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とても幻想的な光景がそこには広がっていた。
「綺麗……これ、全部魔法石?」
「はい。色が濃くて、光が強いほど高い魔力を秘めています」
ブライトはそう説明すると、少し疲れたのか背伸びをしていた。
私はその間に、一面に広がる魔法石をみていた。どれもこれも宝石みたいに輝いているが、鉱山で発掘される石と言った感じで形はまばらだった。クリスタルのように、岩の間から突き出ており、そのどれもが角張っている。ブライトが持ってきた魔法石は綺麗に加工されて磨かれたものだったが、これはまだ人が手を加えていない天然といった感じだった。でも、確かに石から魔力が感じられる。
これを持ち帰ることが出来たら、どれだけの魔道具が作れるのだろうかと。
(一般人も巻き込んで、ヘウンデウン教と戦うことは避けたいし……でも、兵力も限りがあるなら、これを使って魔道具を作れば良いんじゃない?)
と、我ながらにいい発想だと自画自賛しつつ、私は魔法石に触れた。手のひらにひんやりとした冷たさが伝わってきたが、次の瞬間には手のひらが燃えるように熱くなる。
「熱っ!」
「エトワール様、触ってはダメです!」
そうブライトがいったが、言うのが一足遅かったため、私は、咄嗟に話したが、手のひらは見事に赤くなっていた。火傷まではいかないが、少しひりひりする。
「え、エトワール様、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だけど……もうちょっと早くいって欲しかったかも……じゃなくて、どういうこと?」
「魔法石は、人が触れられる程度に加工したものなので、それなりに魔力は抜けているんです。しかし、加工していない原石のまま触れると、その魔力量の多さに身体が耐えきれないんです。つまり、無加工の魔法石は高温に熱された鉄というわけです」
「わ、分かりやすい説明」
そんなツッコミをしつつ、私はキラキラと輝く人畜無害そうな魔法石をみた。
あんなに綺麗なのに、ブライトのいったとおり高温の鉄だと思うと確かに触れない。魔法石は加工しなければ使えないのだと初めて知り、それなら魔力の量が半減されていると言うことには納得できた。魔道具は使い捨てが多いようだったから。
(でも、このまま利用できればかなりの武器になるよね……武器じゃなくても、誰かを救える量の魔力量はあるわけだし……)
加工して、その魔力を失うというのなら、失わない方法を探せばいいと思った。だが、今は人手不足だし、そういう研究や開発も遅れるだろうとも思う。
だが、これを利用しない手はない。他の鉱山がどうなのかは知らないが、見た感じ一面に生えているようだし、これだけの魔法石をゲットできればかなりの利益だ。
「ここの魔法石ってタダ?」
「タダとは?」
「誰かの所有ぶつかって事」
私がそう聞けば、ブライトは首を横に振った。
誰かの所有物であれば、勝手にとっていったらそれは泥棒だが、誰の所有物でもなければ、取ってき放題なのでは無いだろうかと思った。自然破壊しない程度に。
私はそう考えて、ガッツポーズを決める。それを、ブライトは不思議そうに見ていた為、私は咳払いをした。
「ごほん……と、兎に角私が言いたいのは、ここが誰かの所有物でなければ、この鉱山、洞くつで、この魔法石を発掘すればいいんじゃ無いかなって思って。そうすれば、ヘウンデウン教との戦いや、混沌との戦いに備えられるんじゃ無いかなあって……魔道具を作るのに、魔法石が必要なら」
「そうですね。ですが、新事業や開発を進めるのは相当なお金がかかります」
「うっ……」
ブライトは私の提案を一度は飲み込んでくれたものの、その計画性の甘さを指摘する。
私は、計画を立てるのは苦手な方である為、いたいところを疲れて反論の余地もない。
どうにか、持てる知識を使って、新事業をと、私は考えとある貴族の名前を思い出した。
「ダズリング伯爵家に協力を仰げばいいのよ」
「ダズリング伯爵家ですか?」
「ほら、富豪だし、この間そこの長男を助けたっていうおもんもあるし!」
私は、苦し紛れにそう言った。
確かに、恩はあるはずなのだ。ルクスが攫われたとき、力を貸したのだから。といっても、私が勝手に助けにいくといっただけで、頼まれてはいないのだが。
「確かに、ダズリング伯爵家の力を借りることが出来れば、この洞くつの魔法石を回収することも、魔道具を作ることも簡単でしょう」
「でしょう!?」
「しかし、エトワール様、そこには大きな問題点があります」
と、にこりとブライトは微笑んだ。
まだ、何かあるのかと、完璧に思えた計画を打ち崩すブライトの発言に私は、またすっかり忘れていたことを思い出した。
「ここには、大蛇がいるのです。何人もの魔道士や騎士が殺害され、逃げ帰るほどの大蛇が。そんな所で発掘作業などしたくないでしょう」
「う、確かに……なら、その大蛇を倒せばいいのよ!」
私は次から次へと言葉だけはでるが、どれも現実的ではない。それを、ブライトはプッと笑ってみているだけだった。彼は、この計画の大穴を知っているからこそ、何も言えないのだろう。いい方法はない。それこそ、大蛇を倒さない限りには。
それも、そんな強い大蛇を倒せるわけがなく、またどれだけ明りを持って洞くつに入らなければならないのかも想像がつかない。数メートル先すら見えない永遠の闇が広がる洞くつに幾つたいまつをつければ良いのだろうかという話になる。
結局は、この計画は現実的ではなく、実行できないと言うことだ。
「……いい計画だと思ったのに」
「エトワール様の言いたいことは分かりますし、そうなればいいなという理想はあります。ですが、大蛇を倒さない限りにはどうにもなりませんし、その大蛇も何十人がかりでも倒せないので、今のところ無理ですね。確かに、ここの魔法石は稀少ですし、発掘できれば、それなりの利益と力になります」
「そうだよね……」
とほほ……と、私は肩を落としつつ、目の前の魔法石をみた。こんなに近くにあるのに、持ち帰れないとは。
ブライト曰く、魔法石の発掘には、専用のツルハシがいるらしく、先ほどみたいに素手では絶対に触れないし、かなり丈夫なツルハシでなければその魔力に当てられて折れてしまうのだとか。取り敢えず、簡単にはいかないことが分かった。
「エトワール様、魔法石の話も楽しいですが、今日は薬草を採りに来たんですよね」
「あ! そう! 忘れてた」
そういえば、ブライトは嘘でしょ? みたいな、顔を私に向けてきた。そこまで驚かなくても、呆れなくてもいいと思ったが、この魅力的な魔法石を前にしたら誰だってそれまで覚えていた大切なことを忘れてしまうだろう。
だが、そういう所を見せるのは格好悪いかなあと思い、私は再び咳払いをしてブライトに何処にあるのかと尋ねた。
「もう少しいったところだと思います。かなり、奥に入ってきましたし、魔法石があるって言うことは、すぐ近くなはずです」
「そっか、その薬草も魔力を吸って生えているんだもんね」
そうです。とブライトは言うと再びランプを持って歩き出した。
魔法石のおかげで、辺りが眩しく見えるようになったが、変わらぬ岩場が続くだけで何の変哲も無い。天井に穴が開いているわけでもなければ、壁に穴が開いているわけでもない。この光がなかったら、また闇の中に入ることになるだろう。
(怖いけど……あの肉塊の中よりはまし……と思えればいいんだけど)
怖いと先ほどは主たが、思い返せばあの負の感情の塊の中に入っていたのだから、今更ただの暗闇が怖いなんて可笑しい話である。
「エトワール様大丈夫ですか?」
「え? 何が?」
「顔色が優れないので」
「う、ううん。ちょっと昔のこと思い出していて」
そういえば、ブライトは私の顔を軽く覗いたが、何も聞かずに前を向いてしまった。彼なりの配慮だろうと思いつつ、誰かさんとは大違いだとも思った。
聞かないことも、時に優しさだと思う。
そんなふうにブライトの後をついて歩いていれば、もの凄い魔力を感じ、私は目を見開いた。
赤い魔法石の間に白色に輝く草が生えていたのだ。
(草……というより、これが薬草?)
「よかった、ありましたね。エトワール様」
「これが、薬草? 万能薬?」
形も色も不思議なその薬草に、私はあっけにとられつつ手を伸ばした。