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室長は口では大変なことになったなったと何度も言いながらも口元が綻んでいて、大騒ぎしながら届いた予告状の対策会議に出て行ったがどう見ても地に足がつかないようだった。
わたしとプジョル様は調理部に打ち合わせ通りで変更はないことを伝えにいくがプジョル様もなんだか楽しげだ。
調理部でも同様の予告状が届いていたようで、ざわざわしていたところにわたしとプジョル様が行ったものだから、必要以上に注目を集めることとなった。
料理の担当者は神妙な面持ちで出てきて、わたし達の決定に頷き、心を込めて作りますと真剣そのものの表情で話す。
でも疑ってかかるとどんどん疑惑が増してくる。
ここは「心を込めて」ではなくて、「万全を期す」なんだよね。
それは心を込めて毒を盛るという意味なのだろうか?
この神妙な面持ちも演技なのかも知れないと考えると、人は恐ろしいものだと再認識をさせられた。
翌朝、わたしもセドリック様も準備のために早朝からの出勤だ。
まだ陽が昇っていない早朝の大通りは人の気配も無く静寂そのもの。
そんな中、きっと公爵家の影の方はどこかでわたし達を見守られているのだろうけど、橋上で顔合わせして以来、結局今日まで顔を合わすことはなかった。
この道の巧者の仕事ぶりは人の命に関わることもあるが完璧だ。
わたしも負けていられないと気合いを入れ直す。
そして、セドリック様と繋いでいる手にも力を込めてしまった。
「今日はいつもよりシェリーは気合いが入っているな」
「そうですね。少し緊張もしているのかも知れません」
今朝はいつにも増して、髪の毛をかっちりオールバックにキメキメのセドリック様だが、お互い守秘義務があるため、今日はなにをされるのか詳細は知らない。
セドリック様たち財務課は、騎士団と共に査察に出ると聞いているだけで、それはどれぐらいの規模で、どこに、何時になど詳細は伏せられている。
これが漏れると全ての準備が台無しになるので、当然と言えば当然だ。
もちろんわたしもセドリック様に今日の仕事の内容の詳細は話していないが、セドリック様は上層部とやり取りをされているようだったので、知っているのかも知れない。
「儀典室の詳しい内容は知らないがあまり無理はするな。危険なことがあれば1番に自分の身を守って欲しい。それと…」
セドリック様はわたしを見ながら、少しきまりが悪そうな顔をそれでいて、はにかんだような表情を一瞬させた。
「もし…もし… 俺の身を心配してくれるならだが、なにがあっても俺のことは心配するな。シェリーは自分の仕事を優先して欲しい。愛するものを優先するのは当然だろ」
セドリック様がいつものようにメガネをクイッとしながらも、照れているのがわかった。
それって裏を返せば、心配して欲しいってことでいいですよね。
「セドリック様。とても良く分かりました。お互い愛する仕事を優先させましょう。わたしも職務を全うします。セドリック様も全うしてください」
「もちろんだ」
お互いに繋いでいた手を強く握り、それはどちらも言葉にはしないけど、お互いの無事を祈り、願う、優しく温かい気持ちを伝え合った。
儀典室に着くと、程なくメンバー全員が揃った。
そこで初めて、セドリック様がいる財務課の本日の詳細な動きを知った。
騎士団の人達とともに怪しいと思われるミクパ国の貿易商のいくつかの拠点の一斉査察に行かれるが、セドリック様はその中でも、1番大きな拠点で本店と呼ばれているところに行くらしい。
それがどれほど危険なものであるのかは騎士団長と一緒ということだけで、すぐにわかった。
今日の財務課は各拠点に査察に行った者からの情報を取りまとめる留守電隊以外は全員、査察だ。
わたしが知る限り、そんな大規模な査察は聞いたこともなく前代未聞だ。
だから、今回のことがいかに大きな事件かがわかった。
儀典室のメンバーは5人と少ないので、今日はいくつもの担当をひとりで掛け持ちをする。
わたしはレセプション会場に調理部が作ったミクパ国の料理などの配膳をしたりする飲食物全般の担当で、もちろんそこには毒味も含まれる。
あとは会場設営だ。
それは昨日のうちに済ませていた。
「シェリー嬢、ちょっとこちらに」
プジョル様に呼ばれて廊下に出ると、プジョル様は早足で歩き出し、あるひとつの部屋の前で止まった。
「プジョル様、ここは…」