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わあ、読み終わりました……! もう最初から最後まで、情報量の渋滞がすごくて楽しかったです🤍 猫耳フードに超ロング萌え袖の限定制服を着せられた最強の天才たちが、お互いの裏の顔を隠しながら「可愛い姿」で真顔で会話してるギャップがたまりませんでした。特に遼太の「威力を3.14倍にするクソ真面目な理論値」という台詞、ツボです。真面目すぎる天才が猫耳パーカーで怒ってる姿、想像しただけで笑えます。 それでいて第4話で一気に全員の立場が交錯して、騙し合いから共闘に切り替わる流れが鮮やかで、次がすごく気になります。続きが待ち遠しい……!
私立 烏鷺ノ宮魔導寄宿学院の狂宴(前編)
第1話:その耳は、冷徹な天才たちへの冒涜である由
鷺ノ宮魔導寄宿学院。そこは、世界の夜を支配する異能の天才たちが集う、最高峰の魔導結界都市。入学時に4つの寮へ強制配属されるこの学院の最深部、学園長室で、絶対零度の殺気が渦巻いていた。
「……学園長。これは、一体どういう不祥事だ」
水色の猫耳フードを深く被り、手の先が完全に隠れるほどの超ロング萌え袖仕様パーカーを着せられた白亜寮の如縣 遼太(普段名乗っている偽名:小形 遼太)が、地を這うような声で言った。天体魔術の超名門「如縣家」直系であり、裏では局所的重力を掌握する冷徹な天才。そんな彼の額には、怒りの青筋が浮かんでいる。
「いやぁ、素晴らしいじゃないか! よく似合っているよ、遼太くん!」
豪華なデスクの後ろで、高級なパイプをふかしているのは、この学院の絶対権力者であり、筋金入りのいたずら好きとして悪名高い学園長だ。彼は満面の笑みでパチパチと手を叩いた。
「我が学院が誇る特待生たちのために、私が夜なべしてデザインした特別な『限定制服』さ! 機能性と……そう、何より『可愛さ』を追求したんだ!」
「ふざけるな、この老害が」
ピンクの猫耳フードを不機嫌そうに揺らしながら、同じく白亜寮の千導 渉(普段名乗っている偽名:末田 渉)が眼鏡の位置を直した。彼もまた、ピンクの超ロング萌え袖パーカー姿だ。
「因果を逆演算するまでもない。この制服のロング袖は、腕の可動域を制限し、魔力伝導率を著しく低下させる。知性をこのようなファンシーな外見で括るなど、万死に値する愚行だ」
「まぁまぁ、渉も怒りすぎだよ〜。ほら、ポテチ食べる?」
黄色の猫耳フードを揺らし、千切れた袖の隙間から器用にポテチを口に運ぶのは、同じく白亜寮の鷹神 溯(普段名乗っている偽名:高尾 溯)。隠密暗殺一族の頂点でありながら、表の顔はただのマスコット生徒だ。
「溯、のんきに喰うな。……それより学園長、俺の服はなぜ犬耳なんだ」
茶色の犬耳フードを被った黒曜寮の飛影 翅(普段名乗っている偽名:綿部 翅)が、影から音もなく現れた。武門の頂点たる戦闘名門「飛影家」の直系であり、普段は目立たないモブ生徒Aを演じている。
「平穏なモブを演じたい俺がこれを着て歩けば、女子生徒どもに『つばたん可愛い! 保護したい!』と包囲される。マッハの拳で全員を置き去りにしたくなる我が身を案じてほしい」
4人はお互いを「遼太」「渉」「溯」「翅」と下の名前で呼び合う、固い絆で結ばれた唯一無二の親友同士、全員男子の1年生だ。だが、今この瞬間だけは、学園長の悪質ないたずらによって、誇り高きプライドをズタズタに引き裂かれていた。
「はっはっは! 嫌なら脱いでもいいんだよ? ただし、それを着ていない時間は、特待生の魔力補助金をすべてカットするがね!」
学園長は楽しそうにウィンクした。
「……チッ」
遼太が冷酷に舌打ちをする。
「機能性を損なうクソ制服だが、補助金を切られるのは数式上、合理的ではない。……行くぞ、お前ら」
「あぁ。だが、女子に見つかったらその場で全員フリーズさせる」
「俺は空間ごと切り裂いて逃げるよ〜」
「俺は音速で寮の天井に張り付く」
屈辱を胸に、4人は翻る萌え袖と共に学園長室を後にした。学院の中庭へ出た瞬間、彼らの前に2人の人影が立ちはだかった。
「よぉ、遼太! 渉、溯、翅! またその『可愛いお洋服』でお散歩か?」
ニカッと生意気な笑みを浮かべて現れたのは、紅蓮寮の大神 蹴介(普段名乗っている偽名:大土 蹴介)。4人の最大のライバルであり、彼は耳も萌え袖もない、普通の「赤いパーカー」を着ていた。
「あはは、本当だね蹴介。みんな今日もすっごくキュートだよ?」
隣でいつもニコニコと人当たりの良い笑みを浮かべているのは、黄昏寮の石神 秀兎(普段名乗っている名字:石田 秀兎)。彼もまたまともな「紫のパーカー」を着ている。彼ら2人も、4人とは下の名前で呼び合う同じ1年生のライバル関係だった。
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才川奏美
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「……蹴介、秀兎」
遼太の水色の猫耳が、殺気でピクリと跳ね上がった。
「お前たちのその、機能性の高い普通のパーカーを見るだけで不愉快だ。その生意気な顔、今すぐ重力で潰してやろうか」
「はっ、受けて立つぜ遼太! 次の模擬戦、俺の『三連獣牙烈脚』でその猫耳ごとぶっ飛ばしてやる!」
蹴介が赤いパーカーの袖をまくり、熱血な脳筋らしく拳を突き出す。その様子を、秀兎は満面の笑みのまま見つめていた。だが、その瞳の奥は一切笑っていない。
「あはは、楽しそうだね。もし邪魔なら、僕が『絶望の無音葬送(デス・サイレンス)』で、笑顔のままサクッと消し去ってあげてもいいんだけどな〜?」
「お前らの相手はいつでもしてやる。……だが、今はそれどころではない」
渉がピンクの萌え袖を震わせながら、冷酷な声で2人を遮った。
「現在、世界の裏を支配する強大な闇の組織『九頭蛇(ハイドラ)』の不穏な魔力が、この学院の結界外周に迫っている。学院の最深部データが、ピンポイントで外部に漏れている形跡があるんだ。この中に、内通者がいる可能性が極めて高い」
「えっ……? 九頭蛇(ハイドラ)……?」
蹴介が一瞬、驚いたように目を見開いた。
「あぁ、蹴介。奴らはもの凄く強い。もし見つけたら、俺の空間断裂で音もなく細切れにする」
溯がポテチの袋を閉じ、冷たい目で言った。
「俺も、平穏を脅かす裏切り者はマッハの拳で粉砕する」
翅の言葉に、周囲の空気が張り詰める。4人の天才たちは、まだ誰も気づいていない。目の前で
「へえ、内通者かぁ。怖いねぇ」
と脳筋らしく頭を掻いているライバルの蹴介こそが、その赤いパーカーのポケットの奥に『九頭蛇(ハイドラ)』の通信魔石を隠し持っている、完璧な裏切り者であるということを。
「まぁ、内通者が誰であれ、僕たち6人で全員返り討ちにすればいいだけの話だよ。ね、蹴介?」
秀兎がニコニコと笑いながら、蹴介の肩を叩く。その手のひらから、一瞬だけゾクリとするような殺し屋の気配が漏れた。
「お、おう! 当然だろ、秀兎!」
蹴介は一瞬で熱血な常識人の顔に戻り、胸を叩いた。
「フン、生意気なクソどもめ。遅れを取るなよ」
遼太が超ロング萌え袖を翻し、水色の猫耳フードを直しながら歩き出す。お互いを下の名前で呼び合うほど親しく、それでいて覇権を争う最大のライバル。歪な絆と、隠された裏切り、そして学園長の悪質ないたずらが交錯する中、最強の少年たちの日常が、静かに動き出していた。
第2話:深紅の狂犬が隠す、暗黒の蛇
私立 烏鷺ノ宮魔導寄宿学院の夜は深い。特に、熱血漢や肉体派の生徒が集まる『紅蓮寮』は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。消灯時間をとうに過ぎた午前2時。紅蓮寮の人気の絶えた大浴場へと続く脱衣所の片隅で、一人の少年が影に溶け込んでいた。大神 蹴介。昼間は、白亜寮の遼太たちに向かって
「次の模擬戦でその猫耳ごとぶっ飛ばしてやる!」
と熱く拳を突き出していた、ただの脳筋な熱血常識人。しかし、今の彼の瞳に、あの太陽のような明るさは微塵もなかった。
「……おい」
蹴介は赤いパーカーのポケットの奥から、禍々しい紫黒色の光を放つ小さな石を取り出した。闇の組織『九頭蛇(ハイドラ)』の最高幹部のみに与えられる通信魔石——『大蛇の眼(ハイドラ・アイ)』。彼が魔石にわずかな魔力を込めると、空間が微かに歪み、掠れた冷酷な声が脳内に直接響き渡る。
『……我が通信に応じるのが遅いな、蹴介。潜入任務は順調か』
「あぁ、問題ねぇよ」
蹴介の声は、昼間のハキハキとした声とは完全に別人のものだった。低く、絶対零度の冷徹さを孕んだ、本物の戦闘狂のトーン。
「昼間、白亜寮の奴らと接触した。如縣の重力、千導の因果改変、鷹神の空間断裂、黒曜寮の飛影の神速体術……。奴ら、学園長の頭の悪い悪ふざけで猫耳萌え袖パーカーを着せられてやがるが、実力は完全にバケモノだ。まともに正面からやり合えば、組織の並の暗殺部隊じゃ一瞬で消し飛ぶぞ」
通信の向こうで、組織の幹部が冷たく笑う気配がした。
『ふん、所詮は1年生のガキどもだろう。九頭蛇(ハイドラ)の精鋭を侮るな』
「侮ってんのはそっちだ、ボケ」
蹴介は冷酷に言い放ち、魔石を睨みつける。
「奴らは全員、威力を3.14倍にする独自のクソ真面目な理論値を持ってる。特に遼太の重力はヤバい。空間の反発係数を最小限に抑えた星型の圧縮魔術は、受ければ一撃で脳面を叩き潰される。……だからこそ、俺が内通者として『裏』で手綱を引いてんだよ」
蹴介がこの学園に潜入し、九頭蛇(ハイドラ)へ情報を流している本当の理由。それは、組織の圧倒的な力、 Northern 狂気的な強さを誰よりも知っているからこそ、自分のライバルであり、下の名前で呼び合うほど認めている『彼ら』を、組織の手から間接的に守るためでもあった。
「学園の防衛結界の第二障壁、東側の数式データを今から魔石経由で送る。九頭蛇(ハイドラ)が次に動くときは、必ず俺に事前に連絡しろ。俺が現場のルートを誘導する」
『よかろう。お前の手際、期待しているぞ、蹴介』
ブツリ、と通信が切れた。蹴介は静かに息を吐き、魔石を赤いパーカーの奥深くへと仕舞い込む。
「……すまねぇな、みんな。でも、これでいい」
彼が踵を返し、自室へ戻ろうとしたその時。
「あはは。蹴介、こんな夜中に誰とおしゃべりしてたの〜?」
闇の中から、鈴が転がるような明るい声が響いた。心臓が跳ね上がるのを、蹴介はコンマ数秒で完全に抑え込む。振り返ると、そこには黄昏寮の紫のパーカーを着た、石神 秀兎が立っていた。いつも通りの満面の笑み。しかし、その手にはいつでも口頭無詠唱魔法『マギア・バースト』を放てるだけの、不気味な魔力の収束が見え隠れしている。
「……秀兎かよ。脅かすなよ」
蹴介は一瞬で、いつもの「ちょっと運動神経が良いだけの脳筋常識人」の顔を作り上げ、苦笑いしながら頭を掻いた。
「いや、実家の親父から『ちゃんと飯食ってんのか』ってうるさい通信魔術が来てさ。男だらけの紅蓮寮じゃ恥ずかしいから、こんなとこで話してたんだよ」
「へぇ、実家の親父さんかぁ。仲が良いんだね」
秀兎はニコニコと笑ったまま、蹴介の目をじっと見つめてくる。その瞳の奥にある、歴史の闇を生きる暗殺一族の冷徹な光が、蹴介の嘘の「真偽」を確かめているかのようだった。
「だろ? ま、お前も夜更かしすんなよ。明日、遼太たちとの合同演習だしな!」
「うん、そうだね。楽しみだなぁ。……じゃあ、おやすみ、蹴介」
秀兎がひらひらと手を振り、闇の中へと消えていく。一人残された蹴介は、赤いパーカーの中で、再び冷酷な笑みを浮かべた。
(……危ねぇな。流石は笑顔のサイコパス殺し屋。だが、俺の正体(内通者)は誰にも、秀兎にさえも、絶対に掴ませねぇよ)
こうして、同じ1年生でありながら、最強の覇権を争うライバルたちの夜は、さらなる疑惑を孕んで更けていくのだった。
第3話:騙し合いの夜、神々のチェスボード
私立 烏鷺ノ宮魔導寄宿学院の夜は深い。この夜、奇妙なことに、お互いを下の名前で呼び合う1年生グループの面々は、それぞれの寮の暗がりに身を潜めていた。すでに大浴場で蹴介と対峙し、ひらひらと手を振って去ったはずの黄昏寮の石神 秀兎は、再び脱衣所の暗がりに音もなく姿を現していた。ムードメーカーの面影はない。すると、脱衣所の空間の重力が微かに歪み、水色の猫耳フードを深く被った白亜寮の如縣 遼太が、空間投影の魔術を伴ってホログラムのように現れた。彼らは世界最高の正義の組織『聖天の盾(セレスティアル・シールド)』に所属する「Wトップ」の最高エージェント。組織ではコードネーム『ラビット(秀兎)』と『アストラル(遼太)』として、頻繁にバディを組んで数々の死線を潜り抜けてきた。徹底した情報隠蔽のせいで、秀兎は隣の『アストラル』の素顔が遼太だとは知らず、遼太もまた自分のコードネームは明かさないまま、独自の精密数式演算で掴んだ真実だけを突きつけた。
「……いい子ぶるのもやめろよ、秀兎。……いや、我が『聖天の盾』の相棒、コードネーム『ラビット』」
「っ……!?」
遼太の脳内メッセージが割り込んだ瞬間、秀兎の満面の笑みが初めて凍りついた。紫のパーカーの下で魔力が爆発的に膨れ上がる。だが、秀兎はすぐにいつものニコニコ顔を作って誤魔化しにかかった。
「あはは……何のことかな、遼太くん? 変な冗談はよしてよ。僕、夜中におトイレに……」
『白々しい嘘を吐くな、秀兎。無駄だ』
遼太は冷酷に告げる。
『お前がどんなに気配遮断を徹底しようが、歩行時の右足への重心移動、音声を消失させる際の空間の歪み方、放置された歩幅の癖……。普段、任務で俺の隣を歩いている『ラビット』の行動ログと完全に一致する。数式上、お前が俺の相棒である確率は100%だ。不満なら、お前の紫のパーカーの左ポケットの奥に隠している、組織専用の第4階層暗号端末をこの場で直接鳴らしてやろうか?』
「……あはは、降参、降参。もういいよ、認めちゃう」
秀兎はため息をつき、瞳から光を消した。絶対零度の『ラビット』の本性が露わになる。
「お見事だよ。僕の裏の姿『ラビット』の動きを完璧に把握してるのは分かった。……でもさ、お前、今自分で『普段、任務で俺の隣を歩いている』って言っちゃったよね?」
『……何?』
今度は、ホログラムの遼太の水色の猫耳がピクリと硬直した。
「『アストラル』の戦闘ログにある、球体よりも魔力を星型(五芒星の数式ベクトル)に圧縮して空間の反発係数を最小限に抑え、威力を3.14倍にするクソ真面目な理論値。そして、その歩幅、その理屈っぽい喋り方……」
秀兎の唇に、ゾクリとするような意地の悪い笑みが浮かぶ。
「バレバレだよ、『アストラル』。まさかあの伝説の堅物が、女子から『星屑の撲殺(スターライト・パニッシャー)』なんて呼ばれて、猫耳萌え袖パーカーを着てプルプル怒ってる遼太だったなんてさ!」
『……その屈辱的な非公式命名とクソ制服の話は今するな、脳面を潰すぞ!!』
コードネームは明かさないつもりだった遼太だが、完全に墓穴を掘り、怒りで水色の猫耳を逆立たせた。
「あはは、可愛い。とにかく、これで僕たちWトップの足並みは揃ったね」
秀兎は冷酷な笑みに戻り、状況を整理する。
「蹴介くんの九頭蛇(ハイドラ)への内通ログは、僕が『デス・サイレンス』で傍受して組織に転送済み。奴は自分が完璧に内通できていると思い込んでいるから、そのまま踊らせておこう」
『あぁ。しかし、問題は蹴介だけではない。他の寮の奴らの状況も、俺の頭脳で逆演算済みだ。白亜寮の千導 渉は、千導家の最高峰の知性を狙う闇の魔導結社『真理の墓標(トゥルー・トゥーム)』に繋がれている。黒曜寮の飛影 翅も、実家の武門の縛りで戦闘狂の非合法クラン『牙を剥く鋼(ライジング・アイアン)』にパイプを持たされている』
その言葉通り、同じ時刻、それぞれの寮で2人は戦っていた。白亜寮の薄暗い書庫で、千導 渉はピンクの猫耳フードを忌々しそうに睨みつけながら、空中に展開された『真理の墓標』からの黒い魔導書式を拒絶していた。
『千導の直系よ。速やかに学院の禁術書庫の鍵の因果を書き換えろ。さもなくば平穏など今すぐ瓦解させてやる』
「……俺は、お前たちの駒になるつもりはない。因果を改変し、お前たちの命令をコンマ単位で遅延、偽装してやる……! 俺の知性を舐めるな」
渉はピンクのロング萌え袖を激しく震わせ、不本意な繋がりに必死に抗い、偽データを送って時間を稼いでいた。また、黒曜寮の地下訓練場では、飛影 翅が茶色の犬耳フードを被ったまま、血が滲むほど拳を握りしめていた。彼の前に浮かび上がるのは、非合法クラン『牙を剥く鋼』の通信紋章。
『神速の翅よ。明日、外周の警戒網をマッハで突破し、こちらの先行部隊を招き入れろ』
「……断る。俺は黒曜寮の地味なモブ生徒Aだ。俺の神速は、お前たちの血生臭い戦闘のためにあるのではない。この命令周波数を、俺の『ソニック・ドライブ』の絶対領域で一瞬にして置き去りにし、破棄する」
翅は時速マッハを超える体術の衝撃波を微弱に発生させ、強引に通信を遮断した。本人は凄まじく嫌がりながらも、次々と送られてくる実家経由の強制命令に、限界まで抗い続けていたのだ。脱衣所のホログラムの遼太が、超ロング萌え袖を冷酷に翻す。
『二人とも、表の平穏を守るために必死に隠し、命令に抗っているようだが限界がある。正義の組織のWトップがこの学園に揃った以上、これ以上の好き勝手は許さない。明日、合同演習を行う。蹴介にはそのまま完璧な内通者のツラをさせて泳がせる。その上で、翅と渉を搦め捕ろうとする組織の影も、まとめて引きずり出す。……機能性を損なうこのクソ猫耳パーカーを着せられている怨みも込みで、明日、全員を威力を3.14倍にして圧倒するぞ』
「うん、了解。笑顔のまま、サクッと世界の裏側を整理しちゃおうね、遼太」
投影が消え、秀兎もまた、紫のパーカーのフードを被り直して音もなく闇へと消えた。全員が裏の顔を持ち、騙し、抗い、そして見守る。絶対零度のチェスゲームの本番が、明日の演習場で幕を開けようとしていた。
第4話:大蛇の逆算、あるいはスパイの出現
世界の裏を支配する闇の組織『九頭蛇(ハイドラ)』は、決して無能ではない。むしろその知性は、悪魔的なまでに怜悧だった。彼らは蹴介という内通者を利用して、如縣 遼太の正体が『アストラル』であること、そして千導 渉の異常な因果改変能力の情報を、裏で完全に掴んでいたのだ。彼らの狙いは最初から、他の子たちの情報を掴み、如縣と千導の二人を組織へ勧誘することだった。そんな九頭蛇の悪魔的な逆算が進んでいるとも知らず、紅蓮寮の脱衣所で大神 蹴介が通信魔石『大蛇の眼(ハイドラ・アイ)』を仕舞い込んだ、まさにその瞬間。空間の重力ベクトルがゼロになり、暗闇からポテチの袋を持った白亜寮の鷹神 溯が音もなく現れた。
「おーい、蹴介。こんな夜中に熱心に『九頭蛇』と内通して、お疲れ様〜」
「っ……!? 溯、なぜここに……!」
蹴介はコンマ数秒で熱血脳筋の仮面を作り直そうとしたが、溯の瞳の奥に宿る「絶対零度の隠密」の光を見て、言葉を失った。
「無駄だよ。実は俺、正義の味方寄りのスパイ専門組織に所属してるんだ。お前の動き、とっくに全部マーク済み。……でもさ、可哀想に。お前、自分が完璧に組織を踊らせてるつもりみたいだけど、お前の背後の九頭蛇、お前が思うよりずっと頭いいよ? お前をトカゲの尻尾にして、他の子たちの情報を完全に掴みにきてる。それに……」
溯はのんきにポテチを口に放り込みながら、冷酷な現実を突きつけた。
「お前のその赤いパーカーの奥の通信。さっき、うちの組織の暗号班が全解除して、お前の『九頭蛇内でのコードネーム』が割れちゃった。……組織の最高幹部、コードネーム『ウロボロス』。お前、九頭蛇のめちゃくちゃトップじゃん」
「貴様……!」
蹴介の本性——九頭蛇の最高幹部としての狂気と殺気が脱衣所に爆発する。しかし溯は、黄色の猫耳フードを揺らしてのんきに笑うだけだった。
「怒んないでよ。俺がこれを教えに来たのはさ、上(Wトップ)から『奴らを泳がせろ』って命令されてるから。……さあ、九頭蛇の本隊が来るよ」
翌朝、私立 烏鷺ノ宮魔導寄宿学院の広大な第13演習場。遮蔽物となる岩や樹木が点在するその場所に、1年生の特待生グループが集結していた。
「おーい、みんなお待たせ〜! ポテチ食べる?」
黄色の猫耳フードを揺らしながら、溯がいつも通りのんきに袋を開けた。
「溯、演習前につまみ食いをするな。油が限定制服に跳ねたらどうする」
茶色の犬耳フードを被った翅が、影から音もなく現れた。一晩中命令に抗い続けたせいで、精神的にかなりの疲弊を抱えている。
「同感だ、翅。機能性を著しく損なうこの猫耳パーカー姿で、これ以上の不確定要素を増やすのは数式上、合理的ではない」
水色の猫耳フードを深く被り、超ロング萌え袖をだらりと垂らした遼太が、絶対零度の冷徹な瞳で言った。
「はは、遼太は今日も理屈っぽいねぇ! よし、今日の合同演習、俺の『三連獣牙烈脚』でその猫耳ごとぶっ飛ばしてやるからな!」
赤いパーカーの蹴介が熱血脳筋らしく笑った。彼は組織に自分のコードネーム『ウロボロス』が溯にバレたことを苦々しく思いながらも、まだ表の顔を維持しようとしていた。
「あはは、蹴介くんは今日も元気だね。先輩たち、今日もすっごくキュートだから手加減しなきゃダメだよ?」
紫のパーカーの秀兎が、満面の笑みを浮かべた。その隣で、ピンクの猫耳フードをピピッと怒りで逆立たせているのは渉だ。
「秀兎、知性を可愛いと括るなと言っているだろう。万死に値するぞ」表面上は、いつものように限定制服を巡るコミカルなライバル同士の言い合い。だが、その刹那、演習場の空間が「九つの巨大な大蛇の紋章」
によって激しく引き裂かれた。突如として姿を現したのは、九頭蛇(ハイドラ)の精鋭襲撃部隊。しかし彼らは、データを盗みに来たわけではなかった。『私立 烏鷺ノ宮魔導寄宿学院の天才どもよ。いや、世界最高の正義の組織『聖天の盾』の最高エージェント、コードネーム『アストラル(如縣遼太)』。 Northern 千導家の最高峰の知性を持つ者(千導渉)よ』九頭蛇の指揮官が放った言葉に、全員の動きが止まる。九頭蛇は、蹴介が流したデータを逆手に取り、遼太の正体が『アストラル』であること、そして渉の因果改変能力の情報を完全に掴み、狙い打ちにしてきたのだ。
『如縣遼太、千導渉。貴様ら二人の頭脳は、世界の理を書き換える。不本意な繋がりに抗い続けている千導よ、そしてクソ猫耳パーカーに憤る如縣よ。……我らの『九頭蛇(ハイドラ)』の味方となれ。さもなくば、この学園ごと他の有象無象を消し去る』
「なっ……!?」
白亜寮の渉が、ピンクの萌え袖を震わせ、眼鏡の奥の瞳を見開いた。自分の裏の繋がりだけでなく、遼太の正体、そして九頭蛇の真の狙いが自分たち二人の「勧誘」であることに驚愕する。だが、水色の猫耳フードを深く被った遼太は、超ロング萌え袖の中で冷酷に鼻で笑った。
「数式上、笑止万千万死に値する。九頭蛇、お前たちが蹴介の裏をかいて俺たちの情報を掴んだつもりになっているその歪んだ自信、今すぐその顔ごと重力で叩き潰してやろう」
「あはは、遼太の言う通りだよ」
紫のパーカーを着た秀兎が、満面の笑みを浮かべながら一歩前に出る。その周囲には、一切の音声を消失させる漆黒の暗殺刃が狂い咲いていた。
「僕たちの相棒を脅かし、僕たちの『ウロボロス(蹴介)』をコキ使おうとした大蛇の皆さん。笑顔のまま、サクッと細切れになってもらうね」
「……チッ。どいつもこいつも、化け物揃いだ」
赤いパーカーを着た蹴介が、前線へと歩み出る。自分のコードネーム『ウロボロス』が溯にバレ、組織が自分を欺いて遼太たちを狙ってきた今、彼の瞳には九頭蛇への完全な「拒絶」と、ライバルたちへの冷徹な「共闘」の光が宿っていた。
「おい、九頭蛇のボケども。俺をただの使い捨ての駒だと思ったこと、威力を3.14倍にして後悔させてやるよ」
不本意な命令に抗い続けていた黒曜寮の翅も、茶色の犬耳フードを跳ね上げ、マッハの神速体術の構えをとる。
「平穏を邪魔する大蛇め。一瞬で置き去りにして粉砕する」
騙し合いの夜は終わり、お互いの本性を知った1年生たちの、怒りの反撃が幕を開ける。