数日後、今日はピンク髪をロングヘアに垂らしたNo.3の王尾霞は支部を訪れていた。戦闘の時は動きやすい服にしているが、プライベートはシンプルな白シャツ、黒ズボンという、普通な女子な感じだ。遠目にビルを眺めてもその損害ぶりが分かる。左龍に偵察に行ってほしいと頼まれたので、仕方なくビルに入る。
狭間川と善導寺の決闘が終わり、支部長の猪狩も無事救出。死亡者がほとんど出なかったのは、不幸中の幸いとも言うべきではあるが、この損害は並ではなく、復興にも大変時間がかかりそうなようなので、これは復興班に全力を尽くしてもらうしかなさそうだ。この影響で今日の対戦はほとんどキャンセルされ、王尾の試合もスケジュールが流れており、今日の夜10時となる予定だそうだ。まあ、時間が遅くなったのはありがたいが、睡眠が取りたい王尾にとっては少し不運だ。本部にとっては大損害なのだが。そんなことは露知らずに動ける性格も、No.3と呼ばれるゆえんでもあるのだろう。
「作業お疲れ様でーす。」
さりげなく瓦礫を必死に組み立てながら、柱を立てていた少女に王尾が声をかける。まだこのフロアは天井や床に穴が空いており、今話しかけられると、大変迷惑と言った顔で睨みつけられる。
「いや…さすがに疲れるわ。」
長い白髪を蝶々結びし、人形のような雰囲気をまとい、汗水垂らしながら文句を言っている彼女は、KING復興班班長篠野 野々。復興の腕なら、間違いなくクラブトップだろう。
「狭間川さん…強いのはいいけどあんまり壊したりとかそういうのはやめてほしいよなー!」
うーん!と、背伸びしてまたもくもくと作業にとりかかるが、復興班は怒っているのが、現場の雰囲気で何となく分かってしまう。
「まあまあ、それでここは守られたんだから。」
王尾がなだめに喋ると、若いような男の声がボロボロになった暗い廊下のほうからよく聞こえてきた。
「そうかもしれねーけど、大変なんだぜ?」
奥の復興フロアから出てきたのは副長の蘭世 柳だ。派手な赤髪をまとめているのに対して、眼鏡は中華風という、実に胡散臭い格好をしている。左手は義手だ。蘭世は元々選手であり、なにやら前も襲撃事件のようなものが起こり、その時の抗争で左手を失ったらしいがー、今となって真相を知っているのは、狭間川と皐月だけだ。彼ら二人で創設したこのクラブも、今ではこれほどまでに事業を拡大し、身寄りのない子どもを育成し、復興班や戦闘員に育て上げている。しかし、蘭世が興味を示したのは別のことだった。
「そういや最近、八平と渡り合った新人がいるらしいなぁ」
「あぁ…八平さん、なんか重症負ったらしいけど…、神楽くんのことだよねー」
横の瓦礫に座り、一息ついて喋り始める。
「まあ私たちから見てもオーラムンムンだったしいつか戦ってみたいんだよね〜」
蘭世は珍しく興味を示したらしく、自身のメモ帳、蘭世メモに情報を記し始めた。その様子を見て呆れていると、王尾の携帯が鳴り、通知を見る。
「わお。皐月さんから招集だ。あれー?私だけー?」
なにかやらかしたつもりはないが普段は戦闘狂の王尾だ。説教でもおかしくはない。
「ワンチャンクビとかー」
一気に王尾の顔が青ざめ、冷や汗をかき、あわてふためく。
「わたしこの仕事意外で生きてく自信ない〜!!」
急に走り始め、あわてながら王尾は支部を後にした。
一方、クラブ般若にスカウトされた魔除は、ガチバイオレンスの情報がある、地下の図書館に訪れていた。これも情報収集。ではなく、魔除の対戦相手を探すためだ。
「あったー、異能力図鑑……!!私と同じ異能力の子が…!」
その名は南雲台真白。この物語の2人のライバルが相対する時が迫っていた。
「わー!楽しみだなぁ」
ルンルンとした足取りで魔除は図書館の闇に消えていった。
「クビなんですか〜!?」
本部についた王尾は泣きそうな顔で、皐月にすりよった。皐月は若干引き気味で答える。今日は赤いメガネをかけているが、おそらく、夜通し資料や調査状況、この先のリーグ戦などに目を通していたに違いない。
「クビ…?なんのことだ?」
「へ?」
王尾は思わず腑抜けた声を出してしまうが、皐月は全く知らないという顔で、王尾を突き放した。神楽もその様子に呆れているのか引いているのかよく分からない表情だったが、そんなことは知らないと言った様子で皐月が本題に入る。自身のスケジュール帳をペラペラとめくりながら聞く。
「霞、お前今日の10時試合だったな?神楽を同行させてくれ。今は少しでも経験を積ませて将来的にはエースにさせたいと思っているんだよ。」
隣で神楽が聞いてないというような顔をしていたのはさておいて、
「もちろん!!いいですよ!よろしくね!神楽くん!!」
王尾がぬんぬんと近づいてくるのを見て、女子に話しかけられるとキョドってしまう神楽は、混乱してしまう。
「う……うす」
神楽にとっても激動の時代となり、後に憧れの師となる、王尾霞との共同任務が迫っていた。しかしそれを彼はまだ知らない。