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出会い
新しい制服に身を包み、高等部の校舎に入る。
例年より遅く開花した桜の花が、春の風に吹かれてひらひらと淡いピンク色の花びらを舞い落とす。
怪獣のような弟に駄々をこねられ、保育ルームを後にするのが遅れた狼谷隼は、イライラしながら新しい教室へと足を速める。
角を曲がったその時
ドンッ!
「って…」『ぃたっ』
誰かにぶつかり、小さな悲鳴をあげふらついた相手の腕を咄嗟に掴んで引っ張る。
『あっ、ごめんなさい』
聞き覚えのない声。
周りの女子の声をいちいち覚えてるわけでもないが、初めて聞く声だと思った。
「いや、こちらこそ悪かっ…」
言いかけて隼の目が大きく開く。
目の前にいたのは、(多分)初めて見る女生徒。
2つに結ばれた色素の薄い髪。
透き通るような白い肌。
深い海のような青い瞳。
淡いピンク色の頬と唇。
どうしてこんなにも鼓動が速いのか。
きっとぶつかって驚いたせいだ。
『…あの……』
困ったように声を発する女生徒。
その目に写るのは、隼のおかげで体勢を保てたのにまだ握られた手。
「あ、悪い…」
慌てて手を離す隼。
『あの、高等部の1年生の校舎ってこっちで合ってますか?』
「ああ。…1年か?」
『はい。高等部を受験して。広いから迷っちゃって』
なるほど。だから見覚えのない顔だったのか。
「…じゃあ、教室まで一緒に行くか。俺はC組の狼谷隼だ。何組だ?」
『B組です。結城咲茉(ゆうきえま)といいます』
2人並んで教室へと足を運ぶ。
隼は自分がいつの間にか、小柄な咲茉の歩幅に合わせて歩いていることに気がついた。
B組の前にたどり着く。
「じゃ、俺はこっちだから」
そう言って隼は隣のC組のほうへ身体を向ける。
『あっ、はい!狼谷くん、ありがとうございました!』
鈴を転がすような声で名前を呼ばれ、落ち着きを取り戻した心臓が再び早鐘を打つ。
「…っ。ああ、またな」
少し急ぎ足でC組の教室に入る隼。
教室の前での一部始終を見られていたようで、嘘川たちから怒涛の質問攻めに合う羽目になってしまった隼だった。
つづく