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KOKO💖💫🦊
弟は、生まれつき運が悪かった。
物を落とすとか、転ぶとか。
そんな軽い話じゃない。
近くにいるだけで、
嫌なことが重なる。
最初は偶然だと思ってた。
でも違った。
弟が触れたものは、壊れる。
それも、ただ壊れるんじゃなくて。
もっと悪い形で。
だから弟は、ずっと手袋をしてた。
誰にも触れないように。
――親でさえも。
「気味が悪い」
そう言われてるのを、何度も聞いた。
弟は何も言わなかったけど、
わかってたと思う。
自分が普通じゃないことくらい。
怖くなかったわけじゃない。
正直、怖かった。
でも、それ以上に。
弟がひとりになる方が、嫌だった。
だから俺は、普通に接した。
何も変わらないみたいに。
弟が初めて笑ったとき。
少しだけ、安心した。
あの日。
お父様が弟を怒鳴ってた。
理由は、多分弟の体質のことだろう。
いつも…そうだから。
毎日のように繰り返される弟への暴言、暴力にそろそろ嫌気がさしてきて、つい口を出してしまった。
「やめてください。弟は何も悪くないじゃないですか。」
そう言っただけで。
殴られた。
痛かったし、怖かった。
でも。
後ろで、弟が息を呑んだ音がして。
そっちの方が、ずっと嫌だった。
振り返ったとき。
弟は、手袋を外してた。
「弟?」
そのまま。
お父様を殴った。
空気が歪んだ。
悪いことが、一気に重なる。
止められないまま。
全部が、終わった。
静かになった部屋で。
弟だけが立っていた。
ゆっくり、こっちを見て。
少しだけ、安心したみたいに。
「……これで、もう大丈夫だよ?」
あまりにも普通で。
何も間違ってないって、
本気で思ってるみたいだった。
それから。
弟は、俺に近づかなくなった。
「……触れたら、壊れるから」
そう言って。
距離を取る。
――ああ。
そういうことか、って思った。
でも。
それで終わりにできるほど、
簡単じゃなかった。
ある日。
弟が、お兄ちゃんも僕が嫌い?そう聞いてきた。
手袋を握りしめて、
呼吸も少し乱れてる。
夢にでも見てしまったのだろうか。
慰めなくちゃ。
「来るな」
そう言われて、足が止まった。
怖かった。
そんな風に声をかけられたことは無かったから。
そうか、声だけじゃ足りない。
寄り添って、抱きしめて、手を握って、そうやって安心させてあげなくちゃ。
…少し、躊躇った。触れたら壊れる。
あの日のことが、頭から離れない。
でも。
弟の方が、怖がってた。
それに気づいたとき。
どうでもよくなった。
「……一人で怖がらせてる方が、もっと嫌だ」
一歩、近づく。
弟が、少し下がる。
それでも、止まれなかった。
弟を安心させたい気持ちもあったけれど、自分が個人的にただただ 触れてみたかった。
どれくらい冷たいのか。
それとも、あたたかいのか。
ずっと、知らなかったから。
手袋越しじゃなくて。
ちゃんと、知りたかった。
怖いまま。
それでも。
手を伸ばした。
「やめて!」
叫ばれたけど、離さなかった。
そのまま、抱きしめた。
あたたかかった。
思っていたより、ずっと。
その直後。
手に、軽い痛みが走った。
どこかに引っかけたのか、
皮膚が少し切れていた。
血が滲む。
……ああ、やっぱり。
そう思ったけど。
どうでもよかった。
それでもやっぱり、弟は優しいから。自分が怪我をしたと気づいたら気にしてしまうと思った。
だから隠した。そしてなんでもないように振舞った。
「ほら、大丈夫だろ」
できるだけ普通に言って、
弟の頭を撫でた。
弟は、何も言わなかった。
ただ。
少しだけ。
服を掴んできた。
あぁ、これで良かったんだ。こんな簡単で、1番安心することなのに。今まで誰にもしてもらえなかったんだ。
それから、さらに仲は深まり、今までよりも一緒に過ごす時間が、近くで過ごす時間が長くなった。
けれど、弟は手袋は外さなかった。お兄ちゃんを傷つけたくないんだと。優しいと思った。
弟は、自分を好いてくれている。自意識過剰かもしれないがそう思っていた。
そんな、ある日のことだった。
朝、起きたとき。
弟がいないことに、すぐには気づかなかった。
ただ、静かで。
名前を呼んでも、返事はなくて。
部屋を見ても、どこにもいない。
そこでやっと、変だと思った。
机の上に。
手袋が、置いてあった。
弟が、絶対に外さなかったやつ。
なんで、こんなところにあるんだよ。
分からない。分かりたくない。信じられない。信じたくない。
いなく、なった?
意味が、わからない。
今も、わかってない。
なんで、いなくなった。
俺、何かしたか。
嫌われたのか。
それとも。
俺がいない方がよかったのか。
答えは、出ない。
弟は、そういうこと言わないから。
でも。
優しいやつだった。
だからきっと。
何か、隠してる。
俺に言わないまま、
いなくなるくらいのこと。
それが、なんなのかは。
わからないけど。
それでも。
探すしかないだろ。
理由なんて、いらない。
納得できなくてもいい。
怖くてもいい。
また傷つくかもしれなくてもいい。
それでも。
一緒にいたい。
……お前と。
だから、
何回でも探す。
どこにいたって。
どれだけ時間がかかっても。
絶対に、見つける。