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◻︎結衣のおばあちゃん
「…はい、え?!わかりました、はい、あ、代わります」
結衣はスマホを私に差し出した。
「もしもし?うん、え?わかった、乗せていけばいいのね」
礼子からの電話は、施設にいる結衣のおばあちゃんの容態が急変したから、至急結衣を乗せてきてほしいということだった。
「結衣ちゃん、行くよ」
「はい」
施設に着いて、聞いていた部屋へ急ぐ。
「おばあちゃん!」
ドアを開けたそこには、結衣のおばあちゃんが横たわっていた。
駆け寄っておばあちゃんの手を取る結衣。
「おばあちゃん、結衣だよ、ごめんね1人にして!」
「…、……」
「なに?おばあちゃん、どうしたの?」
「ご…め…ん…ね……」
「おばあちゃん、大丈夫だから!私は大丈夫だよ、おばあちゃんがいてくれたから、安心して!だから、おばあちゃん…おばあちゃん!」
結衣の顔を見たら、ホッとしたように見えたおばあちゃんが、そっと目を閉じた。
医師が時刻を告げる。
「うわぁ!!おばあちゃん、おばあちゃん、起きてよ、おばあちゃん」
激しくおばあちゃんをゆする結衣を抱きしめた。
「結衣ちゃん、もう寝かせてあげよう、ね?おばあちゃんは結衣ちゃんを見て安心したんだよ、だから…」
「……」
部屋のすみには、結衣のお母さんがいた。
黙って、私に頭を下げている。
そこに、礼子がやってきた。
「あ、おばあちゃんは?」
「たったいま…」
「そう…結衣ちゃん、会えた?」
「…」
結衣は黙ったままうなづいた。
「少し、話そうか?結衣ちゃん」
部屋から出てロビーへ行く。
結衣は私の手を握ったままだったから、私もついて行った。
「おばあちゃんと、話せた?」
「…はい、ごめんねって、言ってました」
「そっか、おばあちゃんはずっと結衣ちゃんのことを気にかけていたからね。自分のせいで結衣ちゃんを不幸にしたと言ってたの。申し訳ないって」
「そんな…」
「結衣ちゃんに最期に会えて、おばあちゃんはうれしかったよね、きっと」
「私もそう思うよ、結衣ちゃん、おばあちゃんは結衣ちゃんを見て安心した顔をしてたよ、結衣ちゃんが大丈夫だって言ってたからだと思うよ」
「そうかなぁ…、安心してくれたかなぁ…もっと、おばあちゃんに色々してあげたかったなぁ…」
その後は黙り込んでしまった。
祖母の葬儀は家族葬で行われた。
「私、おばあちゃんに言えてなかったことがあるんだ…」
「ん?何?」
「私ね、おばあちゃんが思ってたほど不幸じゃなかったんだよって。おばあちゃんがいてくれたから、楽しいこともたくさんあったし。これからはもっと楽しいこと、見つけるからねって」
遺影に語りかける結衣を見て、もう大丈夫な気がした。
「結衣ちゃんはまだ若いもんね!これから先が楽しみだね」
「うん、ありがとう、美和子さん」
結衣の意志で、高校は退学して働くことにしたらしい。
祖母がいた施設で住み込みで、介護の仕事を手伝うことに決めたと礼子が言っていた。
落ち着いたら、定時制高校に入ってそれから自動車免許も取るとか。
母親とは連絡はするが距離は置くこと、それも結衣が決めた。
「だってね!私にはこんなに頼もしいお母さんがあと2人、できたんだもん」
ね?と私と礼子を見た。
これも何かの縁、結衣と関わっていくことにした。
_____でも、いつまでもお手伝いさんのままじゃあ…
「あのね、結衣ちゃん、実は私、礼子の友達なの。お手伝いって嘘ついてごめんね」
「うん、わかってたよ」
「え?」
「だって、あの部屋で誰よりも偉そうだったもの」
「偉そうだった?おかしいなぁ、お芝居下手くそってことか…トホホ」
とっくにバレていたとは…情けない。