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今回は短編集です。テーマは『雨』
6月といえば梅雨の時期ですからね。ジメジメとした空気や低気圧頭痛で憂鬱になっている方がいらっしゃるかと思いますが、このお話で少しでも雨を楽しんでいただけたらと思います。
…って言おうと思ってたのに一瞬で雨の時期が終わりました。なんでや。
というわけで若干時期外れとなってしまいましたが、外で雨が降ってると思って読んでいただけると幸いです。今夜は雨が降ってるのでセーフですね(?)
以下、お品書きです
①伊日
②アメ日
③フィン日
※制作時間の都合上間に合わなかった英日のお話を、語り部屋の方で投稿しました!ぜひそちらも見に行ってみてください。
①君は太陽(伊日)
青空を覆う灰色の雲
昨日までカラッカラに晴れていた空はどんより湿って、ザアザアと窓を打つ雨の音が家に響く
そんな今日、カレンダーには『お出かけデート』と大きく書かれている
一週間ほど前、ウキウキと書き込んでいた字の主、イタリアさんは悲しげな表情を窓に映していた
「これじゃ外行けないんね…」
窓際でしゅんと項垂れる様は散歩に行きたがる子犬のよう。まあ、残念な気持ちはよく分かる
景色のいい公園を調べたり、お弁当の下準備をしたり、仕事を終わらせたり
仕事の連絡が来ないよう、苦手な仕事でも真面目に取り組んでドイツさんを驚かせていたのを知っているし、今日のデートに期待を膨らませていたのは僕も同じ
でも、太陽のように明るい彼の湿っぽい姿をいつまでも見ていたくはない
明るい彼にはいつも笑顔でいて欲しいんだ
「お出かけできないのは残念ですね…でも、家で楽しめることは沢山あります」
「なので今日はお家デートしませんか?」
ソファに座る僕の提案に興味を示してくれたのか、振り向いた彼がじっと見つめる
「日本は何したいんね?」
「僕ですか?そうですねえ…」
「あなたと作ったお昼ご飯を食べて、たっぷり昼寝して、夜はあなたと沢山お話しながら遅くまで起きていたいです」
…ちょっと、贅沢過ぎたかな?
冗談めかして、お茶目に呟いてみる
すると、段々朗らかな笑みが浮かんできた
「…ふふ、楽しそう。いいねそれ」
パッと窓から離れて僕のすぐ隣に腰を落とす彼
スプリングが沈んで僕らの肩がぴとりと触れ合う
「だったら僕は、一日中日本と肌身離れないで、朝まで愛を確かめあってたいな」
「…それもいいですね」
太腿に置かれた手。そっと自分の手を重ね、赤みの隠しきれていないだろう笑みを向ける
一瞬目を丸くして、柔く微笑んだ彼の表情にはもう曇りはひとつもない
やっと、晴れてくれた
込みあげる嬉しさと達成感で僕の心まで晴れ渡った気がした
「じゃあまずはお昼にしましょ。イタリアさん特製のピッツァ、楽しみにしてたんです」
「うんっ!愛を込めて作るんね!」
ソファから立ち上がって、キッチンへと手を引かれる
大雨はまだ止みそうにない。でも、窓に映るのは僕たちの幸せそうな表情
だって、あなたと一緒ならどんな日だって晴れ模様なのだから。
②愛合傘(アメ日)
いそいそと帰宅する社員たちが列を成す午後五時のエントランス
その外れでポツンと佇む僕
自動ドアから透ける景色には、バケツを引っくり返したかのような大雨が降っていた
「マジか…」
調べてみると、今日は夕方から雨が降る予報だったらしい
でも昨日から徹夜で仕事をしていた僕が天気予報なんて見ているはずがなく…
まして昨日は晴れだったから傘も持ってきていない
とんだ災難だ、折角定時に帰れるというのに…
迎えを呼ぶか?でも僕の家には誰もいないしタクシーは混んでいそうだ
やっぱり、濡れて帰るしかないかな
そんな時、Hey!と背後から陽気な声に呼びかけられた。
「Japan!定時に帰るなんて珍しいな!」
背を包み込む大きな温もり
ちゅ、と自然に贈られた頬へのキスが擽ったくて笑い声が漏れてしまう
「アメリカさん、お疲れ様です」
「どうしたんだ?帰らないのか?」
「実は傘を持ってなくて…迎えを呼ぶか迷ってた所です」
「でも今日は父さんもにゃぽんもいないので、タクシーになっちゃいますけどね」
出費が痛いです
苦笑いを零す僕に、絶好のチャンスと目を輝かせる
「それなら俺の傘に入れよ、送ってってやるぜ」
日帝がいないからいいだろ?
内緒話のように囁く彼は悪戯っ子みたいに笑っているのだろう
これは、”今日は一緒にいよう”というお誘いかな?
「ありがとうございます。では遠慮なく」
「おう!」
瞬間、彼のように大きな傘を持ってきて、僕の腕を掴み外へと駆け出す
そして、雨水のカーテンに二人だけの空間を作りだして悠々と歩き出した
肩が触れる距離で歩く雨雲の下
傘を持つアメリカさんはとても機嫌が良さそうだ
最初は入れてもらうのだからと僕が傘を持とうとしたが、僕が持つと身長差ゆえ傘がアメリカさんの頭にぶつかるので仕方なく傘を持つのを譲った
というか、素直に恋人に甘えてくれと押し切られた
強引な癖に紳士だなんて、なんとずるくて格好いいのだろう
雨音が響く傘の中
親父のやつ、英国紳士は傘ささないとかカッコつけてズブ濡れで帰ってったんだぜ、傘忘れただけなのになぁ
右手でジェスチャーをしながらケラケラ笑う彼。その横でどんなに右手を彷徨わせても、いつもの位置に彼の左手は無い
こんなにも近くにいるのに、もどかしい
やけに静かな僕を心配してくれたのだろう、アメリカさんが僕の顔を覗き込む
「日本?大丈夫か?」
「…ああはい、大丈夫です」
「やっぱ親父の話なんてつまらなかったよな、ごめん」
太い眉がしゅんと項垂れている
それについては僕じゃなくてイギリスさんに謝った方がいい気がするけど…
「あ、いや…そういう訳じゃないんです」
「ただ…こうしてると、手を繋げなくて寂しいなと思いまして…」
言い終わって熱を持つ頬
どうにも僕は甘えることが下手らしい
気恥ずかしくなって逸らした視界には先回りしたアメリカさんのニヤケ顔
じわじわと上がっていく口角。愛しさに緩く細まるターコイズブルー
サングラスのない直接の輝きはあまりに眩しく、全身が燃えてしまいそう。
「そうか!可愛いこと言うなぁ日本は!」
溢れ出す感情のままに強くハグされる
く、苦しい…
背にあった大きな手が太腿に滑り落ちたかと思うと、そのまま僕を抱えあげ、歩き出した
「あ、アメリカさん!?これ恥ずかしいです!」
「大丈夫だって、この道誰もいねえから」
でも…!と反論しようとして震える喉
しかし、その振動は彼の口内へ吸い込まれた
「ごめんな。今は手を繋いでやれないから、これで我慢してくれ」
家に着いたら、いっぱい手繋ごうな
ほんのり甘い音が鼓膜を揺らす
おまけに、あやすようなキスをされてしまっては、しおらしく体を預けることしかできない
「…はい」
静かになった傘の中
一気に縮まった距離。弾んだ声が雨に歌う
流暢な英語を片耳に味わう彼の温かさに、身を擦り寄せる
甘えは下手でも、素直になるのは悪くないな
『明日の朝まで一緒にいて』
…もう1回くらい素直になってみようか
そんなことを考えて、遠ざかっていく景色を眺めた。
③優しさに包まれて(フィン日)
突然の豪雨
それは、同棲中の彼、フィンランドさんと近所のスーパーへ買い出しに出かけた夕暮れ時
運良くセール品を買い込めたので、両手に抱えた荷物はパンパン
夕飯は何にしようか。あなたの作る鮭のシチューが食べたいです
なんて話しながら潜り抜けた出口扉の先は、まるで滝の裏のようであった
「うわっ!?すっごい雨…」
「さっきまで晴れてたのにね」
そう、店に来た時まではカラッカラに晴れていたのだ
それはまさに洗濯日和で…
「……あっ!洗濯物干しっぱなし!」
これはとてもまずい
久々の晴れで、明日着る分まで全部干してしまっているから、急いで帰らねばならない
でも、車は無いし雨が降ると思っていなかったから、傘も無い
「どうしよう早く帰らなきゃ…」
二人で走って帰る?
でも僕の体力じゃこの荷物を持ちながら家までバテずに帰れるか…
しかも、優しい彼のことだ。荷物を全部持った上で、僕のスピードに合わせて走ろうとするはず
そんなことしたら二人ともずぶ濡れだ
…ここは、フィンランドさんには悪いけど一人で先に帰ってもらって洗濯物と車を頼むのがいいだろう
一人かつ身軽なら家までは一瞬。濡れてしまうのは僕の上着で防いでもらえばいい
提案をしようと振り向くと、スマホをしまって何故か上着を脱ぎだした彼
なんであなたが?と困惑している僕の頭からそれを被せる
「は…えっ!?」
「少しの間我慢しててね」
そして抱えた僕と荷物をもって家へと走りだした
自身が濡れることも厭わず、風をきって猛スピードで駆け抜ける
雨粒が布にぶつかる音、ガサガサと揺れる荷物の振動、荒い息と激しい鼓動
大きなジャケットの中で感じる情報の全てに彼の優しさが表れている
人通りがないとはいえない道。恥ずかしさが無いわけではない
でも、視界は覆われているし、寒い思いをしてまで彼が頑張ってくれているのだから大人しくしていよう
じんわりと水を吸っていく布の中で、ゆったりと彼のあたたかさを堪能した
体感五分も経たずに家に着いて、真っ先に洗濯物を取り込む
流石に少し濡れてしまっていたがこれくらいなら室内干しでも乾くだろう。間に合って良かったぁ…
「ックシュ!」
緊張から開放されたからか、少し濡れた体がブルりと震える
なんだか急に寒くなってきた
「っ!?大変だ、早くお風呂入ろ!」
そう言うないなや、脱衣所へと連行される
そして、いつの間にか全部脱がされた僕は何故か湯が張られていた湯船に入れられていた
気がついた時には二人分の湯が溢れる音が聞こえるほどの早業だ。自分より濡れてるフィンランドさんを先に入らせようと思っていたのに発言の隙もない
彼曰く、「一人ずつだったらどっちが先に入るか譲り合いになるでしょ。そんなことして風邪ひかせたくない」とのことらしい
用意された風呂も彼の仕業だろう。ちくしょう、イケメンめ
程よく熱い湯船の中で、後ろの彼に背を預ける
冷えた体にじんわり染み込む温かさが気持ちいい
「さっきはありがとうございました。僕まで運んでもらっちゃって…」
「お安い御用だよ。洗濯物間に合ってよかったね」
びしょ濡れだったら明日家から出れなくなってたかも、と笑う彼はどことなく楽しそうだ
「こんな事言うのもなんですが、僕と荷物を置いて先に帰っても良かったんですよ?」
あなただけなら一瞬で家に着くでしょ
それだけで意図を理解したのだろう、気づかされたようにハッと目を丸くした
「その手があったか!日本と一緒に帰る方法しか考えてなかった」
どうしても離れたくなくて…と照れる彼
あらやだ、僕の彼氏可愛すぎる
「ごめんね日本が濡れる必要無かったのに…」
「いえいえ!上着のおかげでそんな濡れてないので大丈夫ですよ!」
「む、むしろフィンくんとくっつけて嬉しかったな。それに…一緒にお風呂も入れたし…」
なんて、こんなこと言えるわけが無い
瞬間、大きく揺れる水面。しまった独り言のつもりが…!
「はっ!?あ、あのっ…冗談です!!忘れてください!!」
急いで顔を隠そうとするが、その前に手首を掴まれる
逃げようとした体も片腕に引き寄せられて、濡れた胸が隙間なく密着してしまった
悪あがきをしてみるが、眼前に映る美しいニヤケ顔にはどうしても勝てない
「ヤダ。そんな可愛いこと忘れられるわけがない」
茹でダコのような赤ら顔にチュ、と降るバードキス
細めた水色の瞳の奥は轟々と青炎が揺らめいている
どうやら僕は完全にスイッチを入れてしまったようだ
「ね、今日は朝までくっついてようか」
返事を聞く前に横向きに抱えられる体
答えは一つしか用意されていない
これも全部雨のせいだ
そういうことにして、嬉しそうな彼に大人しく身を委ねることにした。
コメント
6件
素敵な雲の切れ間をありがとうございます。 フィン日……かわいくてかっこよくてえっちぃのは反則ですね🫶
雨って案外いいかも .. 🥺❤️🔥なんて考えながら読んでました 💞 個人的に 🇺🇸🇯🇵が好きすぎるよ .. 😢💞💞 力持ちな🇺🇸が 頼もしすぎて まじカッコよすぎる 🤦🏻♀️💕このまま永遠にイチャイチャしてろ💒💑
今日は雨が降って蒸し暑い日だったので憂鬱な気分になっていたのですが、読んでいるこちらまで気持ちが晴れた気がします。疲れフッ飛びました!ありがとうございます…!!