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衝撃の余韻が、まだ空気に残っていた。
体育館の一角。
さっきまで確かにいたはずの”男たち”はーー
もう、いない。
吹き飛んだはずの位置にも、何も残っていない。
まるで最初から存在しなかったかのように。
「……終わったの⁉……」
澪の震える声が、背後から近づいてきた。
その声で蒼真は、はっと我に返った。
「……なに、今の」
澪の視線は入口の方へ向いている。
だが、焦点が定まっていない。
「いたよね……?」
確認するような言い方。
自信がない。
見えていたはずなのに、はっきりしない。
「……ああ」
蒼真は短く答えた。まだ息が荒い。
拳を開き、指先を見る。
(……また、減ったな)
確実に削れている。
だが、それ以上に今は別のことが頭を占めていた。
周囲を見る。
誰も、こちらを見ていない。
さっきの出来事に、誰一人反応していない。
「……おかしい」
澪が小さく言う。
「なんか……全部、おかしい」
それは正しい。でも、説明できない。
「……おにいちゃん」
ひなが目を覚ましていた。
ゆっくりと起き上がり、周囲を見回し、そして蒼真を見た。
「……終わった?」
「ああ」
蒼真が答える。
「もう、大丈夫だ」
ひなは、ほっとしたように息を吐いた。
その反応。
それは”全部見えていた”人間のものだった。
(……なんで、この子)
その様子を見ていた澪の中で、抱えていた疑問がはっきりと形になった。
そのときだった。
館内スピーカーが、突然ノイズを発した。
ザッーーという音。
全員の意識が、そちらに向く。
「……避難者の皆様へ」
無機質なアナウンス。
「現在、通信の一部が復旧しました」
一瞬にして空気が変わった。
「ご家族との連絡を希望される方は、順次ーー」
ざわめきが広がった。
「ほんと⁉」「電話、繋がるのか⁉」
人が動き出す。
さっきまでの沈んだ空気が、一気に揺れる。
澪も反応した。
「……行こう」
迷いなく立ち上がる。
「家、確認したい」
それは当然だった。
蒼真も頷く。
「ああ」
ひなも立ち上がった。
三人で通信スペースへ向かう。
すでにたくさんの人が集まっていた。
焦りや希望が入り混じった空間。
三人は並んで順番を待った。
「どうぞ」
スタッフが端末を差し出し、澪が受け取った。
震える手で、番号を入力する。
コール音。
『ーーもしもし⁉』
繋がった。
澪の表情が、一気に崩れた。
「お母さん……!」
電話の向こうから母の声。
安堵。そして、涙が滲みだす。
「うん……うん……大丈夫……!」
言葉が途切れる。
感情が溢れ出す。
(……よかったな)
その様子を見ていた蒼真は、そう素直に思った。
きっと、今まで強がって我慢していたのだろう。
「どうぞ」
スタッフから蒼真に端末が渡された。
番号を入力する。
見慣れた自宅の番号。
コール音が鳴る。
鳴る。
鳴る。
鳴る。
ーー出ない。
「……もう一度、試してみますか?」
スタッフに声をかけられ、蒼真は別の番号を入力した。
母親のスマホの番号。
コール音。
鳴る。
鳴る。
鳴る。
ーー出ない。
蒼真は諦めて終了ボタンを押そうとした。ーーが、そのとき。
画面が、一瞬だけ乱れた。
ノイズ。
表示が揺れる。
(……?)
しかし、すぐに元通りの画面に戻った。
でも、違和感が残る。
「番号は正しいですか?」
スタッフが端末を覗き込んできた。
「……はい」
蒼真は答える。
スタッフは蒼真から端末を受け取り、画面を操作した。
そして、その表情がわずかに変わった。
「……登録、されていません」
「……え?」
蒼真が顔を上げる。
「この番号、存在していません」
淡々とした声が、重くのしかかる。
「いや、そんなわけ……」
「別の番号は?」
次は、父親のスマホの番号。
しかし今度はコール音さえしない。
そして、数秒後にその番号は画面から勝手に消えた。
「……すべて、該当なしです」
その一言で現実が崩れる。
スタッフは去っていった。
(……消えてる)
家族ごと。
自分の”存在の証明”が。
「……どうだった?」
電話を終えた澪が振り返った。
「……繋がらなかった」
それだけ言う。
全部は言わない。言えない。
澪は表情を曇らせた。
「……そっか」
それ以上は聞かない。
なんとなく、聞くのが怖い。
「……ひなも、やる」
ひなが端末を持ったスタッフに声をかけた。
「保護者の方の番号はーー」
「わかんない」
当たり前のように言うひなに、スタッフは言葉を失った。
澪も動けない。
(……この子)
やはり、おかしい。
スタッフは苦笑いを浮かべながら去っていった。
蒼真は、あらためて自分の指先を見た。
消えかけている感覚。
それでも、目の前には確かにいる。
ひなが。
澪が。
(……選ぶしかねえな)
守るか。
消えるか。
どっちかじゃない。
守るために戦い、その先には……。
それが、突き付けられた現実の中での、蒼真の選択だった。