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舞踏会の夜が明けても、世界は静かだった。
――表向きは。
* * *
レオニス帝国・皇城。
「……魔界の姫、か」
カイゼル・レオニスは、窓辺で腕を組んでいた。
「十歳にして、あの存在感」
側近が慎重に口を開く。
「帝国として、どう動かれますか」
カイゼルは、迷わなかった。
「婚姻を視野に入れる」
「正式にだ」
「……帝国の未来を賭ける価値がある」
それは、恋ではない。
だが、確かな“選択”だった。
* * *
エルディア魔導王国・白の塔。
書物に囲まれた部屋で、
リュシアン・エルディアは静かに指を止めた。
(魔王の血)
(だが、あれほど穏やかな魔力……)
舞踏会で見た少女の姿が、脳裏に浮かぶ。
「……知りたい」
隣にいた魔導士が顔を上げる。
「何を、ですか?」
「彼女が、なぜ世界を壊さずにいられるのか」
リュシアンの瞳は、静かに熱を帯びていた。
それは、研究者として。
そして、男として。
* * *
セレナイト王国・客間。
「いやー、可愛かったなぁ」
フィオレ・セレナイトは、ベッドに転がっていた。
「大人ぶってるのに、目が素直で」
護衛が呆れた声を出す。
「殿下、本気ですか?」
「本気だよ」
くるりと起き上がり、笑う。
「だってさ」
「守られてる自覚、全然ないんだもん」
「放っておけないでしょ?」
それは、最も危うい種類の好意だった。
* * *
魔界・深層。
闇の中で、
一人の男が、ゆっくりと目を開ける。
「……社交界、か」
ルシアス・ヴァルディオス。
かつて、世界を敵に回してでも
一人の姫を選ぼうとした男。
「……もう」
「檻の中の姫じゃない、か」
口元が、わずかに歪む。
「それでも」
「俺は、諦めない」
静かに、誓いが落ちた。
* * *
魔界城・庭園。
「……あ」
セラフィナは、花の前でしゃがみこんでいた。
「また咲いた」
小さな白い花。
舞踏会のことも、王子たちの思惑も。
知らない。
「クロウ、これ見て」
「はい、姫君」
クロウ・フェルゼンは、一歩後ろから答える。
「綺麗に咲いておりますね」
「……うん」
セラフィナは、微笑む。
(静か)
(平和)
その背後で。
世界は、確実に動いているとも知らずに。
* * *
それぞれが、思う。
手に入れたい。
守りたい。
知りたい。
独占したい。
ただ一人。
魔界の姫だけが。
何も知らず、花を見ていた。
――嵐は、まだ来ない。
だが。
確実に、近づいていた。