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【NO side】
赫の話が終わってから、
リビングの空気は、はっきり変わった。
「明日、学校どうする」
桃が真っ先に言う。
「休んでもいい」
茈が続ける。
「無理する必要ない」
黄は赫の隣に座り直して、声を落とした。
「今日は、早めに寝よ。……疲れたでしょ」
瑞も、赫の袖を引く。
「赫くん、瑞と一緒にゲームしよ。気紛れるよ」
——赫中心に、円ができる。
翠は、その少し外側に座ったまま、
黙ってその様子を見ていた。
誰も、悪くない。
むしろ、正しい。
「明日、俺が学校に連絡する」
桃が言う。
「担任には、ちゃんと話す」
赫は慌てて首を振る。
「……そこまでしなくていい」
「いい」
桃は即答した。
「これは、ひとりで抱える話じゃない」
その言葉を聞いた瞬間、
翠の喉が、きゅっと詰まった。
——俺のは
——誰にも言ってない
黄が、赫の手元を見る。
「震えてる」
そっと、手を包む。
「大丈夫」
「ここでは、我慢しなくていい」
その一言が、
翠の胸を、静かにえぐった。
——我慢しなくていい
——でも、それは“赫”だから
翠は、無意識に袖を引いた。
自分の指の震えを、隠すために。
「翠にぃ?」
瑞が一瞬だけ、振り返る。
どきっとする。
でも、翠はすぐに笑った。
「……俺、先に風呂入っていい?」
声は、ちゃんと出た。
“普通”の声。
「ああ」
桃は赫から目を離さずに言う。
「先に入っておいで」
その一言で、
翠は確信してしまう。
——今じゃない
——今、言うべきじゃない
立ち上がるとき、
胸の奥が少し苦しくなった。
でも、誰にも言わない。
言えない。
だって今、
家族は“守るべき人”を見つけたばかりだから。
廊下に出て、
リビングの声が少し遠くなる。
「今日は、赫の好きなご飯にしよう」
「しばらく送迎するか」
「一人にしない方がいいな」
全部、正しい。
全部、優しい。
だからこそ。
翠は、壁に手をついて、
小さく息を吐いた。
——俺は
——後でいい
そうやって、
自分の番を、また後回しにする。
浴室のドアを閉める直前、
翠は小さく呟いた。
「……大丈夫」
誰にも聞こえない声で。
コメント
1件

え泣きますよ? あーなんだろう好きとしか出てこん 心情がほんとに良い。みんなに感情移入してしまう( とりあえず続き全力待機します(