テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌朝、村全体が騒がしかった。裏山の麓で、飼われていた山羊が何匹も殺されて見つかったのだ。
首筋には鋭い牙の痕。
血はすっかり吸い尽くされていたという。
【また化けオオカミや……】
《この前、村に来たあの女も巻き込まれるんやないか》
耳に刺さるような囁きが、紗羅の方へ向けられる。
その視線の中には、憎しみと恐れが入り混じっていた。
昼過ぎ、健は姿を見せなかった。
不安になって屋敷の奥を探すと、暗い部屋の中で彼が座り込んでいた。
髪は乱れ、服には泥がつき、手の甲には爪で引っ掻いたような赤い跡。
「健……昨夜、どこに?」
問いかけると、彼は答えず、ただ低く呟いた。
『……俺やないって、言い切れへん』
その声に、背筋が冷える。
『気づいたら、外におって……血の匂いがして……』
健は顔を覆い、肩を震わせた。
『もし俺が、紗羅を襲ったら……』
言葉を遮るように、紗羅はそっと彼の手を握った。
「それでも、私は離れない」
健の瞳が揺れる。
その奥に、獣のような光と、人間の悲しみが同時に宿っていた。