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暗い表情をしたクロノアさんと鉄仮面のような無表情のトラゾーさんが戻ってきた。
やはりと言うか、トラゾーさんの仕事早い。
それなのに浮かない顔のクロノアさんを見る感じ、執務室で何かあったのは一目瞭然だろう。
クロノアさんに限って無理に自分たちのことを思い出させようとすることなんてしないだろうけど。
仮にそんなことがあればトラゾーさんはこの場でこんな顔はしていない。
なんならここにはいないだろうし。
嘘をつくのは上手い人ではあるけど、流石に触れられたくないところを無遠慮に触れられれば人間誰しも取り乱すだろうから。
「おかえりなさい」
「…ただいま」
「すみません、俺自分の部屋に戻りますね」
何か踏んではいけない地雷でも踏まれたのかトラゾーさんの声はとても硬い。
僕らの顔も見ないまま、自室の方へと行ってしまった。
先生と一対一になった時に何を話していたかは僕たちには分からない。
ただ、ひとつ分かるとしたら僕たちはとんでもない大馬鹿野郎だということだ。
いろんなことを嘘で隠し通して無理矢理抱え込むトラゾーさんのこと気付かないフリをしていたのだから。
さっきから無言で青褪めた顔のクロノアさんに声をかける。
「クロノアさん、なんかあったんですか?」
「………」
何かを言いかけては口を閉じ、はくはくと息が漏れる音しか聞こえない。
「クロノアさん?」
ぺいんとさんがクロノアさんの顔を覗き込む。
「…トラゾーに、…ッ……『俺はいなくてもいいって思ってるんじゃないですか』って言われた…っ」
血の気の引いた顔をしながらようやく絞り出された声は小さく震えていた。
「え…」
「トラゾーが、そんなことを…?」
「…本心、かもしれない…」
あの優しいトラゾーさんがそんなことをクロノアさんに言うとは思えなかったが、今の彼にとっては僕らは無関係で全く知らない赤の他人と同義だ。
「トラゾーさんの本心…」
硬く硬く守っていた心を何らかのきっかけでヒビをつけてしまった。
そして、守られていた柔く脆いそれを壊してしまった。
「……」
「…俺らが暗い顔してても何の解決になんねぇじゃん」
「ぺいんとさん…」
「あいつに合わせて、ゆっくり気長に待つしかないんだから。俺らは今まで通りに接していくしかないんだよ」
優しいあの人をここまで傷付けた代償。
「だから、俺らが傷付くのは違うじゃん。これはトラゾーが我慢してた痛みなんだ」
へらりと笑うぺいんとさんは自分の胸に手を当てた。
「俺は待つよ、どんなに他人扱いされても。だって俺はトラゾーの、親友なんだから」
「…うん、そうですよね。辛気臭い顔してたら余計にトラゾーさんに変な気を遣わせてしまうし。…僕も待ちます」
「……俺も、待つよ。あんな顔のトラゾーは見たくないしね」
これが更にトラゾーさんを追い詰めることになるなんて思ってなくて。
結局、僕らは自分たちが可愛いばっかりで彼の首を絞めていると同時に自分たちの首も同じように絞めていることになんて気付いていなかった。