藤澤視点
撮影が終わり、
僕たちは次の現場に向かおうとしたが、
どうやら時間がずれ込んだようで、
待ち時間ができてしまった。
それならいっそう彼と話ができる機会かも?と期待して、
僕は彼を探した。
その姿はすぐに見つかったのだが、
彼は既に誰かと一緒にいた。
話しかけるタイミングを見失ってしまい、
僕がどうしようかと迷っていた時だ。
「僕の被写体になって欲しい」
「は?」
どういうこと?
カメラマンが個人的に直談判することなんてあるのか?
僕は聞いたことがないため戸惑ってしまう。
本当に純粋な理由だけで声をかけたのだろうか?
それとも別の理由があるのだろうか。
僕の嫌な予感が当たってしまいそうで怖かった。
そもそも彼はミュージシャンだ。
会場でのライブやライブハウスへの出演、
音楽番組、
ゲストがミュージシャンしか出ない音楽に強いラジオ番組、
などに出ることはあったが、
モデルやファッション雑誌の経験など一切ない。
元々のファッションセンスなのか、
彼はトップスをユニセックス、
ボトムスをレディース、
靴をメンズといったように、
男性向けでも女性向けでもある独特の多様性スタイルを持っていた。
確かに被写体にしたくなる気持ちは理解できた。
彼は意識的にそういう格好をしていて、
実際にそれが一番似合うのではないかと思うほど、
服の組み合わせが完璧だった。
多分だけど服の知識はプロレベルだろう。
彼を被写体にするにはもってこいの逸材だ。
但しそこに悪意さえなければーーーー
「はは⋯やだな〜冗談キツすぎ!
僕は身長157cmですよ?
モデルなんて身長がものを言う世界でしょ?
僕には向きませんよ」
そうはいっても彼の主張の一理あった。
彼はあまりにも小さい。
それでも彼を被写体に選ぶと言うことは、
やはり「何か」あるのかもしれない。
警戒した方がいい人物にならなければいいのだが、
彼は何も感じ取っていないのだろうか。
どこまで気づいているのか分からない。
もし全く気づいていないのであれば、
助言でカメラマンを警戒するように、
彼に伝えた方がいいように思った。
「それでも君を被写体にしたいんだ。
頼むよ」
特に理由を明かさずにさらに食い下がろうとする彼に、
やはり異質さや違和感を覚えた。
どうしてここまで固執するのか。
やっぱりどこかおかしい気がする。
彼を狙っているのか?
もしそうだとしたら、
なんのために?
目的が分からない。
「仮に厚底ブーツを履いて身長を誤魔化したところで、
精々160cm前後にしかなりません。
そんな小さなモデルなんて聞いたことないですよ」
彼のトドメの一言が効いたのかカメラマンは何も言わない。
言い返せるだけの言葉など用意していなかったのだろう。
まるで彼が誘いを断ることを全く予測していなかったかの反応だった。
(やっぱりどことなく悪意を感じるな)
仕事を餌にすれば彼が、
食いついてくると考えたのかどうかわからないが、
そんなことでは釣られたりはしなかった。
寧ろ動揺の色すら見せなかった。
最初から怪しげな誘いを受けるかもしれないと、
なんとなく勘付いているみたいな態度だった。
僕の存在には気づかないまま、
その後彼はスタッフのいるところに戻って談笑していたが、
そこへオズオズと声をかけてきた人がいた。
「さっきは大丈夫でしたか?
あの人よくない噂があるから⋯⋯」
ん?
あの人ってもしかして、
カメラマンのことか?
しかもよくない噂だなんて、
ますます彼に近づけさせたくない要注意人物ではないか。
どうやら彼が「何か」されたのではないかと、
彼女は心配していた。
やっぱりそうか。
あの人の目にはどこか危険性を孕んだものがあった。
「平気だよ。
心配してくれてありがとね!」
彼は明るく弾んだ声でそう返していたが、
心は不安の渦中にあるのか、
つくづく作り笑いみたいな、
僕の目にそれは「偽物」の笑顔に見えていた。
雫騎の雑談コーナー
ということでね。
いかがですか?
ますます雲行きが怪しいですな。
本編行きますか。
星崎は被写体としては申し分ないんですね。
あ、
もちろん「身長以外は」ですよ。
ファッションセンスがあって、
服の知識量もある。
俺は疎いから羨ましいです。
でもそのせいでよろしくない、
黒い噂のあるカメラマンに目をつけられてしまった星崎。
一度は交わしたものの果たして!?
では次回にてお会いしましょう。
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