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夜、屋敷の縁側で月を眺めていた。
風が冷たく、虫の声だけが響く中、背後から足音が近づく。
『……昼間、何か言われたやろ』
振り返ると、健さんが暗がりから現れた。
その顔は笑っているようで、どこか影を落としている。
「呪いのこと……そして、あなたが愛する人を喰い殺すって」
そう言うと、健さんは短く息を吐いた。
『……昔な、本当にそうなった』
健は視線を月に向けたまま話し始めた。
十代の頃、村の外から来た女を好きになったこと。
満月の夜、獣の衝動を抑えきれず……
気づけばその女は血に染まっていたこと。
自分の手で奪った命やのに、その記憶は断片的で、ただ血の匂いと叫び声だけが鮮明に残っていること。
『それ以来、俺は人を愛したらあかんって決めた。……せやけど、あんたを見てたら、もう抑えられへん。』
健は拳を握りしめ、低く唸るように言った。
『だから忠告する。……今すぐここを出て行け』
「嫌です」
あんたの答えは即答やった。
「あなたが怖くても、過去を知っても……それでも、私はそばにいたい」
沈黙。
そして健の瞳が、暗闇の中で微かに揺れた。
『……ホンマ、もう離せへんで』
その声は、愛の告白のようで、呪いの鎖を締める音のようでもあった。