テラーノベル
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夜。
リビングの灯りは消えたけど、
家はまだ、眠っていなかった。
赫の部屋の前。
ドアは少しだけ開いていて、そこに人の気配が集まっている。
「……大丈夫か」
桃の声。
「眠れそう?」
黄が、優しく問いかける。
「無理なら、今日は誰か一緒にいよ」
瑞が言う。
茈は壁にもたれて、
「夜が一番、1人で考えやすいからな」
と声をかける。
——赫の様子を、全員が気にしている。
翠は、赫の部屋の前で立ち止まった。
声をかけようとして、
でも、やめる。
——今、俺が行ったら
——邪魔になる
赫の部屋から、小さな声が聞こえる。
「……ごめん」
赫が言う。
「こんなことで」
「こんなことじゃない」
桃が即座に返す。
「大事なことだ」
そのやり取りを聞いた瞬間、
翠は胸の奥が、きゅっと縮んだ。
——大事
——俺のは?
答えは、分かってる。
“まだ話してない”ものは、
存在してないのと同じだ。
翠は、静かに自分の部屋に入った。
電気をつける気力もなくて、そのままベッドに座る。
カーテンの隙間から、街灯の光が細く入ってくる。
赫の部屋の方から、かすかに会話が続いている。
「夜中、起きたらすぐ呼べ」
「無理しなくていいから」
「一人じゃない」
全部、赫に向けた言葉。
翠は、膝を抱えた。
——俺も
——同じなのに
今日、
学校で言われたこと。
吸入器のこと。
誰にも気づかれなかった体育の時間。
全部、胸の奥に溜まったまま。
喉の奥が、じわっと熱くなる。
でも、声は出さない。
壁一枚向こうでは、
“守られる誰か”がいる。
自分は、
“大丈夫な人”の役だから。
しばらくして、足音が増えた。
「今夜は交代で様子見よう」
「桃にぃ、先に寝て。俺見る」
「俺も起きてる」
完全に、赫中心の配置。
翠は、その音を聞きながら、
そっと横になった。
目を閉じても、眠れない。
胸が少し苦しい。
呼吸が、浅い。
でも。
——言わない
——今じゃない
そうやって、
自分に言い聞かせる夜が、また増える。
天井を見つめたまま、
翠は、ただ時間が過ぎるのを待っていた。
誰にも見られないまま。
コメント
1件

もうね泣けるほんとに( 投稿頻度高くて幸( あ、もちろんゆっくりで大丈夫ですからね!!?!? ほんとにねあーなんかダメだずっと語彙力溶けてる( つまり好きってことです!!!はい(