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好感度が上がって少しだけ、安心できた気がした。
もし、これでも好感度が上がらなかったら、きっと私は、一生彼の好感度を上げることは出来ないんじゃ無いかと思ったからだ。グランツとの接点がこれで出来てよかったなあと思っている。
(あと、マイナスから脱却できたし)
そしてやはり、忘れているけれど、覚えている、っていうのも確認できて、私は安心していた。記憶が封印されているのだろうと。グランツの中にちゃんと私の存在が残っていることに安堵のため息が出来た。
「グランツ、怪我したところ見せて欲しいんだけど」
「……」
「えっと、変な意味じゃなくて、ほら、悪化したらダメだし!」
私がそういうと、グランツは少し不思議がりながらも、狐に負わされた傷を見せてくれた。かなり深くきられていて、自分の衣服を破って止血したようだったが、止る様子はなく、赤く滲んでいた。これで、よく平気なかおをしていられると。
グランツが防ぐことが出来るのは、あくまで魔法攻撃だけであって、物理攻撃は全て防ぐことは出来ないだろう。それに、よく見れば木剣が折れて真っ二つになっている。よく私を逃がそうとしてくれたものだと、彼の勇気というか、無謀とも取れる行動に感心してしまった。だって、私はグランツとまだであって間もない存在だったから。それでも、逃そうとしてくれるあたり、彼にもそれなりの良心はあるらしい。ないとは思っていないけれど、グランツはそこまで他者に優しいイメージがなかったからだ。
「何をする気ですか」
「黙ってて。痛かったら言って」
私は、彼の傷口に手を当て治癒魔法を施した。グランツはそれをやっぱり不思議そうな目で見ている。何か言いたげだったが、口を固く閉ざしてしまった。言いたいことがあるなら言えばいいのにと思ったが、彼なりに何か思考して、言うことをまとめているのかも知れない。
治療はすぐに終わって、私は手を離した。エトワールの時と同じように、いやそれ以上に早く傷口を塞ぐことに成功し、初代の聖女の力かあ、としみじみ思った。まあ、初代の聖女が、歴代の聖女と何が違うのかは分からないし、同じだと思っているのだけど、もし、初代の聖女だけに与えられている力があるとするのなら、それは、少し気になるところだった。
「ふう……もう、これで大丈夫だと思う」
「…………ありがとうございます」
「どういたしまして」
私がそういえば、グランツは自分の腕を見て、何度も手を開いては閉じて、と繰り返していた。未だに信じられないのかも知れない。それから、私の方を見ると、グランツは言いにくそうに口を開いた。
「貴方は何ものなんですか」
「へ?」
「だって、可笑しいじゃないですか。普通の人間は、魔法は使えません。平民の中にも、使える人間はいますが、ごく少数です。それに、魔法になれていた気がした」
「……たまたま」
一気に距離をつめられて、私も混乱してしまった。いや、こんなこと聞かれるなんてはじめから分かっていたはずなのに、いざ聞かれてみると、どう言い訳しようか、説明しようか迷ってしまった。多分、私が答えない限り、グランツは私から離れてくれない。自分から、話しかけに行ってこれはどうなのかと言われればそれまでなのだが、グランツの目は、先ほど光を帯びたものではなく、明らかに、疑惑の目立った。
言われていることはまさにその通りなのだ。
「たまたまなわけがないでしょう。じゃなければ、あんな魔物と対峙したとき、動けません。それに、魔物が出ることを知っていたみたいです」
「し、知らないってそれは」
「ここに来るまで、魔物の骨らしきものが落ちていました。共食い、餓死、色々考えられますが、もしかして、貴方が倒したのですか?災厄の魔物は、倒した直後、したいが残らないものもあるそうですが、残るもあります。とすると、やっぱり、貴方が倒したんじゃって、俺は思ってしまいますが」
「そ、それは……」
「貴方は何ものなんですか?」
同じ質問を二度投げられ、私はどう答えるべきか迷った。本当のことをいったとして、やっぱりそれはリスクを背負うし、危険だし、かといって、ここで彼を騙して、好感度が減るのも嫌だ。
ちらりとグランツを見れば、グランツの瞳は真っ直ぐと私を捕らえていた。
確かに、モアンさんには記憶が無いっていっているのに、これでは完全に記憶がある人になってしまう。だからこそ、グランツはさらに怪しんでいるのだろう。
「何ものって言われても……」
「記憶喪失だといっていたらしいですが、怪しすぎます」
「うっ」
「何が目的で、俺の家に忍び込んだんですか」
「忍び込んだって人聞きが悪すぎる!拾ってくれたのはモアンさんだし」
「それが、演技だったかも知れないでしょっていっているんです。何が目的なんですか?」
と、グランツは攻め寄ってきた。私は後ずさりをする。さっき、治癒しなければよかったかなあと思うぐらい、ぴんぴんで、前の世界と関係が違うからこそ、凄い勢いで詰め寄られている。前の世界のグランツだったらこんなことはしないだろう。
(礼儀がないのは当たり前なんだけど、私のこと完全に下に見ているのよね……)
まあ、下に見られるのが嫌なわけじゃないけれど、さすがに対等な関係であって欲しかった。もしかしたら、聖女の護衛になったと言うことで浮かれているのかも知れない。グランツに限ってそんなことがあり得るのかどうか。
「何の目的もないし、気を失って倒れていたのは事実よ。魔法が使えるのは、ちょっと……」
「誤魔化すって言うことは、何か隠しているんじゃないですか」
「なんで、そんなに詰め寄ってくるわけ?」
私がそう聞くと、グランツはピタリと動きを止めた。
だって、こんなに効いてくるのはおかしいと思ったから。だって、普通、ここまで聞くかと思ったからだ。別に、これまでモアンさんやシラソルさんに危害を加えたわけじゃないし、グランツに危害を加えたわけじゃない。でも、どうして、ここまで悪人みたいに詰め寄られなければならないのか。
私は逃げる術として、本当はいいたくないんだけど、とある言葉を口にしてみる。
「闇魔法じゃないんだし良いじゃない」
「……だったとしてもですけど。というか、論点が違います」
「うっ……」
「何故、隠すんですか?」
「じゃあ、逆に何でグランツはこんなこと聞くの?」
「貴方が危険じゃないかどうか、知る権利があります」
「だから何で」
「モアンさんや、シラソルさんに危害が加えられないか。彼らが安全に過ごせるかどうか。貴方が、俺や、俺の大切な人にとって危険な存在ではないか、確認するためです」
「……っ」
彼が私に抱いているものが何か分かった気がする。未知のものを恐れるのは不思議なことじゃない。正常なことだ。けれど、彼の言葉の中に入っていた、大切な人、というのに、私は引っかかりを覚えてしまった。やっぱり、そういう観点で、私を見ていたんだと、何だか胸に刺さる。さっきまで浮かれいてたけれど、一気に現実に引き戻された感じだった。彼の好感度はたかが3%。それは、私への好感度であって、彼の護衛対象であるエトワール・ヴィアラッテアはもっと高いだろう。私がいまかなう相手じゃない。好感度3%なんで、ギリギリ命綱があるような状態なのだ。
(……私、間違ったかも知れない)
グランツに言われたとおり逃げればよかったかも知れない。でも、そうしたとき、彼はあの狐の魔物に勝てただろうか。勝てたとしても、森の中で倒れてしまっていたかもしれない。私の判断は間違っていなかったと言いたいのに、彼の前で魔法を使ってしまったことが、今では徒となった。
「魔法が使えることは黙ってた」
「何故?」
「平民が魔法を使えたら怪しまれるから。それに、まわりに迷惑をかけたくなかったから。魔法は、便利なだけじゃない。危険なものだって分かってる」
「……」
「アンタだって、魔法が使えるでしょ?」
私は、そうグランツに投げてみた。彼は少し狼狽えたが、しらをきるように「何のことだか分かりません」とただ一言いって、その冷たい翡翠の瞳を向けた。明らかにその瞳には私はうつっていなくて、もやがかかったように、私とグランツの間に明らかな何かがあって、クリアナフィルターをとして、私が見え無くなっているような気さえした。それが、エトワール・ヴィアラッテアの洗脳なのか何なのかは分からないけれど、グランツの人間への不信が、頂点を突き破っているんじゃ無いかって、そこが悲しかった。こんなことに負けていちゃダメだけど。
「黙っていたのは悪かったと思ってる。でも、約束して欲しいの」
「約束?何を?何故?」
「私が魔法を使えること、私とアンタだけの秘密にして欲しい。モアンさんやシラソルさん……アンタの大切な人にも、私の魔法……私のこと言わないで欲しい。絶対に」