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ノアがゆっくりと瞼を開ける。
ノア「そうか…君は…『ラクタ』。『ラクタ』、君の願いを叶えよう。」
ラクタと呼ばれた虫はただ、じっとしていた。
ノアはその足に嵌められた浮遊する金の輪を手に取る。
ノア「…ねぇ『ラクタ』、理性があるんだったらこんなことしなくても…」
ノアがそう話しかけると、ラクタは答えようとするが、発声器官の持たない体ではそれは叶わなかった。少し思考するような動きを見せた後、ノアの傍に居たラクタの周りに同じ姿形の虫が集まる。虫らが1つに固まるとそれはヒトの様な姿になった。
ラクタ「…記憶を見た貴方には分かるでしょう?私にはもうこれぽっちの理性しかない。いずれこの理性も消える。あれがその証拠。」
ラクタはそう言って大きな虫の悪魔が居た場所を示す。
ラクタ「私はもう『ラクタ』の1パーツでしかない。どうか、これ以上私にヒトを殺めさせないで。」
「私を殺して。」
ノア「……。」
ラクタ「そんな顔しないで。私達の可愛いノア。…私を殺して英雄になれば、貴方も少しは楽に生きれるわ。…ノア、愛してる。」
ノア「…なんで今から殺さなきゃいけないのに、そんなこと言うの…。」
ラクタ「最期だからよ。ごめんね、私も一緒に居られればよかったけどダメみたい。」
ラクタはそう言って笑うと、腕を広げ目を閉じる。ノアは金の輪を強く握りしめる。そして振りかざした。
アカネ「?あれここの花…」
シェルターを離れようとしたジークは足を止める。
ジーク「どうした?」
アカネ「この花丸ごと落ちてるんです。初めて見ました丸ごと落ちる花なんて。なんだか不吉ですね…。」
カイオス「そいつツバキって花だな。」
ジーク「カイオスの地元の花か?」
カイオス「いいや、地元の花は絶滅した。これは前に『鴉』が土産で持ってきて熱弁してたやつだ。」
ジーク「絶滅って…」
カイオス「置くとこなくてとりあえずここに植えたんだっけ」
ジーク「じゃあ俺はあの3人を回収してくるから。」
カイオス「マリアも置いてきたのか?」
ジーク「…本当はあまり置いていきたくなかったが、人酔いしていたしな…運動出来ないって言ってたが、これくらいなら大丈夫って本人も言ってたし…」
カイオス「なら大丈夫か…マリアは出来ないのに無理に嘘をつく人間じゃないしな。頼んだ。」
ジーク「ああ。」
ジーク「さて、真っ先に回収しなきゃいけないのは…マリアさんだが…」
(ベツさんは戦えるだろうし、アリィはいざとなれば逃げれるだろう…。)
ジークは弓を携えながら、マリアを休ませた場所に、向かう。
ジーク「マリアさーん。あれ…居ない…?」
マリアの所に戻ると、そこにマリアは居なかった。
ジーク「…血痕はないから無事か。ただこれじゃどこに行ったかも分からないな…」
(人酔いが収まって自分でシェルターに行ったか…?)
ジーク「あぁもう邪魔だ!」
そう言ってジークは傍に居た虫を射抜く。
ジーク「アカネ君はシェルターの護衛しなきゃだし、アリィに探してもらった方が早いな。アリィを探そう。」
そう言った後、ジークは上空に真上に、1本の矢を放った。
アリィ「あれは…」
アリィが1本の矢を視界に入れる。
アリィ「合図だ。」
私達2人で昔決めた合図。もしはぐれることがあって、何かあれば矢を放つ。
アリィ(まぁ私は弓なんて使えないから腕の筋肉を魔法で増強させて投げてるだけなんだけど。)
服の袖の内に隠された矢を握りしめる。
アリィ「今行く。」
アリィはそう言うと、矢の方向に走り出す。
ベツレヘム「あぁもう!キリがない!死にはしないけど!」
ベツレヘムが虫を殴り倒しながら、1人怒りで吠える。
ベツレヘム「フシャー!」
ベツレヘムの威嚇は悲しくも効かない。
ベツレヘム「…もうっ!しつこい!…ってあれ…動きが止まった…?」
ベツレヘムが再び新しい個体を殴ろうとすると、虫達は動きを止め、思わずベツレヘムもつられててをとめる。
ベツレヘム「……。」
ベツレヘムは警戒をして構える。虫はこちらを攻撃しては来ないが、また一体また一体とベツレヘムの元へ集まる。やがてそれは1つの塊になる。そして、最初に見たほどの大きさはないがそれでも大きい1匹の虫となる。
ベツレヘム「これが貴方の魔法ですか…。厄介ですね。」
無数の虫は1つになると、ベツレヘムにその針を突き刺す。
ベツレヘムはソレを跳んで避ける。
ベツレヘム「こんなの刺されたら一溜りもないですね…。」
(それに…さっきよりも動きが全体的に良くなっている。この大きさで飛ぶのは…早くアリィさんに伝えないと。)
ベツレヘムは上空に行かれたら手が出せないと思い、真っ先に羽をもごうとする。しかし、それは失敗に終わった。
ベツレヘム「硬い…!?」
ベツレヘムは驚いて飛び退き、もごうとした右腕から血の出た場所を抑える。
ベツレヘム(大丈夫…かすり傷…。…硬い…いや…紙のような…警戒を怠らないようにしないとですね)
ベツレヘムの耳が低く伏せ後ろへ向く。
各方面で努力が行われている一方。
マリア「ああああああああぁぁぁ…」
マリアは逃げられると追いたくなる自分の犬の獣人としての本能を呪い、後悔に苛まれていた。