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◻︎新たな問題
「そうですか、あの子は落ち着くところに落ち着いた、ということですね」
久しぶりに会った雪平さんは、やっぱり落ち着いた話し方でほっとする。
今日は警察への窓口になってくれた雪平さんと、礼子と私で報告会という名の晩餐会だ。
「今回は特に美和子の協力に感謝です。ありがとうね、美和子」
「私は別に何もしてないよ。結衣ちゃんの話し相手をしたくらいだし。それも家政婦だという嘘もバレてたしね」
「なんだったっけ、あ、そうそう、あの部屋で1番偉そうにしてたから、だっけ?」
「あはは、美和子さんらしいですね」
「そんなつもりはなかったのになぁ」
運ばれてきた料理をつまみながら、美味しい日本酒をいただく。
今日は礼子が、お礼にお酒でもどう?と雪平さんも一緒に誘われた。
こうやってゆっくりと雪平さんと話すのは、事故に遭って以来だと思い出した。
「そういえば、あの時はありがとうね、礼子!」
「え?あ、美和子ちゃん轢き逃げ事件の時のこと?」
「そうでしたね、お世話になりました」
雪平さんも頭を下げている。
「びっくりしたけどね、おおごとにならずに済んでよかったね」
「ま、私にはバチが当たったんだろうけどね。今回のことで自分がいかに欲にまみれているか思い知らされたよ、結衣ちゃんを見ててさ…」
これまで苦労した分、結衣にはこれからはしっかりと自分のために生きてほしいと思った。
「あの子なら大丈夫でしょう。こんなに心強い大人の女性がついているのだから」
雪平さんが言う。
「大人になるって難しいですよ、私はまだまだだと思い知りました。老けるのと成熟するのとは、全く違いますね」
「美和子がそう言うなら、私なんてもっとダメだわ…誰かの役に立ちたいって言いながら、それは実は自分が認められたいからってわかってるし」
雪平さんがクスッと笑った。
「どちらも、そういうことが自分でわかっているということが、大人であり成熟してることだと思いますよ」
「そうですかねぇ…」
「あれっ!」
離れたところから、声を掛けられたような気がして周りを見た。
若夫婦と老夫婦の四人組がそこにいた。
「あら、美和子さん、お久しぶり。こんなところでお会いするなんて偶然ね」
「まぁ、お義父さん、お義母さん、それに聡さんと麻美さんも?」
まさか、こんなところで夫の両親と義弟夫婦に会うなんて。
_____雪平さんと二人だけじゃなくてよかった…ふぅ!
「今日は両親の誕生日が近いのでそのお祝いに大人だけでここにきたんですよ」
私の義理の妹にあたる麻美が答える。
「そうでしたね、すみません、すっかり忘れてました」
「いいんですよ、子どもじゃないから誕生日なんて。そういえば隆一は元気?」
「えぇ、みんな元気にしてます」
長男である夫は家を出て、歳の離れた弟の聡が家を継いで両親と同居することになったと先日聞いたばかりだ。
「そうだわ、美和子さんの考えも聞いてみたいんだけど。今度遊びに行ってもいいかしら?」
「あー、はい、いつでもどうぞ」
私の考えなんて聞き入れる気もないくせに、と毒づきながら返事をする。
同居するにあたって、実家をリフォームするか?新しく建てるか?で意見が食い違っているらしい。
「じゃ、近いうちに伺うから、隆一にもよろしくね」
「はい、待ってます」
_____息子に会いたいなら、そう言ってくれればいいのに
普段は距離を置いているからなんの問題も感じないけど…。
憂鬱になってしまって料理の味が半分落ちた気がした。