わり