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――『忘れた人が、最後に願う。』
その言葉を 五人は何度も見つめていた。
「……どういう意味なんやろ」
舜太が首を傾げる。
「『忘れた人』って、誰?」
太智が聞く。 誰も答えない。 でも 仁人だけは、嫌な予感がしていた。
「……俺かもしれない」
「え?」
四人が一斉に仁人を見る。
「前世の俺は、みんなと離れることを選んだ」
仁人は写真を握りしめる。
「でも、そのあと……俺は何かを願った」
「『来世では、会いませんように』?」
勇斗が聞く。
「……うん」
仁人は頷いた。
「それが、この言葉の意味なんじゃないかな」
五人の間に沈黙が落ちる。
「でも」
柔太朗が静かに言った。
「仁ちゃんは忘れてないよ」
「……」
「今、全部思い出してる」
仁人は首を振る。
「今はね」
「今は?」
「でも……」
仁人は写真を見る。
「前世の俺は、きっと何かを忘れてたんだと思う」
*
その日の夜、 仁人はまた夢を見た。 まだ幼い五人。 公園の木の下。 初めて出会った日。
『五人でずっと一緒にいよう』
『うん!』
笑い声。 そして 場面が変わる。 大人になった五人。 同じ公園。 でも そこには四人しかいない。
「……仁人は?」
勇斗が辺りを見渡す。
「分からん」
舜太が答える。
「また、一人で決めたんかな」
柔太朗が俯く。 太智が拳を握る。
「……待とう」
「うん」
四人は ずっと待っている。 そこへ 仁人が現れる。
『ごめん』
『どこ行ってたの?』
『……もう、会わない方がいい』
四人の顔が曇る。
『なんで?』
『俺は、約束を守れないから』
『そんなことない』
『違う』
仁人が泣く。
『俺は、何度も忘れてる』
『何を?』
仁人は答えない。 ただ 自分の胸元を押さえて。
『大切だったことを、忘れてしまうんだ』
そこで 仁人は目を覚ました。
「……忘れる?」
夢の言葉が頭に残っている。
「俺が……何を忘れた?」
*
翌日五 人はまた公園に集まった。 昨日見つけた箱と写真を持って。
「もう一回、探してみよう」
勇斗が言う。
「何かまだあるかもしれない」
五人で木の周りを調べる。 すると。
「……あった」
太智が声を上げた。 木の根元、 小さな傷のような跡。 そこをよく見ると。 古い文字が刻まれていた。
――『忘れても、また思い出せるように。』
「……」
仁人は、その文字に触れた 瞬間。 記憶が流れ込んでくる。
最初の人生。 五人が初めて出会った日。 その夜 五人で木の下に埋めた箱。
『いつか大人になっても、これを開けよう』
『忘れたらどうする?』
『そのときは、またここに来ればいい』
『五人で?』
『もちろん』
五人の笑い声。 そして、 その約束を 何度生まれ変わっても 五人は無意識に繰り返していた。 同じ場所。 同じ約束。 同じ願い。
「……俺たち」
仁人が呟く。
「ずっと、自分たちでここに戻ってきてたんだ」
「うん」
勇斗が頷く。
「だから何度も会えたのかもしれない」
*
そのとき、 仁人の中に もう一つの記憶が浮かんだ。 前世の最後、 四人から離れる直前。 自分は 何かを忘れていた。 大切な とても大切なこと。 それは。
「五人でいることが、誰かを不幸にするわけじゃない」
ということ。 仁人はそれを忘れていた。 怖さだけを覚えて 幸せだった時間を、 四人との約束を。 全部、忘れたふりをした。 だから 最後に。
『来世では、もう会いませんように』
そう願った。 でも 四人は違った。 何も忘れていなかった。 だから 何度生まれ変わっても、 また仁人を探した。
「……俺」
仁人の目から涙が落ちる。
「大事なことを忘れてた」
「何?」
勇斗が聞く。
「みんなと一緒にいることは」
仁人は四人を見る。
「怖いことじゃなかった」
舜太が笑う。
「今さら気づいたん?」
「……うん」
「遅いわ」
太智も笑う。
「でも、気づけたならええやん」
柔太朗が仁人の肩に手を置く。
「これからは、忘れないようにすればいい」
「……うん」
*
夕暮れ 五人は公園を出た。 最後に 仁人は振り返る。 木の下には まだ古い箱が残っている。 その中に 一枚だけ 見つけていない写真があることを、 まだ誰も知らない。 五人が歩き出したあと 風が吹く。 箱の蓋が少しだけ開く。
中から 一枚の写真が覗く。 そこには 五人が初めて出会った日の姿。 そして 写真の裏には、 今までとは違う言葉が書かれていた。
――『最初の願いは、五人で笑うことだった。』
その下に もう一行。
――『だから、最後の願いも五人で決めよう。』
五人の物語は もう、 「失わないために離れる」物語ではない。
ここから 「一緒にいるために、どう生きるか」を選ぶ物語へ変わっていく。
はる☻
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もちぷよ
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コメント
1件
おお、この回は泣けましたね。仁人が「五人でいることは怖いことじゃなかった」と気づくシーン、本当に胸に来ました。ずっと一人で「離れるべきだ」と背負ってた仁人を、四人が何度も生まれ変わって探し続けてたっていうのが……切なくて温かい。そして最後の写真の言葉「最初の願いは、五人で笑うことだった」で全部が繋がった感じがして、すごく好きです。物語が「離れるための話」から「一緒にいるための話」へ変わるところ、素敵でした。