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💚「ただいまー」
その日。
日直の仕事でいつもより遅く亮平が家に帰ると、玄関に見慣れない靴が脱いであった。
村上の靴なら父の靴より大きい。不審に思い、家に上がると、翔太がリビングから亮平のよく知る男と手を繋いで出てきた。
💙「お兄ちゃん、おかえりー」
🩷「亮平くん、遅かったね」
💚「………っ!!……どうして?」
亮平の顔が引き攣る。
翔太は笑顔で佐久間と手を繋いだままだ。亮平は慌てて弟から佐久間を奪い返すように強く引っ張った。
💙「きゃんっ!!……あう?」
亮平の並々ならぬ警戒に、佐久間は頭を掻き、苦笑いを浮かべた。
🩷「なんだよ、お兄ちゃん、つれないなあ、、」
💙「さっくん、一緒に遊んでくれたよ?お兄ちゃんのお友だちなんでしょう?」
さっくんて…。
亮平の脳裏に、二人の情事が鮮明に蘇る。佐久間の手はそんな綺麗な手じゃないし、佐久間の口は、卑猥なことをする口で…。
ともかく何もかもが汚らわしい男だ。
無垢な翔太にそんな汚い者が触れていいわけはない。
亮平はほぼ無意識に、自分の後ろに弟を隠すように遠ざけた。佐久間が傷ついたように、わざと言った。
🩷「…俺、ずいぶんと嫌われてるみたいだね」
💙「お兄ちゃん???」
💚「……何しに、来たんですか?」
亮平は腹に力を入れると、なるべく自分の心を落ち着かせるように、ゆっくりと問うた。
🩷「いんや?ちょっと、亮平くんに会いたくなってね」
💚「それなら連絡してくれればいいじゃないですか!」
🩷「電話しても、出てくれないじゃない、君」
💚「それは………」
村上に会えないことに虚しさを覚え始め、亮平はここのところの佐久間からの電話も、メッセージも無視していた。そして、それよりも多く、亮平から村上に送るメッセージは黙殺されている。
🩷「ラウールの話、聞きたくない?」
💚「えっ!何かあるんですかっ?」
亮平は、自分でも驚くほど大きな声が出て、思わず自分でもたじろいだ。
村上の機嫌を損ねるようなことでもしたのかと、亮平はここのところ気になっていたのだ。村上と会えない間、自分なりに我慢して、それでも返ってこないメッセージを何度も送ってしまったことを悪かったかと後悔してもいた。後悔もしていたが、あれほど好きだと言ってくれたのにと半ば恨みがましい気持ちも相俟っている。
🩷「ラウは難しいもんなぁ」
一人言のように、佐久間はぼやくと、両手を頭の後ろに組んだ。亮平に向けられた視線が、同情するような顔になる。
🩷「亮平くん、悪いことは言わないから、ラウールのことはもう諦めたら?家庭教師だって、他にあたるとか」
💚「なんでそんなこと言うんですか!何か知ってるの?佐久間さん!!」
縋るような物言いになり、必死に亮平は食い下がった。
🩷「だって今あいつ他の子に夢中だよ?」
💚「そんなワケ…!!」
亮平が興奮して言い返そうとしたそのタイミングで、勢いよく、服の裾を引っ張られた。
💙「だいじょうぶ?」
翔太だ。
亮平は翔太がすぐそばにいるのも忘れて喋っていた。慌てて口を噤む。
先に機転を効かせたのは佐久間の方で、しゃがむと、翔太の頭を優しく撫でた。
🩷「大丈夫だよ。俺たち、仲良しだから。ね?亮平くん?」
見上げる顔が、合わせろ、と言っている。
亮平は、頷くと、「ごめんな、翔太」と佐久間に口調を合わせた。
💚「佐久間さんは、俺の友だちだよ」
💙「うきゃ!!じゃあ3人で遊ぼ!!!」
翔太は万歳すると、たちまち笑顔になって、佐久間と亮平の二人を引っ張り、居間へと連れて行く。そして、テーブルの上に、家族が揃った時にしかしない、とっておきのボードゲームを広げると、満面の笑みで兄たちを見た。
💙「これ、やろー???」
🩷「いいね。やろうやろう」
💚「……そうだね」
本当は、村上の話をもっと詳しく聞きたいところだが、この状況ではそうもいかず、佐久間とは日が暮れるまで、3人でゲームに興じた。
そろそろ夕飯の時間、という頃を見計らって、佐久間は自分で帰ると言い出した。
💙「さっくん、帰っちゃうのぉ?」
寂しいのか、明らかに翔太は泣きそうになっている。我が弟ながら、どうしてこうも涙脆いのだろう。
そこで、はたと、亮平は不思議に思った。
どちらかと言うと、警戒心が強く、人見知りの強い翔太が、初対面でここまで懐くなんて珍しい。今までこんなことはなかった。知らない人と会うと、自分から亮平の後ろに隠れるほどの怖がりなはずなのに…。
🩷「俺も寂しいけど、また来るよ」
💙「ほんと?ほんとにぃ?」
佐久間は、犬か猫のように、翔太の顔をもみくちゃに撫でると、翔太は嫌がることなく、嬉しそうに笑っている。
💙「さっくん、すきぃー」
亮平の胸が痛む。
また、佐久間の痴態が脳裏にちらついた。
🩷「俺も翔太、だーいすき」
佐久間は、翔太に頬擦りすると、ぎゅっと抱きしめ……やっと離れる。
💚「ずいぶん、仲良くなったんですね…。翔太と会うの、初めてなのに」
🩷「んー?なんでか、犬猫とか、子供には好かれるんだよね、俺」
佐久間は悪ぶれない。そして、余計な一言も添える。
🩷「いやぁ、亮平くんも美少年だけど、翔太も可愛いね。ラウが好きそう」
💚「やめてください!!」
佐久間はごめんごめん、と笑うと、また連絡する、と、手をひらひらさせて帰って行った。
一体…何しに来たんだろう?
亮平は、ふと見上げて目に入ったカレンダーの、3日後の欄に、家庭教師のマークが記されているのを見遣る。
村上に会う前に、詳しい話を佐久間から聞いておきたい。亮平は、腰にまとわりついてくる翔太を適当にあしらいつつ、重たい気分で、夕飯の支度に取り掛かった。
🤍「ありがとう。もう帰っていいよ」
乱れた学生服を直し、一人の中学生と思しき男子生徒が頭を下げて、村上の部屋を後にした。
いつもよりは少し整頓された村上の部屋。
時折り、先ほどの彼が来るようになった。
村上は煙草を咥えて、火をつける。
思い切り吸うと、まだ苦しい。幾度か咳き込み、目からじわりと涙が浮かぶ。
村上の頭に浮かぶのは二人の男たち。
一人は亮平。
愛玩としても大好きな、大切な可愛い男の子。そしてもう一人は…。
村上は、生まれて初めて、自分より年上の男を好きになっていた。
コメント
9件

年上の男性が気になります🤭

年上の男…新キャラはさすがにないか…??🤔