「硝煙に消える光」
⚠
🎲
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マフィアパロ
青桃
桃死ネタ
⚠
夜明け前の部屋に、息を荒げる音が響いた。
俺は、布団を跳ね起こしたまま、肩で息をしていた。
夢を見た。最悪の夢だった。
血の匂い、銃声、そして――ないこが、自分の腕の中で崩れ落ちる夢。
「……っ、夢……か……」
冷たい汗が背中を伝う。
荒い呼吸のまま、視線を横に向けると、ベッドの隣に座る影があった。
「まろ、また寝言言ってたよ 笑」
低く、落ち着いた声。
黒いシャツの袖をまくり、煙草を指に挟んだ男。
ないこだった。
「お前が……おる、ほんまに……」
「いるに決まってんだろ。俺、まだ死んでねぇよ 、笑」
そう言って笑うないこの横顔が、あまりにも現実的で、まろは言葉を失った。
触れた手の温もり。
その確かさに、胸の奥の不安が少しずつほどけていく。
まろは思い出す。
この数ヶ月――表では組織の副リーダー、裏ではないこの恋人として過ごした静かな時間を。
「おい、もう少し近づけ。見張りのカメラ、映るぞ」
「いや、近い言うてもこれ腕組む距離やぞ。なあ、これ恋人ムーブやんけ」
「別に見られて困る関係でもねぇだろ」
「お前なぁ……そないサラッと言うなや」
ないこはわずかに笑って、煙草を咥えた。
ふたりきりの屋上、夜風が吹き抜ける。
見下ろせば、街の灯りが星のように瞬いていた。
「お前が副にいてくれるだけで、組は動く。……俺には、助かってる」
「リーダーやからな。支えるんは当たり前や」
「……それでも、ありがとな」
そんな静かな会話を、幾度繰り返しただろう。
銃の音も、血の匂いもない夜。
ただ寄り添い、肩を預けて笑い合う時間。
俺は、あの時間を永遠に続けたかった。
その日、任務が入ったのは昼過ぎだった。
敵対組織「バルガ」の残党。
連絡を受けた瞬間、ないこの声が低くなる。
「行くぞ。今日でケリをつける」
まろは頷き、銃を腰に差した。
胸の奥に、嫌な予感が沈んでいた。
今朝の夢の続きが、現実に侵食してくるような感覚。
ビル街の一角、敵のアジトへ突入。
硝煙が立ち込め、耳をつんざく銃声が響く。
慣れた動きだった。
――だが、まろの心だけは落ち着かなかった。
「桃、後ろ!」
「分かってる!」
息が合う。
何度も命をくぐり抜けてきたコンビだった。
だが、次の瞬間。
パンッ――。
耳鳴り。
振り返る。
そこに、銃を構える男。俺は咄嗟に身体をひねった。
だが、間に合わなかった。
視界の端を、黒い影が横切る。
「桃っ!?」
銃声。
弾丸が、ないこの体を貫いた。
時間が止まったようだった。
世界が、音を失う。
「な……んで……庇ったんや、阿呆……」
ないこは、血を吐きながらも笑った。
「副がやられたら……誰が、俺の右腕やるんだよ」
「そんなもん……いらんわ……お前おらんのやったら意味ないやろ……!」
「青、……まろ、泣くなよ……似合わねぇぞ……」
最後の言葉は、掠れて途切れた。
俺の腕の中で、ないこは息をしなくなった。
銃を持った敵が、再び立ち上がる。
その瞬間、俺は何も考えなかった。
引き金を引く。
何発も。
ただ、撃ち尽くすまで。
倒れた敵の死体の向こうで、まろは膝をついた。
ないこの手を握りしめ、額を押し当てる。
「……お前、夢の通りやないか……なぁ、また、嘘や言うて笑ってや……泣」
手の中の温もりが、ゆっくりと消えていく。
世界が静まり返る。
硝煙の匂いと、血の味だけが残った。
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