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舞踏会の熱が、ようやく城を離れた夜。
人間界の王城は静まり返り、
廊下に響くのは、靴音だけだった。
「……ふぅ」
セラフィナは、バルコニーに出て、夜風に当たる。
きらびやかなドレスはもう脱ぎ、
淡い色の部屋着に身を包んでいた。
(つかれた……)
楽しかった。
でも、それ以上に——
(いっぱい、見られた)
少しだけ、胸がざわつく。
「セラフィナ様」
後ろから、静かな声。
振り返らなくてもわかる。
「クロウ」
クロウ・フェルゼンは、数歩離れた場所で片膝をついた。
「お疲れではありませんか」
「ちょっとね」
セラフィナは、手すりにもたれたまま言う。
「みんな、すごかった」
「……はい」
クロウの声は、低く穏やかだった。
「姫君が注目を集めるのは、当然です」
「当然?」
「はい。美しく、気高く、そして——」
一瞬、言葉を選ぶ間。
「……お優しい方ですから」
セラフィナは、くすっと笑う。
「クロウ、真面目すぎ」
「申し訳ありません」
そう言いながら、声は柔らかい。
「ですが、本心です」
(……)
少し、照れる。
「ねえ、クロウ」
「はい」
「今日さ」
セラフィナは、夜空を見上げたまま言った。
「知らない王子たちに囲まれて」
「踊ろうって言われて」
「……ちょっと、怖かった」
クロウの手が、わずかに強く握られる。
「……そのような思いをさせてしまい、申し訳ありません」
「ちがう」
セラフィナは、首を振る。
「クロウがいたから」
「平気だった」
その言葉に。
クロウの胸が、強く鳴った。
「……それは」
「騎士として、これ以上ないお言葉です」
声が、ほんの少しだけ震えている。
セラフィナは、振り返ってクロウを見る。
「クロウ」
「はい」
「これからも、そばにいてよ」
当たり前のように。
無邪気に。
「ずっと」
クロウは、迷わなかった。
「命に代えても」
「あなた様のそばに」
その言葉は、誓いだった。
騎士として。
そして——
一人の男として。
セラフィナは、満足そうに微笑む。
「それでいい」
夜風が、二人の間をすり抜ける。
舞踏会は終わった。
だが。
世界が姫を放っておかないことを、
二人とも、もう知っている。
それでも。
この距離だけは、変わらない。
——主と騎士。
——そして、まだ名付けられない想い。
静かな夜は、
確かに、次の物語へと続いていた。