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夜のピザ屋。
オーブンの灯りだけが店内を照らしている。
カウンターの前。
エリオットはいつもの顔。
にこにこ。
その横にチャンス。
そして正面に――
エリオットの父。
ドン・ビルダー。
静かな店内。
空気は少し重い。
ドンがゆっくり言う。
「チャンス」
低い声。
「はい」
「息子に近づく理由は?」
ストレートな質問だった。
チャンスは少し笑う。
「ピザ」
エリオットが吹き出す。
「それ俺も言った」
ドンの目は笑っていない。
「本当の理由だ」
数秒沈黙。
チャンスは肩をすくめる。
「常連になっただけ」
ドンが言う。
「マフィアに追われてる男が」
ゆっくり店を見る。
「偶然この店?」
チャンスは答えない。
エリオットがその空気を壊す。
ネクタイ。
ぐい
チャンスが少し前に引かれる。
「……」
チャンスが小声で言う。
「今やるな」
エリオットは笑う。
「落ち着く」
ドンは息子を見る。
「エリオット」
「ん?」
「静かにしてろ」
エリオットは素直に口を閉じる。
でもネクタイは離さない。
ドンはチャンスを見つめる。
数秒。
長い沈黙。
「もう一度聞く」
低い声。
「息子に近づく理由は?」
チャンスは少し考える。
それから答える。
「……最初は」
「最初は?」
「安全そうだった」
ドンの目が細くなる。
「マフィアの息子が働く店が?」
チャンスは笑う。
「知らなかった」
エリオットが横で言う。
「ほんと」
ドンが息子を見る。
「黙ってろ」
エリオットはまた黙る。
でも。
ネクタイ。
ぐい
チャンスがまた前に引かれる。
「……」
チャンスが言う。
「その癖どうにかならん?」
エリオットは小声。
「無理」
ドンは二人をしばらく見ていた。
それから聞く。
「今は?」
チャンスが顔を上げる。
「?」
「今も同じ理由か」
チャンスはエリオットを見る。
金髪の天然パーマ。
ピザ屋の制服。
にこにこした顔。
ネクタイを握っている手。
数秒沈黙。
それからチャンスは言う。
「……違う」
ドンが聞く。
「何が」
チャンスは少し笑う。
「面白いから」
エリオットの目が少し丸くなる。
ドンは表情を変えない。
「息子が?」
チャンスは肩をすくめる。
「変なやつだろ」
エリオットが笑う。
「よく言われる」
チャンスが続ける。
「逃げてる俺に」
「普通にピザ焼いて」
「ネクタイ引っ張って」
「帰るなって顔する」
エリオットが言う。
「してない」
チャンスが言う。
「してる」
ドンはその会話を黙って聞いていた。
それから静かに言う。
「……なるほど」
エリオットが父を見る。
「怒らない?」
ドンは少しだけ笑う。
「別に」
そしてチャンスに言う。
「ただ一つ」
「?」
ドンの声が低くなる。
「息子を裏切るな」
店の空気が少し張り詰める。
チャンスはすぐ答える。
「……そのつもりはない」
エリオットは横でまた。
ネクタイ。
ぐい
チャンスが言う。
「それやめろ」
エリオットは楽しそうに笑う。
ドンはそれを見て――
小さく息をついた。
「……好きにしろ」
そう言って店を出ていく。
外で車のドアが閉まる音。
静かな夜。
店に残ったのは二人。
チャンスが言う。
「お前の親父」
エリオットは聞く。
「怖かった?」
チャンスは少し笑う。
「いや」
エリオットが首を傾げる。
「じゃあ?」
チャンスはエリオットを見る。
「お前の方が怖い」
エリオット。
一瞬だけ真顔。
「……そう?」
そしてすぐ。
にこっと笑う。
ネクタイ。
ぐい
チャンスが言う。
「やっぱ怖い」