テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
部活が終わり、すっかり夜の帳が下りた帰り道。街灯の下を二人並んで歩く。
治くんの手は、私のコートのポケットの中で、私の指先をギュッと包み込んでいた。
「……治くん。もう家、そこだよ」
「……知っとる。……でも、まだ『お預け』回収しとらん」
玄関先の街灯の下。オレンジ色の光が、銀髪を少し揺らして立ち止まった治くんを照らし出す。
彼は私の手を離すと、ゆっくりと、けれど逃げ場を塞ぐようにして距離を詰めてきた。
「……おにぎりも、お弁当も。……朱里にしか作らへんって決めた。……その代わり、朱里の『一口』、俺以外の奴にやるんは、死んでも許さへん」
「……治、くん……」
「……なぁ、朱里。……空腹、限界やねん」
スナギツネのような細い瞳が、暗闇の中で妖しく、熱く光っている。
彼が私の頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づけてきた、その瞬間。
「あーーーっ!! 見つけた! 治、自分だけ朱里ちゃんの玄関先で『デザート』食おうとしとるやんけ!! 不潔や、不潔極まりないぞ!!」
ガサガサッ!! と近くの植え込みから飛び出してきたのは、案の定、侑くんだった。
その後ろでは、角名くんが冷静にスマホを構えてフラッシュを焚いている。
「……ツム。お前、ほんまに……死ね。……今、一番ええ『味見』やったのに」
「味見って何やねん!! 朱里ちゃん、こいつの『食欲』は底なしやからな! 一口食われたら、骨までしゃぶられるぞ!!」
「……骨までやない。……心まで全部食い尽くすねん。……角名、ツムを今のフラッシュで目潰ししとけ。……朱里、また明日な」
治くんは侑くんの顔面に、食べかけのパンの袋を投げつけると、私の耳元に顔を寄せた。
「……今日は邪魔が入ったけど。……明日の三限目、ノートに『お返し』の続き書いとくからな。……絶対、読んでや」
彼は侑くんを引きずって去っていく。
一人残された玄関先で、私は熱くなった頬を両手で押さえた。
お預けの、深夜のデザート。
おにぎりの具材よりもずっと甘くて、胸が焼けるような「注文」が、まだ私の鼓膜を震わせていた。