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第1話:予告者ZERO
東京・新宿。
金曜の夜、午後11時58分。
雨は降っていないのに、空気が濡れているように重かった。
スクランブル交差点の大型ビジョンが、唐突にノイズを走らせた。
画面の粒子が人の顔のように揺らいで、やがて黒に沈む。
そして、音もなく文字が浮かぶ。
「——この街に、0時ちょうど、光が落ちる。」
十秒。
その間、誰も声を出せなかった。
映像が消えた瞬間、街のざわめきが一斉に戻る。
「今の、CM?」「バグ?」
そのわずか一分後、SNSのトレンドが“#光が落ちる”で埋め尽くされる。
しかし、そこに奇妙なことがあった。
投稿の中に——まだ誰も映像を見ていない時間の投稿が混じっていた。
「23:51 ビジョンに変な文字出るぞ」
「23:53 “光が落ちる”って書かれてる、なにこれ」
映像が流れたのは23:58。
その前に書かれているはずのない投稿。
しかも、そのアカウントたちは全員、数分後に削除されていた。
翌朝。
都庁の南棟が焼け焦げていた。
爆発音も煙も目撃されていないのに、内部の防犯カメラが一斉に“真っ黒”になっている。
ニュースのアナウンサーは震える声で言った。
「都庁の南棟で原因不明の発火があり、被害は——」
途中で音声が途切れた。
画面がフリーズしたまま、再び黒に染まる。
「——次は、あなたの番です。」
その一文が、一瞬だけ画面の端に映った。
スタッフの誰も、それを見ていないという。
夜。
高校二年の朝倉陸は、自室の薄暗いモニターに目を凝らしていた。
SNSの“ZERO”というアカウント。
プロフィールは空欄、フォロワー0、フォロー0。
ただ、ひとつだけ固定された投稿があった。
【ZERO】
「この世界は、嘘でできている」
「明日、清陽高校の“真実”が暴かれる」
清陽高校。陸の通う学校だ。
時間は、10月25日、午前8時12分。
登校時刻、まさに全員が正門を通る時間だった。
午前2時。
陸は眠れなかった。
ふと、スマホが震える。
通知は来ていない。
画面を開くと、チャットアプリに未読の“1”。
送信者の名前を見た瞬間、陸の呼吸が止まる。
差出人:結衣
妹の名前。
一年前、あの火災で死んだ、はずの。
震える指で開くと、
そこにはたった一行だけ、文字があった。
「りく、窓を見て。」
陸はゆっくりと顔を上げる。
カーテンの隙間。
そこに、“誰か”が立っていた。
街灯に照らされ、影だけが揺れている。
妹の、影だった。
そしてスマホがもう一度震える。
再び、メッセージ。
「ZEROは、あなたの中にいる」
——その瞬間、停電が起きた。