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「嘘だろ……なんで……っていうか、なんだよ、これ!? どうなってんだよ!? なあ。さっき、ここってこんなんじゃなかったよな!? 玄関開いてたし、もっと壊れてたし汚かったよな!?」
「うん」
「なんで急に綺麗になって……。それにあの着物の子……! いったい、どうなってんだよっ!」
「さあ?」
「…………」
拍子抜けするほどあっさりとした答えが返ってきて、俺はようやく目の前の女子に注目した。
「……なんでそんなに落ち着いてんの」
「そんなことはない。見ての通り、充分動揺している!」
いや、胸を張られても。……しかしそういう反応をされると、なんだか俺だけあたふたしているのがバカみたいだ。俺もちょっと落ち着こう。
「……ええと……」
とりあえず、身近な疑問から解決していくことにする。
「何組?」
同じ学校指定のジャージを着てこんなところを彷徨いているのだから、同じ学校の同じ学年であることは疑いようがない。まだ入学からそれほど経ってないとは言え、流石に同じクラスの女子なら顔くらいはわかる。顔に覚えがないということは、違うクラスの人間に違いなかった。
「2組」
隣のクラスか。
「俺は1組の香住」
「……かすみ?」
俺の名前を聞いた彼女は、眉根を寄せて俺を凝視した。
「……男に見える」
「……男だからな」
真顔で何を言い出すのだろうか、こいつは。
「香住は名字だよ。名前はヒロシ」
彼女は、おおと言って頷いた。……なんか、変わった子だなあ……。
「そっちは……」
俺は彼女のジャージの胸元に目を止める。そこには〈桐島〉という2文字が刺繍されていた。
「えーと……きりしま、でいいの?」
「うん。……ユウカ」
こっちがフルネームを名乗ったので、自分も名乗らないと悪いと思ったのか桐島は付け足したように名前を言う。彼女の顔には見覚えはなかったが、おさげの後ろ姿には見覚えがあった。水場を探していた時、前を歩いていた子だ。
「桐島はなんでこんなところにいるの?」
「水場を探してた。これを洗うんだ」
桐島は右手にぶら下げていた白いビニール袋を持ち上げた。その中を覗いてみる。
「……なに、これ」
「豚肉に決まってるだろ。カレーに入れるんだ」
誇らしげに言った。
「……泥まみれなんだけど」
「む。ちょっと不幸な事故があってな。大丈夫だ。洗えば、平気。それで……香住とか言ったか?」
桐島はまっすぐに俺を見上げる。
「水場はどこかな?」
「…………」
予想通り、彼女も水場を探して彷徨っていたらしい。……しかし、今は水場なんてどうでも良くないか?
「……水場は俺も見つけられなかった」
だからこんなところで、お前と話している。
「そうか……こっちの方に行けばあるって言われたから、ここかと思ったんだけど。ここじゃなかったのか……」
「……水場だと思った? ここを? だから中に入ってみたの?」
「うん」
俺は自分が踏み込んだ時の建物の姿を思い返してみた。……どうみても廃屋だったような。しかし俺も一瞬水場かと疑った覚えがあるので、そこは突っ込まないでおく。
「ここじゃないなら、もっと奥だったんだな……。よし。じゃあ行くか」
「え? 行くってどこに」
ポカンとして聞き返した俺に、桐島は同じようにポカンとした顔を返した。
「だから、水場だろ? 香住も水場を探してるんだろ?」
「まあ、そうだけど」
正確には、探してるじゃなくて探してただ。
「なら、早くしないと」
言いながら彼女は玄関の戸に手をかけた。
「早くしないとカレーがーー」
引いた戸は、鈍い音がしただけで開くことはない。……なぜなら、釘が刺さっているからである。ついさっき明らかになったように。
「……開かない」
桐島が戸に手をかけたままで呟いた。
「おれらってさ。さっきから、その話をしてるんだと思ってたよ」
「そうだった……」
なんだろう。この状況で、この力の抜ける感じは……。
「そうか。開かないんだっけ……。あ!」
玄関の戸を前に項垂れていた彼女が、パッと顔を上げた。
「もしかしたら、この家の中に水道があるんじゃないか?」
「…………」
彼女にとって水道を発見するという任務は、この不可解な状況に置かれてもなお優先されるべきものらしい。
「家ならきっと台所が……」
「水道のことは」
俺は素早く桐島の言葉を遮った。
「いったん忘れよう」
というか、忘れろ。
彼女に付き合っていると、いつまでたっても話が発展しそうにない。俺はやや強引に、会話の主権を握ることにした。
「何が起こってるのか、よく分かんねーけど……。とにかくこの家を出て、キャンプ場に戻らないと。飯の時間までに戻らないとオオゴトになる」
なにしろ俺たちは、林間学校に来ているのだ。夕闇の迫るキャンプ場で生徒が見当たらないとなれば、大問題に発展することは目に見えている。
「そうだな」
意外にも桐島は、素直に頷いてくれた。
「林間学校でカレータイムに参加できないなんて、オオゴトだもんな?」
「う、うん」
カレータイム??
「え、えーと……玄関は開けられそうにねーから……。窓とか裏口とか、どっか他にも出られそうなとこ、あるだろ。探してみようぜ」
「わかった」
コメント
1件
第3話読了!なんかもう桐島さんが可愛すぎるでしょwww「さあ?」からの「豚肉洗いたい」でカレー優先ってどういうことよw しかも戸が開かないって気づいてなかったところで吹いたわ。香住くんのツッコミが冷静でいいバランスしてる。でも急に家の中が綺麗になってる不気味さも忘れずに!この先どうなるのか気になりすぎる🔥