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どちらかといえば、便乗している節すらあった。
皆、何かしらに不満を抱いている。退屈、不公平、その他色々と。
もっと云えば“刺激”を求めている。そこに今回の、非現実的な『ネオ・ジェネシス』の登場。
人は人頼み。自分には関係無い。誰かが何とかしてくれる。
ネットとは匿名なので、ある意味本音のぶちまけ場でもあった。
「クズ共が……。吐き気がしそうだぜ」
世界の裏を生きてきた彼等にとって、確かに現在の世は荒み過ぎていた。便乗している彼等に吐き捨てる時雨は、皆を代弁しているに過ぎない。
「…………」
口にしないだけで、皆気持ちは同じなのだ。
“この世は救いようがない”――と。
だがそれで『ネオ・ジェネシス』が正しい、と言うつもりも無い。
彼等はれっきとした『敵対者』で在り、世界にとって危険過ぎる存在である事に変わりはない。
――生中継では動きがあった。
『勿論、力無き正義は無に等しい。そこで今回、君達に分かりやすい形で一つ、面白い趣向を用意した』
エンペラーが突然、意味深な事を言い出したのだ。
“何をする気だ?”
「まさか……」
誰もが危惧したそれは、彼等なら誰もが知る、表では決して出せない――“異能”という力。その御披露目。
画面内のエンペラーは右手を翳す。視覚は出来なくとも、そこには確かに異能力の集束が感じられた。
「馬鹿なっ! こんな場所で特異能を発動すれば――」
ただ単に裏の力が暴露されるだけではない。予想されるは――大惨事。時雨が叫んだが、どうする事も出来ないし、もう遅かった。
“パチン”――と、エンペラーは指先を鳴らす。
――次の瞬間、目を背けたくなる“何か”が展開された――筈だった。
「――っ!?」
だが何も起こらない。映像内は変わらぬまま。
「何だ? 何をしやがった……」
「確かにあの時……」
そう。確かにあの時、エンペラーからは異能力の発動を感じられた。
だが表面上は何かが起こったようには見えないし、これには流石に彼等含む皆も、怪訝に思う他無い。不発だったとも考えられないし――だ。
『御理解頂けただろうか? まあ、直ぐに分かる』
時が止まったかのような静寂の中、エンペラーより紡がれる声。
常人はおろか、裏の者にさえその意味は理解出来なかった――が。
“緊急速報”
突如緊急テロップが流れた。
『流石に日本のメディアは早いね』
確かにエンペラーは“ある事”を、自身の異能力で披露していた。続く字幕に戦慄が走る――
※午前9時30分頃、国会議事堂で突然の爆発炎上事故発生――
「国会議事堂爆破だと!?」
この事実に驚愕する他無い。
「既にホワイトハウス消滅をやってのけたのだ。奴ならやりかねん。だがどうやって……」
薊の疑問。それは此処からかなり距離があった。幾ら異能の力でも、目の届かない範囲までは――
「粉塵爆発……。奴は予め国会議事堂に、核となる粒子を停滞させていたんだ。後は起爆する為の異能力を遠隔的に飛ばしただけ。奴は……最初からこれが狙いだったのか!」
それまで沈黙を貫いていた雫が口を開いた。エンペラーと同一の能力者であるからこその理論。だが思考までは読めなかった。まさか狙いが日本の中核の終焉を、公の場で晒す事までは。
「クソがっ!」
行き場の無い憤り。時雨がテーブルの上に拳を落とす。
このまま傍観するしかない立場。皆が『ネオ・ジェネシス』の掌で踊らされていた事に。
『さて、我々が本気だという事を分かって頂けたと思う。つまり新たな世に、古き法定は不要――』
それを嘲笑うかのような『ネオ・ジェネシス』の、エンペラーの独壇場。
『うん?』
しかし動きがあった。このまますんなりと事は運ばない。
到着したのだ。日本の精鋭――特殊部隊が、テロ鎮圧へ向けて。
生放送では正に映画ばりの事態に。ネット上では未だに、この放映自体がやらせか何かと思われても仕方無いだろう。
それ程、表に於いては非現実的な光景が展開。
エンペラー等三人は、無数の銃口に包囲されていた。
『やれやれ……。まあ当然の事とはいえ、公共の場で“血”は見せたくなかったのだが』
普通なら絶体絶命の窮地。だが彼等に臆する素振りは皆無。
『フフ……』
きっとフードの下は狡猾な笑みが浮かんでいるに違いない。エンペラーの両隣で沈黙を保っていたチャリオットと、ハイエロファントが一歩前へ出る。
「馬鹿何考えてんだ!? 奴等に銃火器なんかが通用する訳ねぇだろ! てか逃げろやっ――」
裏に属する彼等からすれば、結果は火を見るより明らか。言った所で画面内には届く筈も無いが。
『ちなみに武力行使も必要無い。新たな世に近代兵器は全て不要――』
言い終わる前に『撃てぇ』という号令の後、一斉掃射音が響き渡った。それでも尚、生中継が続けさられる神経もどうかと思うが。
――誰もが生中継による射殺現場が繰り広げられた、と思ったに違いない。
しかし銃声音とは裏腹に、白い筈のフードは血飛沫を上げる事無く、何ら変化する事無く銃声音だけが断続的に響き渡るという、ある意味異様な光景が展開されていた。
まだ誰もが、これは映画か何かに違いないと思ったに違いない。
だが直ぐに現実である事を突き付けられる。
『愚かなる者達へ血の制裁を』
無数に飛び交う弾丸の中、何事も無いかのように平然とエンペラーがそう言い放った後、異変が――。
チャリオットとハイエロファントが軽く手を翳した瞬間、それは起きた。
銃身が突然暴発して上半身が吹き飛ぶ者。何故か突然燃え上がる者。その全てがライブ中継されてしまった。
映像内からはこの世の者とは思えない程の、断末魔の絶叫が繰り返される。
流石にこれを映画と思う者は居ないだろう。日本中、時が止まったかのように凍り付いていた。
「奴等……」
「何て事を……」
こうなる事は分かっていた。だが彼等にはどうする事も出来なかったのだ。
そして更なる惨劇が――。
二人を下がらせたエンペラーが一歩前へ出ると、残りの隊員やまだ絶命に至っていない者達含めて全て、一瞬で無数の肉塊へと分断されていたのだ。
日本中でこの日、一番の悲鳴が上がった。
瞬く間に日本の誇る、特殊精鋭部隊は生中継の場で全滅。それ以外の局内の者には不思議と死傷者は出なかったが、ディレクターやその他の者はただただ怯え、カメラを回し続けるしかない。
『とんだ無粋を見せる事になってしまい、国民の皆さんには大変不快な思いをさせて申し訳無い。だが新たな世には、このような尊い犠牲も必要だという事だ』
そんな地獄絵図の中、エンペラーは悠然と言い放ち――
『では近い内にまた。新たな世の始まりを、諸君らはどうか楽しみにしといて欲しい。不要か――必要か。自分達の存在価値を、今一度見詰め直しながら……ね』
それは不要と判断された者の末路の事か。
カメラに手を振りながら、三人は局内から一瞬でその姿を消していたのだった。
「…………」
余りの惨劇に誰も言葉を発せない。ただようやく放映カットとなったのか、画面では砂嵐となっていた。
「やってくれますね……彼等」
その沈黙を破って放たれる声。
「――っ!?」
だがそれはこの場に居た彼等からではない。
皆が振り返ると何時の間にか其処には、これまで連絡のつかなかった管理部門統括兼、狂座の現責任者代行――霸屡の姿があった。
「てっ――てめぇ! 今まで何やってたんだオイ!?」
腕組みしたまま神妙な表情の霸屡に、真っ先に掴み掛かったのは時雨。
「てめぇのせいでこんな事になったんだろうが!」
口には出さなくても、皆気持ちは同じだろう。
責任者代行とも在ろう者が、みすみす敵の表進出を許してしまった。そんな彼に批難の目が集中する。
「まあ落ち着いてください」
そんな批難を軽く流しながら、霸屡は己を掴んだ時雨の手を往なした。
「これが落ち着いていられるか!」
当然、時雨は納まらない――が。
「時雨さん、先ずは事情を聞いてから」
「ぐっ!」
仲裁するかのような琉月の言動に、時雨も退くしかない。
「これまで何をしていたのです? このような状況の時に」
だがそれはあくまで時雨を落ち着かせる為。話自体は終わってない。穏やかながらも、問う琉月の声には棘があった。
彼女が一番納得いかないのも当然。霸屡からの指示を皆に伝達するのは、琉月の役目でもあるからだ。
それが今の今まで連絡消息不明。返答次第によっては亀裂も――
「今回の遅れた件は私の不手際。そこは御詫びします、申し訳無い。先程まで――“電脳世界裏首脳会議”に出席しておりまして」
霸屡はその理由を、ゆっくりと語り始めたーー。