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え…!?ちょっと何を見たの!?アレクシス君!早く休ませて!
あんなに楽しそうにしている彼女を、久しぶりに見た。
最近は呪いのこともあり、彼女が浮かべる笑みは、どこかひきつっていた。
だが、今はどうだ。
今の彼女は、いつかの日のように無邪気に笑っている。
俺が惹かれた笑顔だ。
それは美しく、かわいらしく、なんとも愛らしい。
こんな時間が、ずっと続けばいいのに。なんて、叶わないことを思う。
彼女は呪いという檻に閉じこめられたまま。
悲しみも辛さも全部隠して、彼女は笑む。淑やかに、たおやかに、そして健気に。
たくさん我慢して、笑顔を作って、周りに自分の苦しんでいるところを見せない。
だから五年間も家族に呪いが気づかれていないんだろう。
見ているだけで胸が張り裂けそうになる。
心臓が鷲掴みされたように痛くて苦しい。
「アレクシス様、そろそろ行きましょうか」
彼女は立ち読みしていた本を本棚に戻し、俺の方を向いた。
満足したように笑う彼女に、俺の胸がまた痛む。
城に戻れば、彼女はまたあの偽りの笑みを浮かべる。
その笑顔を見る度に、歯がゆさに苛まれた。
自分の無力さに打ちのめされた。
なぜ俺はこんなに何もできないのだろうと自分を恨んだ。
そんなことをしても、何も変わらないのに。
「アレクシス様?」
俺は、首を傾げ、きょとんとしている彼女の頬に触れた。
彼女の大きく澄んだ瞳が見開かれる。
少し頬を赤く染め、少し戸惑っている様子の彼女に、思わず少し口角が上がった。
そのまま彼女の頬をそっと撫でる。
真っ白できめ細やかな肌。滑らかで触り心地がいい。
俺は彼女の頬から手を離し、口を開く。
「悪い。ごみがついてた。行こうか」
「は、はい」
未だに顔が赤い彼女の手を引きながら、俺は街中を歩いた。
「次はどこに行きたい?」
「いえ、もう大丈夫です」
彼女は首を振る。
俺は少し考えて口を開いた。
「じゃ、少し休もう」
俺はどこかに喫茶店がないか周囲を見回しながら進む。
と、彼女がふと立ち止まった。
疑問に思い、彼女の方を向くと、彼女の視線がどこかに釘付けになっている。
その視線の先を辿ると、路地裏があった。
再度彼女の方を向くと、彼女の白皙が真っ青になっている。
明らかに彼女の様子がおかしかった。
「セレスティア!?」
俺は彼女の肩を抱える。
そして気づいた。
彼女の華奢な身体が、小刻みに震えている。
表情はすっかり怯えきってしまい、今にも倒れそうだ。
何か怖いことでもあったんだろうか。
……考えてる暇はない。
俺は彼女を横抱きにし、道の脇に移動した。