周りを見渡す。誰もがほっと胸を撫で下ろしていた。
『自分じゃなかった』
その安堵が、はっきりと伝わってきた。
その中で、一人だけ、違う顔をしている人がいた。
「そんなの、嘘です!」
声を上げたのは、フレデリカだった。年の近い下働きの使用人。いつも黙々と仕事をしている、目立たない少女だ。
屋敷に来たばかりで苦労していたようだから、何度か声をかけたのを覚えている。
「フィオさんがやったわけない!」
広間が静まり返る。
ロザリア様が、ゆっくりとフレデリカを見る。
「あなたは?」
「フレデリカです。厨房づきの使用人で……」
「立場を弁えなさい」
「でも、こんなの……」
フレデリカは最後まで言えなかった。給仕長のおばさんがフレデリカの口を押さえたのだ。
グレイヴ卿が騎士団の遠征に同行している今、この家の最高権力者はロザリア様だ。彼女の機嫌ひとつで、しがない使用人の首は簡単に飛ぶ。解雇の隠喩ではなく、物理的な意味で。
僕は、フレデリカに広げた手を向けた。
「いいよ、フレデリカ。訴えるだけ無駄さ。証拠なんてない……これは生贄なんだから」
フレデリカが困惑する。
新米の使用人で屋敷の内情に疎い彼女だけが、状況を理解していないらしい。
「えっとね、賢者の石が盗まれたこと自体は、大した問題じゃないんだ。あれはグレイヴ卿やロザリア様みたいな、超一流の魔術師にしか使えない道具らしいから。使用人の誰が盗んだにせよ、闇市に流すしかない。グレイヴ家の財力と情報網があれば余裕で買い戻せるんじゃないかな? 問題は面子の方さ」
「面子?」
「王家に対して『犯人が分かってません』じゃ、グレイヴ家の顔が潰れる」
僕は淡々と続けた。
「誰かを処刑しないといけないんだ。失っても困らない、誰かをね」
視線を巡らせる。使用人たちは僕から目を逸らす。
「せっかくフレデリカが声を上げてくれたんだ。一応訊いておきます、ロザリア様。僕を犯人とする根拠を、何かお持ちですか?」
ロザリア様が薄っすらと微笑んだ。何も言わない、それで答えは十分わかる。






