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うわ、122話……めっちゃ重くてあったかい話だったね……🥀 結愛の「音を発する現象」って処理するって台詞、ゾッとするくらいリアルで、あの地獄みたいなコールセンターで自分を守るために作り上げたんだなって思うと胸がぎゅっとなったよ。 それに対して秋谷社長が「ありがとうな」「お前の盾になる」って言えたの、すごく不器用だけど本当に心から伝わってきた。 耳が赤くなる結愛、ちょっとだけ見えてよかった……🤍 2人のかっこ悪くて泥臭い戦友関係、すごく好きです。
第122話:結愛の秘密と、元コールセンターの過去〜鉄面皮に隠された地獄と、秋谷の不器用な感謝〜
「……左様でございますか。ご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません。ですが、弊社インフィニティ・ワンといたしましては、規約に基づきこれ以上の対応はいたしかねます」
帯広市内に構えた、俺たちの小さなオフィス(202号室)。
春の暖かな日差しが差し込む室内で、PCモニターの通話アプリ越しに、氷点下のごとき冷徹な声が響き渡った。
声の主は、画面の向こう側にいる俺のビジネスパートナーであり、この会社の防波堤でもある女性――結愛(ゆあ)だ。
ウェブカメラに映る彼女は耳にインカムを装着し、手元のモニターから一切視線を外すことなく、淡々と、しかし有無を言わさぬ圧を放って電話の相手を切り捨てた。
「はい。本件につきましては、これにて対応を終了とさせていただきます。……失礼いたします」
ガチャリ、と通話が切れる。
相手は、俺がVTuber『ルシフェル』として活動する中で絡んできた、かなりタチの悪い厄介なアンチ(自称・関係者)だった。
ここ数日、理不尽な要求と嫌がらせの電話を執拗に繰り返してきていた相手だ。
俺ならとっくに胃に穴を開けて泣き叫んでいるか、ブチギレて炎上覚悟の暴言を吐いているところである。
だが、画面越しに見える結愛の横顔には、怒りも、焦りも、恐怖も、微塵も浮かんでいなかった。
ただの「作業」を終えただけ、と言わんばかりの鉄面皮だ。
「……すげえな、お前」
俺――秋谷(あきや)は、三万円のゲーミングチェアから身を乗り出し、呆れたような、そして純粋に感嘆するような声を漏らした。
「あんな粘着質なクレーマー相手に、声のトーン一つ変えねえで論破するなんてよ。お前、心臓に毛でも生えてんのか?」
俺の言葉に対し、結愛は顧客用のインカムのミュートボタンを押し、ウェブカメラ越しに冷ややかな視線をこちらに向けた。
「心臓に毛など生えていません。ただ、感情のスイッチを切っているだけです。ビジネスにおいて、無駄な感情はノイズでしかありませんから」
「感情のスイッチを切る、ねえ……」
言うのは簡単だが、人間はそんなに器用にできちゃいない。
見ず知らずの人間から数十分も大声で怒鳴られ、理不尽な人格否定を浴びせられれば、誰だって傷つくし、震えるし、怒りで我を忘れるのが普通だ。
それを「ノイズ」と切り捨てられる彼女の異常なまでのスルースキル。
俺はその理由を、痛いほどよく知っていた。
「……秋谷社長。あなたは、私のこの態度を『冷血』だとお思いですか?」
「いいや。むしろ、お前がその『アーマー』を分厚くしなきゃならなかった理由がわかるから、痛々しいくらいだ」
俺の言葉に、結愛の眉がほんのわずかに動いた。
「俺とお前は、同じ地獄の釜の底……大規模コールセンターで、毎日インカム越しに他人の『怒声』と『絶望』を浴び続けてきた戦友だろ」
そう、俺と結愛は、底辺の職を転々とする中で、あのストレスがすべて凝縮された『合法的な地獄』で共に働いていた時期がある。
「こちらの非であろうとなかろうと関係なく、『今すぐ謝れ』『責任者を出せ』『お前のせいで人生めちゃくちゃだ』って言葉を、朝から晩まで浴び続ける日々。……まともに相手の言葉を受け止めていたら、こっちの精神(こころ)が壊れちまう」
俺がそう呟くと、結愛は小さく、本当に小さく息を吐き出した。
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레몬인
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そあち♡໒꒱
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なんたろ
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「ええ。だから私は、自分の心に分厚い鉄の壁を作りました。相手を『人間』だと思わず、『音を発する現象』だと処理するようにしたんです。……それが、私のこの『鉄面皮』の正体であり、あの地獄での唯一の生存戦略でしたから」
淡々と語られる過去の共通認識。
彼女のこの完璧なまでの冷徹さは、生まれ持った才能なんかじゃない。
劣悪な労働環境と、人間の剥き出しの悪意から自分の心を守るために、彼女自身が血を流しながら構築した『生存戦略(アーマー)』なのだ。
俺は、自分の情けなさを恥じた。
VTuberとしてバズり、大金を手に入れ、社長という肩書きを得て、どこか浮かれていた。
面倒なトラブルや、厄介な裏方の仕事は、すべてこの冷徹な優秀なパートナーに丸投げして、俺は安全な場所で「税金がー!」と騒いでいるだけだったじゃないか。
俺の盾になって、その鉄面皮の裏で、彼女がどれだけのノイズを処理してくれていたのか。
「……結愛」
俺はモニターに顔を近づけ、画面の中の彼女を真っ直ぐに見つめた。
「秋谷社長? まだ今日のタスクは残っていますよ。昔話をしている暇は――」
「ありがとうな」
俺の口からこぼれ出たその言葉に、結愛の言葉がピタリと止まった。
「俺は、お前みたいに器用に感情のスイッチは切れない。アンチに絡まれればすぐムキになるし、数字やクレームに押し潰されそうになる、ただの臆病なおっさんだ。……お前がその『鉄の壁』で、俺とこの会社(インフィニティ・ワン)を守ってくれてるから、俺は安心して表でバカをやれてる」
「…………」
「コールセンターで培ったそのスキル、正直言って引くくらいスゲエよ。でもな、これからは全部一人で抱え込むな。お前が処理しきれない『現象』が来たら、その時は……俺が社長として、お前の盾になってやるからよ」
四十歳の、不器用で、泥臭い、心からの感謝の言葉。
普段は文句と愚痴しか言わない俺の口から出たそのセリフに、結愛は目を丸くして固まっていた。
「……秋谷社長。あなたは、本当にバカですね」
数秒の沈黙の後。
結愛はプイッと顔を背け、手元のキーボードに視線を落とした。
「私が盾を必要とする状況など、未来永劫来ません。社長は黙って、自分のコンテンツの価値を高めることだけを考えていてください」
声のトーンは、相変わらず冷たかった。
だが。
画面越しに見える彼女の耳の先が、ほんのわずかに、桜の花びらのように赤く染まっているのを、俺は見逃さなかった。
「へいへい、頼もしいことで」
俺は小さく笑い、三万円のゲーミングチェアの背もたれに体を預けた。
底辺から這い上がってきた四十歳のおっさんと、地獄のコールセンターで心を凍らせた鉄面皮の女。
歪で、不格好なコンビかもしれない。
だが、この会社(インフィニティ・ワン)は、間違いなく俺たち二人の力で、次の空へと飛翔しようとしていた。
パソコンのモニターには、昨日書き上げたばかりの十万字の小説のデータと、次の配信の企画書が並んでいる。
「さあて、今日も一丁、稼いで税金納めてやりますか!」
俺の軽口に、結愛の静かなタイピング音が、心地よいリズムで応えていた。