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待たせた君に枯れない薔薇を

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待たせた君に枯れない薔薇を

9 - 一年後の最強の日

♥

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2025年07月30日

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season2 start.























すっかり夜も更けて、つい先ほどまで重ね合わせていた体を、お互いに柔らかく抱き締め合いながら、俺と翔太は静かに口付けを交わしていた。


「ん、ふ…ぁ…」

「ふ…かわい…ん、、」


事後の甘い空気がとても好き。

この時間は俺と翔太、二人きりの世界になるから。

翔太のお仕事はとてもすごいものだから、体を壊さない程度に頑張って欲しいと思うけれど、やっぱりたまに心配になる。いつか、俺よりも素敵な人が、翔太の目の前に現れるかもしれないと思っては怖くなるけど、いつだって翔太は、そんな俺の不安を掻き消すように、俺だけを見つめてくれる。俺はこの瞬間が好き。


唇が離れて、翔太が優しく抱き締めてくれる。俺の頭の形と髪の感触を楽しむように、手の平で撫でながら、翔太は俺を呼んだ。


「りょうた」

少し眠いのか、いつも以上に舌足らずな声が可愛くて愛おしい。


「なぁに?」

と返事をすると、また翔太はゆっくり話し始める。



「俺さ、涼太のこと大好き、大事にしたい。」

「うん、ちゃんとわかってるよ。いつも好きでいてくれてありがとう。でも急にどうしたの?」

「うん。だからね、俺、涼太と結婚式挙げたいんだ。」



翔太の言葉に、俺は少し固まる。


けっこんしき…?ケッコンシキ?

…結婚式って、あの?


「俺、翔太と二人でいられたら、それで十分だよ?」

「それでも、俺はやりたい。涼太だけを愛すって、何度でもちゃんと誓いたい。」

「翔太…」

「それから、俺たちが世話になった人たちに恩返しする時間にもしたいんだ。俺たちの父さんとか母さんとか、メンバーとか、阿部ちゃんとか。」

「そうだね、それは、俺もそう思うかな。いつもお世話になってる人に感謝を伝えたいね。」

「よし、そうと決まれば、あいつらに連絡するか。」

「あいつらって?」

「ラウールと、康二。あいつらに頼もうと思ってさ。」

「そっか、それはいいね。ラウールともそういう口約束したっけね」

「あいつも入社してもうすぐ四ヶ月経つのか。早いな」

「毎日楽しそうに働いてるみたいだよ」

「そりゃいいわ。たまには飯ぐらい食いに来たっていいんだけどな。忙しいんだろうな。」

「もう、心配してるって素直に言ったらいいのに。」


そんな話をしながら、俺たちは眠った。

穏やかで、優しくて、心地よくて、翔太がそばにいてくれるからこそ、そんな夜になる。ベッドと一体化するように意識と体を溶かしていった。




次の翔太のお休みの日に合わせて、お店もクローズにして、二人で出掛けた。

事前に連絡をしておいた、ラウールの職場へ翔太の車で向かった。


いつだったか、二人でドライブデートをした時に、翔太が言っていた。

忙しかったはずなのに、いつの間にか免許を取っていたことにすごく驚いたから、「いつの間に免許取ってたの?」と聞いたのが発端だった。


「いつか、涼太を乗せてどこまでも連れてこうって思ってたから、高校卒業した瞬間に取りに行った」


そう言いながら、ハンドルを握る翔太はとてもかっこよくて、俺はいつまでも、翔太のその横顔に見惚れていた。



式場に到着すると、スーツを着たラウールと、仕事着でカメラを首から下げる康二とが、出迎えてくれた。ラウールの高い身長に細身の黒いスーツがよく似合っていた。

いつも私服で会っていたから、新鮮な感じがした。


「オーナー!久しぶり!会いたかったよ!」

「しょっぴー!久々やんな!」

「ラウール、久しぶり。元気にやってるみたいで安心したよ」

「康二、くっつくな。」


「今日お休みの日だったんだよね?ごめんね、そんな日に開けてもらって…」

「そんな気にせんでええて!しょっぴーの仕事のこともあるやろうし、誰もおらんほうが集中できるやろ!」

「悪りぃな。」

「ううん!それより、やっと二人を担当できるからすごく幸せ!早くいこー!」

「ちょっと、ラウール…っ!ぁははっ、引っ張らないで」

「…オカンと息子やな」

「…俺もそう思ってたとこ」




「式場の予約する前に、見学に行こう!僕と向井さんで案内するね。まずは、ここが教会だよ!ここで誓いの言葉を言い合うの!」

「わぁ、綺麗だね、翔太!」

「うん、すげぇ広い」


ラウールの案内に着いていくと、まず最初にチャペルを見せてくれた。

白い壁と、四隅に置いてある彫刻と、大理石の床、部屋の色と同じベンチが両サイドに十個ずつ置かれている。その間には赤く長い絨毯が敷かれている。

なんだか、王様の住むお城の教会みたいで、全く別の世界に来たみたいだった。


隣で隅々まで眺めるように教会の中を見回す翔太が、ぽそっと言った。

「うん、これならぴったり」



「なぁに?」

「ん?あぁ、ちょっとね」

「また秘密なの?」

「うん、当日まで楽しみにしてて」

その独り言が気になって、翔太に聞いてみたけれど、はぐらかされてしまった。

相変わらず、サプライズが好きみたい。

今聞いてしまうのも野暮だから、翔太の言う通り、当日まで気にしないでおくことにした。


「次は、披露宴の会場だよ!どうぞー!」


「うわ!広っ!!!」

「わぁ、すごいね。」


大きなカーテンと広い室内は、白一色で統一されていて、二階に続く大きな階段には湾曲した金色の立派な手摺りが付いていた。

「ここ降りてくるオーナー想像しただけで、僕涙が出ちゃいそう…」

「これ、俺が降りるの?」

「うん、だって、新婦様だもん」

「なるほど」

「確かに、ここから降りてくる涼太想像したらやばいな。俺も泣くわ」

「ふふ、二人して大袈裟だなぁ」

「そんなこともあらへんやろ。ここはそういう場所やから。ほんなら記念に一枚、写真撮らしたってくれるか?」

「いいの?」

「おん、来てくれたお客様にサービスやで。そこの椅子に二人で座ってくれるか?」

「はーい」



康二に促されるまま、広い会場の中にある椅子に翔太と座って、カメラの方を向いた。

「だて、固いわ!もっと笑ってや!しょっぴーは雑誌の撮影やないんやで!?キメすぎや!」

「う、、ごめん…緊張しちゃって…」

「ぉう、、わり…癖出たわ。」

「翔太は、いつもそうやってお仕事してるんだね」

「ん?あぁ。どう?惚れ直した?」

「ふふっ、毎日翔太に恋してるよ?」

「りょ、涼太っ…!マジでさぁ、、ほんと敵わねぇよ…。ふははっ」

「あははっ」


写真を撮ってもらっていることなんてそっちのけで、二人で笑っていると少し離れた場所から、パシャっと音がした。


「ええもん撮れたわ!やっぱり自然な笑顔が一番やな。それと、そんないい顔を引き出せる俺も天才やな。ほんならこの写真編集してくるから、俺はここで一旦失礼すんでー!」


いつだって風のように去っていく康二は、また仕事に戻って行ってしまったけれど、その後もラウールは色々な場所を案内してくれた。


「ここが、ラウンジスペース。ゲストの方がお式が始まるまでお話ししたり、お飲み物飲んだり、待っていていただくお部屋」

「ここは大階段!挙式が終わったら、二人でこの階段を降りてみんながフラワーシャワーしてくれて、その後オーナーがブーケトスするの!」

ラウールは、俺たち以上にうきうきしていて、ずっと楽しそうに俺たちの先を歩いていた。

そうやってワクワクしてくれるから、結婚式というものを俺がしてもいいのかなぁと思っていた俺も、なんだか楽しみになってきた。




「これで、ご案内する場所は以上になります。次は、ご試食です!お部屋にご案内いたします。」

「わぁ、うれしい。お料理一番楽しみにしてたの!」

ラウールはかしこまった敬語を使いながら、俺たちをサロンスペースへ連れて行ってくれた。なかなか食べられない結婚式場のお料理を、実はすごく楽しみにしていたのだ。

おいしいものを食べたいし、なにより自分の勉強にもなるからと、うきうきと足を進めて行った。













順番に運ばれてくるコース料理に、涼太は目を輝せながら、一口一口大切に食べて行く。ほっぺたをもきゅもきゅと動かしながら食べるのが、可愛くてしょうがない。

と思ったら、口の端についたソースを小さくちろっと出した舌で舐めとるから、目のやり場に困る。可愛いのに、なんでこんなにえっちでもあるんだ。誰かに見られてたらどうするんだと、俺は悶々としながらも、涼太の姿を拝みながらメインディッシュの肉を頬張った。


「デザートまで全部おいしかったね」

「うん。でも、涼太のご飯を持ち込めないのは、残念だったね」

「そうだね、なにか一品でも自分が作ったもので、おもてなしできたらなとは思ってたけど、式場のルールならしょうがないね。衛生面のこともあるだろうし。…あ、じゃあ、またうちで二次会しようか。それならみんなにご飯作れるから」

「疲れない?大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。前日から仕込みして、当日は少しだけ手を加えたらできるものにしたら、そんなに大変じゃないから」

「俺も手伝う」

「ありがとう。みんな来てくれるといいね」


「今日日程まで抑えようと思うんだけど、いつがいいか?」

「そうだね。みんなはどうやって日取りを決めるんだろうね?記念日とかかな」

「涼太が良ければなんだけど、俺、この日がいいなって言うのがあんの」

「そうなの?いつ?」

「6月2日」

「うん、過ごしやすくていい日じゃない?空いてるといいね」

「うん」



「ごめん、お待たせしました!お料理どうだった?」

「とってもおいしかったよ!ありがとう」

「よかったー!」

「なぁ、ラウール。今日このまま日程抑えて行きたいんだけど、6月2日って空いてる?」

「わかった!空き状況確認してくるね!」

「ありがとな」


ラウールがお皿を下げて、予約状況を確認してから、また戻ってきた。


「6月2日は朝10時からの枠がまだ空いてたよ!日柄も大安!しかも一粒万倍日と重なってて、最強の日だよ!」

「なんだかよくわかんないけど、とりあえずめっちゃいい日ってことか?」

「うん!すごくいいお日柄!空いててよかったよー!じゃあ、このまま手続きして、今日は一旦終わりになります。来年の6月2日、絶対にいい日になるように、僕精一杯お手伝いします!」

「あとがとう。よろしくお願いします。」

「ありがとな。」




手続きも無事に終わって帰ろうかという頃に、康二が俺たちのところに来て、さっき撮った写真を現像して渡してくれた。

「額縁もサービスや。こんまま飾れるようにな」

「わぁ、康二ありがとうね。すごくいい写真」

「ほんとだ。めっちゃ盛れてんじゃん」

「そこなん?!」


もちろん照れ隠しから出た言葉だ。

涼太以外の人がいる前じゃ、この天邪鬼はいまだに健在中なのだ。


すごくいい写真だって、俺もちゃんと思ってる。

膝の上で頬杖をついて俺の方を見つめながら優しく笑う涼太と、俺が涼太の言葉に照れて笑う瞬間が写真に収まっていた。自然で、いつも通りの俺たちという感じがした。



こんな風に、いつまでも涼太と二人で笑って生きて行きたいと、そう思った。






夕暮れに染まる駐車場から自宅までの道を、スーパーの買い物袋を涼太と半分こしながら提げて、歩いて行った。




















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