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見て頂いてありがとうございます!
いい設定を思いつき、書きたい!と、
深夜テンションで書き殴ったものですので、拙い文なのはお許しください。
⠀その路地裏は薄暗かった。夏の夕方はまだ明るいが、その路地裏だけがまるで切り離されたような異様な空気。
⠀一歩、路地裏から出れば、目を潰すようなネオンに、耳を切り裂くような人の声が聞こえてくるだろう。冷たく湿っていて、息をするのもためらってしまうような場所だった。生ゴミの置かれたコンクリートは、黒ずんでいて人を遠ざけるような冷たさだ。1年前から水が変わっていないのではないかと疑うような濁った水たまり。長く居るべきではないと、きっと誰もが無意識に理解するであろう。
⠀そんな隅に小さな影がうずくまっている。
「あの…大丈夫、ですか?」
⠀男の遠慮がちな声だった。
⠀こんな少女に気付き、こんな少女のために路地裏に入ってくれる、優しい男。そのまま見過ごすことできなかった、という迷いの含まれた感情をそのまま口に出すかのように声を落とした。
⠀影がびくりと震え、ゆっくりと顔を上げる。黒い髪の隙間から見えた目は、きっと何かに怯え続けてきたのだろうと思わせる目だった。
「ごめんなさい…」
⠀この言葉が、2人が出会って最初の会話であった。
⠀少女にとっては精一杯腹の底から出した声だったが、男の耳にはかすれた声しか届かなかった。
「え?」
「ごめんなさい。じゃまでしたよね。すぐ行きます。」
⠀言い終えると同時に少女は薄汚れた壁にためらいもなく手をついて、ふらふらと立ち上がった。立ち上がると言うには心もとなすぎるふらつき。明らかに足に力が入っていない。呼吸も浅く、見ているだけで危うさが伝わってくる。
⠀今にも崩れ落ちてしまいそうな少女の体を、男はほとんど反射で支えてしまった。
「あっ、ごめんなさい…触ってしまって…」
⠀手を引っ込めようとするが、引っ込めればきっと少女の体は崩れ落ちるだろう。そう思うと、少女の腰に回した右手は自分の意思を持ったようにはなかなか引っ込んでくれない。
⠀軽い。
⠀あまりにも軽い。
⠀たった一つの異常が男の脳内でアラームを鳴らしていた。
「…大丈夫じゃないですよね。何があったんですか?話してください。」
⠀男の少しだけ強くなって荒くなってしまった口調。その瞬間、被せるように少女の言葉が飛ぶ。
「大丈夫です。できます。」
⠀考えて発したのではない。条件反射のように飛んだその言葉は、二つ目の異常として男の脳味噌に深く刻まれる。
⠀男は困ったように視線を落とし、口を開き言葉を出そうとする。どう言葉をかければいいのか。少しだけ時間が流れて、絞り出すように言う。
「…座ってください。今にも転けてしまいそうで…心配です。」
⠀不安そうな少女の瞳はゆっくりと息を吸い、壁に沿って地面までずり落ちる。元の体操座りの体制。きっと、一番安心するのだろう。
⠀男はあぐらを掻こうと尻を付けようとしたが、スーツが汚れることをためらい、片膝だけつく。
⠀両者とも何も喋らない。路地裏に異様な空気が戻ろうとする。
⠀男は覚悟を決めたように口を開く。
「あの…名前、聞いてもいいですか?」
⠀なかなか口を開かない少女に対して静かに返答を待つ。
「…マイナ、です」
「そっか。マイナ、さん…。」
⠀呼び方に困って少し言葉が詰まってしまう。
「あの…家、ありますか?帰る場所とか。」
⠀コレが聞きたかったんだ。少女の居場所はどこなのか。
⠀慎重に言葉を続けようとすると、思っていたよりずっと早く言葉が返ってくる。
「…あります」
⠀名前を聞いた時とは打って変わって、即答だった。
⠀その返答は逆にどこか不自然で、縋るような言葉だった。けれど、それ以上踏み込む言葉が見つからない。
「その…よければ、なんですが。」
⠀ためらいと決心の混ざったような息を吸い込んで
「俺の家に、来ませんか。」
と、ようやく口にした。