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行き倒れそうになっていた俺を、すんでのところで助けてくれた守衛の男は『ウォード・アクランド』と名乗った。
ウォードはゲームでも守衛としてエイバス正門を守り続けていた。
ただしゲームの彼は何度喋りかけても「……ここはエイバスの正門だ」しか台詞が無く、門の前から動くこともない、ただの地味なNPCだった。
彼とこんな風に会話したり、門から離れる姿を見られたりというのは、まさに“現実ならではの光景”といえるのかもしれないな。
「ではウォードさん、明日の夜また!」
「おう。楽しみにしてるぞ」
翌日の夜にウォードと飲みに行く約束をした俺は、守衛の仕事に戻った彼と別れ、門の中へと入っていった。
エイバスは別名『職人の街』とも呼ばれている。
この世界では、入国の際に税金を支払わなければならない国や街も少なくないが、エイバス入出時には昔も今もその必要がない。
他の税金も全体的に安く様々なコストを非常に低く抑えられるため、特に生産系の職人達が多く住みつき、「この街で物を作っては、他の街に輸出する」という産業が盛んになった。
エイバスならではの“来るもの拒まず”な気風と活気に惹かれる者も多いようだ。
他国から流れてきた人々が住みついては事業を始めたり、雇われ労働者として働いたり等というサイクルが現在でも続いているため、辺境にある割には発展し続けている街である。
街へと足を踏み入れた俺は、思わず感嘆の声を上げた。
俺の目の前に所狭しとひしめき合っていたのは――この世界に来て初めての活気あふれる“本物”の街並みと群衆。
エイバスは、ちょうど平日の夕暮れ時。
多数の労働者の仕事が終わり、街へと繰り出し始める時間帯。
街の繁華街には飲食店の明かりが並び、楽しそうに笑い合う人々でごった返している。
別にお祭りというわけではなく、平日夕方頃のいつもの光景だ。
一見すると、昔ながらの日本の飲み屋街にも見えてくる。
だがここが日本では無いことはすぐ分かる。
現代日本では絶対にお目にかかれないものが、そこかしこにあるからだ。
まずなんと言っても魔術をはじめとする『スキル』の存在。
この世界では、人々が暮らすうえで欠かせないものとなっている。
例えばすぐそこの屋台で、肉汁あふれる特大の串焼きを売っている若いお兄さん。
彼が自家製のタレを塗って串に刺した大量の肉を香ばしく焼くのに使っているのは、焚き火でも七輪でもガスコンロでもない。
何を隠そう、【火魔術】だ。
ただ焼くだけじゃ芸が無いとばかりに、火の形状や色味を自由自在に派手に変えている。
肉とタレが焦げる良い香りも客を呼び込み、売れ行きは好調のようだな。
夕飯時の大通りには他にもたくさんの食べ物の屋台や、酒や食事を提供する飲食店が立ち並んでおり、様々な種類の美味しそうな匂いが入り混じっては、通りすがりの人々のお腹を刺激しまくっている。
もしさっきウォードにサンドウィッチをご馳走になってなかったら、この匂いにつられて、俺もふらっとどこかの屋台に立ち寄っていたかもしれないな。
地球と違い、街に暮らす“ヒト”は人間だけじゃない。
この場所から辺りを見回すだけでも、獣の耳や尻尾を生やした二足歩行の獣人をはじめ“地球じゃ会えない様々な種族の者”が街になじんでる様子が見えるだろ?
ちなみに種族分布の状況は各国や街によって異なっていて、このエイバスでは住民のおよそ8割が人間族、残りのおよそ2割がそれ以外の種族となっているらしいぞ!
使われている文字は、日本では見ないものばかり。
店名が書かれた店頭看板、自慢の商品を宣伝するポスターやのぼり――俺の位置から見渡すだけでも、この世界の共用文字である『共通言語文字』を中心に、様々な独自文字をあちらこちらで確認可能だ。
もちろん俺がこの世界にやって来てからの光景は、どれも大好きなゲーム『Brave Rebirth』で見てきたものばかりだったし、ここまでの神殿やら森やら街道やらでも何かにつけて感慨深さに浸りたくなる瞬間は多々あった。
だがこんなにも多くの人々が一気に集まり、そこに根付いた文化の中でひしめき合う賑やかさには、ここまでの光景とはまた違った種類の感動があったのだ。
ゲームでは数えきれないほど体験してきた、エイバスという街の何気ない日常。
今までは画面の向こうで眺めるしかできなかった、楽しげに行き交う人々。
まさか自分も、この世界の一員として、人混みに紛れ込める瞬間が来るなんて……。
「……とはいえやっぱり、まずは冒険者ギルドに行かないとだな」
せっかくのエイバス初訪問、見て回りたいスポットはたくさんある。
だが『夏休みの宿題は、最初の数日で全部終わらせてから目一杯遊ぶ派』であった俺にとって、やるべき事が残っている状況で街の観光を楽しむのは無理な話。
幸い建物の配置もゲームと変わらないため、迷うことなくギルドにたどり着けそうだと安心したところで、歩きながら【収納】より1枚の紙を取り出す。
これは『原初の神殿』にてエレノイアに渡されたメモ書きで、彼女いわく「エイバス到着後、冒険者ギルドへ入る前に目を通してくださいね」とのこと。
丁寧に三つ折りされた紙を広げると、美しい文字で綴られた文章が並んでいた。
「え~と、なになに……」
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タクト様へ
無事にエイバスに到着されたようで何よりでございます。
さて僭越ながら、この街に滞在なさるにあたっての助言をさせてください。既に打ち合わせで決めた内容もございますが、確認のため記載いたします。
●現段階では勇者であると明かしてはなりません。“人の口に戸は立てられぬ”と申します。ご自分の強さに絶対の自信を持てるようになるまでは、ただの見習い剣士を装ってください。原初の神殿におきましても、この事は私とイアンだけの秘密といたします。
●これまでの生い立ちを下手に語っては、ボロが出る可能性がございましょう。しばらくは打ち合わせの通り「神殿の前で倒れていたのをイアンが見つけ介抱した。その前の記憶は一切ない」という設定を貫いていただければと思います。
●期間限定の滞在となるでしょうから、夜は宿屋に泊まるのがよいかと思います。お勧めは『エイバス野兎亭』という宿です。手頃な値段で個室を借りられる上、ご主人も奥様も誠実な方だと伺っております。
●冒険者ギルドへ到着しましたら、窓口の担当者に「原初の神殿の紹介で、ダガルガ・ボア様へお会いしたい」とお伝えください。そして別にお渡しした紹介状と手土産をお渡しいただければ、話が伝わるかと思います。
●ダガルガ様への紹介状は『記憶喪失の男が冒険者として自立できるよう、簡単にでよいので、冒険者としての知識と経験、それに剣術を教えてほしい』という内容になっております。教えることに対し、おそらく何かしらの報酬を提示されると思いますが、彼ならそこまで無茶な提示はしないはずです。
●細かい内容はダガルガ様に直接お尋ねいただくのがよいかと思います。冒険者としても剣士としてもベテランで、エイバスはもちろん世界中に顔が広い御方です。
以上となります。
何かございましたら、私共を遠慮なく頼ってくださいね。
タクト様の旅路に神様の祝福がありますように。 エレノイア
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「エレノイア様って見た目からして10代前半ってとこだよなぁ……あれぐらいの年の頃の俺には、こんな文章書くのなんか絶対無理だったな」
その細やかな気遣いと丁寧な礼儀正しい文章に感心しつつ、俺は石畳の中央通りを歩き続けていた。
「あれ? 部屋の明かりが付いてないぞ??」
ややあって冒険者ギルドの前に到着したところで首をかしげる。
ギルドの扉をよく見ると、小さな看板がかけてあった。
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営業時間:8時~18時
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ゲーム内では、ギルドだけじゃなく全ての商店が24時間営業だった。冒険者ギルドが営業終了するなんて、まずあり得なかったはずなのだが――
――「気をきかせての、食事や睡眠や掃除や洗濯なんぞの必要性をはじめ、楽しみを邪魔しそうな要素は無くしておいてやったんじゃ」
ふと思い出したのは、さっき聞いたばかりな神様の言葉。
「まさかその補正って、勇者だけじゃなく、全キャラクターに適用されてたのか……?」
そういえばゲームの中では、守衛のウォードも休むことなくずっとエイバス正門を守り続けていた。普通に考えれば、休息もとらずに永遠に立ち続けるなんて無理な話である。
ギルドへの訪問は翌日に延期し、まずは今夜泊まるための宿を探すことにした。
エレノイアお勧めの『エイバス野兎亭』は、ギルド近くの大通り沿いにある小さな宿屋だ。
ゲームでも泊まることができ、この辺りの探索の拠点とするプレイヤーも少なくなかった。
といっても『Brave Rebirth』内では睡眠の必要が無い。プレイヤー達のお目当ては、HPやMPを回復できたり、一部の特殊なものをのぞき状態異常を除去できたりといった“宿泊による回復効果”が主である。
「確か野兎亭の店名の由来、『近くの森に野兎がよく出るから』っていう、割とそのままな理由だったな……」
そんなゲーム内設定を思い出しながら通りを歩いているうちに、野兎亭の特徴的な看板を見つけた。
中へ入り、カウンターで作業をしていた宿の主人に話しかけると、個室に空きはある模様。
値段は1泊朝食付きで25R。
共同浴場があり、宿泊者は18時から22時までなら自由に使っていいのだという。
10日以上泊まるなら少し割引があるようなのだが、手持ち――現在100Rのみ――と相談した結果、ひとまず1泊だけお願いし料金を払う。
ついでに主人に生活雑貨などが買える店が無いか聞いてみたところ、もうこの時間は飲食店と宿屋以外はほぼ閉まっているらしい。
だが、体を拭く布や紙や筆記用具等なら多少在庫があるとのことで、別料金――まとめて5R――で色々分けてもらうことができた。
先に共同浴場での入浴を済ませてから、あてがわれた客室へと向かう。
5畳ぐらいの狭い客室には、シンプルな木製のベッドと椅子とテーブルがひとつずつ置かれていた。
扉を閉めるなり、ブーツを脱いでベッドに飛び込む。
ベッドはお手頃価格の宿泊料金の割には寝心地がよく、そのまま寝入ってしまいたいぐらいだった。
「はぁ……長い1日だった……」
いつも通り起きて会社に行って帰って、ゲームクリアしたら異世界に召喚されて、神様に会って、神殿でエレノイア様から色んな話を聞いて、イアンに手伝ってもらい魔術が使えるようになって、魔物を討伐しまくって、空腹で行き倒れそうになったところをウォードさんに助けてもらって、街に入って冒険者ギルドに行ったら何ともう閉まってて、そして今ココ(宿屋)。
改めて今日の出来事を思い出し「どんだけ濃い1日だったんだよ」とつぶやく。
「まぁでも、ギルドに行く前に色々考える時間ができて案外良かったかもな……よっ」
頭を切り替え、ベッドから勢いよく降りて椅子に座る。
この世界に来てから初めて、せっかく1人でゆっくりできる時間がとれたのだ。
今後のためにも状況を整理して、『当面どうするか』『大まかな今後の方針』だけでも決めておきたいところ。
まずは、しまいっぱなしの【収納】の中身確認から始めることにした。
「アイテムボックス アイテム一覧」と念じてみると、俺の前にウィンドウが飛び出してくる。ついでに「詳細」と念じ、説明も加えておく。
「だいぶスキルを使いこなせるようになった気がするな……ん? 思ったより手持ちのアイテム増えてるかも」
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■アイテム一覧■
神の翻訳首飾りLV1:所持していると、スキル【言語自動翻訳LV1】使用可能
神の攻略知識人形LV1:所持していると、スキル【攻略サイトLV1】使用可能
綿の布(×5):綿でできた厚手の布
庶民の歯ブラシ:一般に広く使われる、安い歯ブラシ
庶民の石鹸:一般に広く使われる、安い石鹸
庶民の紙(×10):一般に広く使われる、安い紙
筆記用具セット:筆記用具の詰め合わせ
錆止めの鉄箱:錆びないよう加工された、丈夫な鉄の箱
エレノイアのメモ:エレノイアがタクトの為に書いたメモ書き
エレノイアの紹介状:エレノイアがダガルガに宛てて書いた紹介状
エレノイアの手土産:エレノイアがダガルガの為に用意した手土産
鉄鉱石・小(×56):生産用素材
鉄鉱石・中(×8):生産用素材
石炭・小(×21):生産用素材
70R:この世界の共通通貨
■神の一言メモ■
【収納】にしまっている間は時間が経過しないんじゃ。
生き物や魔物はさすがに無理じゃが、それ以外の自分の持ち物であればなんでも入るからの、料理とか食材とか腐りやすい物の持ち歩きに便利なんじゃよ。できる限り食べ物は多めに持っておくがよかろう!
その……
……さっきは、すまんかったのう。
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驚きで固まる。
……気を取り直し、ひとつずつアイテムをチェックしていこう。
「ん~、やっぱり“神のアイテム2点”はすごいな……この世界の文明から考えると、絶対に世に出しちゃいけないやつだ。あとは『布』と『歯ブラシ』と『石鹸』に、『紙』と『筆記用具』だろ…………ん? 『錆止めの鉄箱』ってなんだっけ?」
一瞬考えたところで。
マントを掘り出した際、何の気なしに【収納】へと金属箱を放り込んでいたのを思い出し「あれか」と納得。
「で、エレノイア様の3点セット……手土産ってなんだろ? ま、中は見ずにそのまま渡すのが礼儀だよな! そんで『鉄鉱石』に『石炭』は魔物討伐のドロップ品っと……え、こんなに溜まってんの?」
そういえば森での戦闘時、ゲームと同じように魔物を1体倒すごとに何かしらのアイテムが1個ずつドロップしていたな。
「ってことは俺、85体も倒してたのか……初バトルの割にはがんばったなー。これいくらで売れるんだ?」
俺の声に反応するように、ウィンドウ更新。
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名前 鉄鉱石
種別 素材
売却目安価格 小/1R、中/2R、大/3R
名前 石炭
種別 素材
売却目安価格 小/2R、中/4R、大/6R
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「なるほど、売却目安価格はゲームとそんなに変わらないんだな。ってことは買い取りもゲーム通り、冒険者ギルドでやってくれるのか? ……まぁ、明日聞けばいいか。そんで……鉄鉱石と石炭が、仮に目安価格で全部売れたとして……えーっと」
アイテムボックスから紙と筆記用具を取り出し、ざっと計算してみる。
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鉄鉱石・小 売却目安価格1R×56個=56R
鉄鉱石・中 売却目安価格2R× 8個=16R
石炭・小 売却目安価格2R×21個=42R
合計:114R
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「今の手持ちが70Rだろ。合わせて184Rってことは、全財産、日本円で約18400円……うわ、生活必需品を買うのすら厳しそう……最低限、食費と宿代だけは何とかしないと」
具体的には、森へ潜って魔物を倒しまくるのが先決。
話はまずそれからだ。
街で暮らす以上、何かにつけてお金は必要だ。
だけどお金さえあれば大抵のことはなんとかなると思うんだよな!
あわせて『大まかな今後の方針』も決めておきたい。
今日1日で色々あったとはいえ、もともと俺はゲーム『Brave Rebirth』が大好きで、まるでゲームの中に入り込んだような今の状況が楽しくてしょうがない。
だけどゲームには分岐がたくさんあるから、全てのイベントを見て、全てのキャラと会って喋ってなど、全部を楽しみつくすことはできないだろう。100周したって全部は遊びきれていないんだから、絶対無理に決まってる。
それでも今のうちに大まかな方針を決めておけば、後悔しにくくなると思うんだ!
「とはいえ、架空世界と現実世界で仕様が結構違うのは……やっぱり気になるよな」
基本はゲームで起こった事が、そのままこの世界で起こっているようだ。何かにつけて自分が未来を知ってるみたいで思わずニヤッとしまう。
だけど現状『王道ルートのメインストーリー』に沿う形で進んでいるはずなのに、ゲームではなかったはずの出来事も、既にいくつか発生している。
1日だけでこの量なのだ。先に進めば進むほど、もっと大きく“何か”がずれてくるんじゃ……そんな気がしてならない。
頭の中を整理するため、「現在分かっている2つの世界の違いと、何となく感じた違和感」をザッと書き出してみる。
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架空世界のリバース
●食事や睡眠等の必要性が無い
●店は24時間営業、大半のキャラも24時間起きている
●生活必需品・食事・寝床の確保は必要ない
●攻撃・移動・詠唱等、全部ボタン押すだけでOK
●武器や防具は、ボタン押すだけで自動装備
●アイテムは、入手した段階で自動収納
●神様とは最初に会ったきりで、後は1回も登場無し
●初期スキル2個
現実世界のリバース
●食事や睡眠等が必要
●店の営業時間が短く、キャラも寝ているっぽい?
●生活必需品・食事・寝床の確保、絶対必要(その分お金かかる)
●攻撃・移動・詠唱等、全部自分で動いたりイメージ固めたりする必要あり
●武器や防具は、自分で装備する必要あり
●アイテムは、自分で拾って収納する必要あり
●『神の一言メモ』あり(※神様と会話できる?)
●初期スキル9個
ゲームで無かったはずなのに、現実で起きたイベント
●冒頭の神様とのおしゃべり(※ゲームはもっと機械的だった)
●勇者であることを隠すよう言われた(※ゲームではずっと勇者で通してた)
●スキル【偽装《ぎそう》】を習得(※ゲームでそんなスキル見た事ない)
●イアンと剣装備→光魔術を試した(※ゲームでは見た事ないイベント)
●ウォードに命救われ→飲む約束(※ゲームのウォードは、話しかけても同じことしか言わないNPC)
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「こんなもんかな。あ、大事なこと忘れてた!」
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●現実世界で死んだらどうなるか(※ゲームでは、セーブ地点からやり直し)
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「というか俺にとってはこれが1番大事だよな。さすがに怖くて試せないけどさ」
このあたりは今夜だけで整理しきれそうにないし、細かく考えるのはまたの機会に改めて、ってことで。
「で、『大まかな今後の方針』だけど――これは決まってるよな!」
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まずは『1. なるべく安全第一に、この世界を楽しむ!』。
「死んだらどうなるか?」という不安と、「そもそも怪我するのは痛そうで嫌」という理由で安全第一は譲れない。だが、せっかく大好きなゲームで描かれている世界へと実際に来ることができたのだ。できる範囲で楽しまないともったいないとも思う。
これらを両立するには、何より戦力を強化するのが1番の近道なはずだ。
手っ取り早いのは、やはり『LV上げ』だろう。
魔物を倒すことで経験値が溜まっていき、一定量になったところで自然とLVが上がっていく。LVが上がれば、基本能力値が上昇することから、手堅く戦力アップも期待できるはずだ。同時に資金稼ぎもできるから一石二鳥だな!
「……あ~、信頼できる仲間も欲しいよなぁ」
いくら自分のLVをアップしても、強化できる戦力には限界がある。
複数のキャラとパーティを組むことで戦略のバリエーションを増やせるし、何らかの不測の事態に備えやすくなるだろう。
ゲーム『Brave Rebirthh』で仲間にできるパーティメンバーは、勇者を入れて最大5名。つまり4名までなら仲間を増やすことが可能ということだ。
「こればかりは強いキャラで固めればいいってもんじゃないし、それぞれの相性を考えてベストな形で仲間を集めないと。ゲームだと選ぶルートや時期で仲間にできるキャラが変わって来るけど、現実も同じとは限らないから、そこもしっかり計算しつつ柔軟に対応していく必要があるわけか……これはなかなか難易度が高いかもな」
そして『2. 神様の報酬でもらうアイテム確保!』。
神様と交わした「世界を救ったら、リバースに存在する物から、何でも1つだけ地球に持って帰ってOK!」という約束をふまえると、どのアイテムが良いか選んで作り出して、ゲームクリアにあたる“魔王討伐”段階で所持しているのが望ましいだろうと考えている。
「やっぱり第1候補は『自由転移扉』だけど、もし無理でも他に凄いアイテムはたくさんあるからなぁ。何にするかゆっくり考えよ!」
憧れのアイテム候補の数々と「それを地球に持ち帰ったらどうなるか」を妄想するだけで自然と顔がにやけてくるのが分かる。
何となく楽しくなってきた俺は、幸せな気持ちで眠りについたのだった。
5話時点の世界地図(リバースのワールドマップver1)