⚠️注意⚠️
・太中
・後半芥敦
・職業設定変えてる
・原作無視
それでは、いってらっしゃい
地図と目の前の景色を交互に見ながら、歩みを進めていく。
『中也が云ってた住所は…』
『此方…いや、此方か』
慣れない場所の所為か、方向音痴でも無いのに迷いそうになる。
『ふふっ…楽しみだなぁ…』
働く中也の姿を見れるというのは、普段見れない中也の姿を見れるという事。
自然と胸が高鳴る。
「…よし、こんなもんか」
綺麗に掃除した店内を見渡し、疲れを解す様に息を吐く。
「後は……」
花を手早く、しかし崩れない様に丁寧に整えると、ドアを開き、”閉店”と書かれた板を裏返す。
開店だ。
「(今日はどんくらいお客さん来てくれるかな…)」
なんて不安を持ちつつも、まあ常連さんは来てくれるでしょ、と安心に変わる。
『ちゅーうーやーっ!』
「はっ!?ちょ____」
突然の大声と共に、勢いよく抱きつかれる。
『ちゅーやぁー!会いたかったよぉー』
ぐりぐりと胸板に顔を押し付けられ、時折長い横髪が肌を擽る。
猫なで声を出して甘える此奴とは裏腹に、俺の中では大量の疑問符が浮かんでいた。
「いや、ちょ、お前早くね!?」
『ん〜?だって、一番目のお客さんになりたかったし』
『早く中也の顔見たかったから』
にししと悪戯っぽく笑いながら馬鹿正直に云う太宰に、不覚にもドキリと心臓が跳ねる。
「……」
『あれ、照れた?』
「照れてねぇっ!///////」
『え、何其の顔。可愛すぎ』
「か、かわ!?」
『あ、顔真っ赤〜(笑)』
何時も何時も俺は太宰の手のひらの上で踊らされる。
にやにやと笑う太宰に痺れを切らし、圧をかけて注意喚起をする。
「兎に角!仕事の邪魔はすんなよ!」
『はいは〜い♪』
『じゃあ開店のキスだけさせて〜』
「言ったそばから邪魔すんなッ!!つか、キスなら今朝しただろ!?」
『え〜』
注意しても尚迫ってくる太宰にいよいよ堪忍袋の緒が切れそうになる。
不満げな顔をしながらも、此方に顔を近づけ、手を握り、キスをする体勢に追い込まれていく。
「ちょ…!!」
《あ、ああああのっ!!》
「へ?」
弾かれたように入口に目をやると、今にも沸騰しそうな茹でダコの様な顔をした常連さんが立っていた。
対する太宰はというと、今までの行動を誤魔化すように目線を俺から逸らす。
《え、えと、あの、す、済みません!お、お取り込み中…でしたか…?》
「…ああ、済みません。少し変なところを見せてしまいましたね。いらっしゃいませ」
ニコリと何とか営業スマイルを貼り付け、両手で太宰を思いっきり押し返す。
《え、あ、はい……》
「ゆっくり見てくださいね」
にこやかに一言告げると全力で押し返した太宰の方へ目をやる。
「(後で覚えとけこんのクソ太宰…!!)」
と、視線で無言の全力の圧を送る。
『……』
太宰は気まずそうに俺から視線を逸らした。
『(少し中也の機嫌を損ねちゃったなぁ…)』
少し落ち込んで、向こうにいる中也を見つめる。
怒られたとはいえ、何時もと違う中也の姿は見たい。ただ、これ以上邪魔をすると店を追い出されそうなので、大人しく見守ろうと心に決めた。
「最近、来られてませんでしたよね。大丈夫でしたか?」
《あ、済みません…その…色々あって…》
「そうですか…何かあれば相談にはのりますから」
《あ、有難う御座います…!》
『(へぇ…中也は凄いな。お客さんへの気遣いが流れるように出来る)』
店長として仕事をしている中也は、普段とは違った良さがある。
真剣な顔とか、お客さんへの言葉遣いとか、笑顔とか。
でも、キスされて真っ赤に染まった顔や、ふにゃりとした柔らかい笑顔は、私しか見たことが無いと思うと、一寸した優越感に浸れる。
『(中也を見ながら、私もお客さんとして何か買っていこうかな…)』
折角来たのなら何か買っていかないと罰当たりか、なんて考えながら、店内に飾られた色とりどりの花を順番に見ていく。
『(改めて見ると、花ってこんなに種類があるんだなぁ…)』
花の名前が書かれた札を見ると、聞いたことが無い名前の物や、見たことがない物が沢山あった。
色、花弁の形、葉の形…花とはこんなに奥深いものであったのか。
『(ふふっ、どうせなら、とびっきり綺麗な花を中也にあげようか)』
そう心に決めた私は、今にも踊り出しそうなワクワクを胸に、陽気に軽くスキップしながら店内を駆けて行った。
「(…太宰の奴、妙にテンション高ぇな…)」
ルンルンで歩く太宰を横目に、俺は再び少し離れた場所にいる常連さんの方へ視線を戻した。
「(…矢っ張り、今日元気ねぇな…)」
此の仕事をしていると、なんとなく判るのだ。花を手にしながら感じている、お客さんの面に出していない心情を。
《此れ…いや、此れ…?》
《はぁ……》
無理に問いただす心算は無いのだが、ため息を吐いて悲しそうな顔をする常連さんを見ていると、話しかけずにはいられない。
それに______
「あの」
《…判んないなぁ…》
相当真剣に選んでいる様だ。俺の声に見向きもしない。
《此れかな…いや違う…?》
「あの」トントン
《へっ!?あ、す、済みません!何でしょうか!》
「いえ、此方こそ、真剣に選んでる時に済みません」
弾かれた様に此方へ顔向けた常連さん___中島敦さんは、酷くあたふたして焦っていた。
不快に思われないよう、慎重に言葉を選んで口を開く。
「その…お節介かもしれないんですけど…」
「…誰かと、喧嘩でもしましたか?」
『…!』
「…先刻から敦さんが取っている花、全部「ごめんなさい」等の謝罪の花言葉が付いているので…」
《そう…なんですか》
《………》
俯いて悲しそうな顔をする敦さん。いくら気になったにしろ、直接訊くのは拙かったか。
《…矢っ張り、判っちゃうんですね。中也さんには》
《まあ…喧嘩…と云えば喧嘩かもしれません》
困った様に微笑む。
《恋人と…云い合いになってしまって》
《少し構って貰えなかった位で強く云い過ぎたなぁ、って…でも、直接は如何しても云えなくて…》
《だから、花ならって思って…仲直りの花言葉を沢山調べました》
「成程…」
そう云えば、敦さんには芥川さんと云う同姓の恋人がいる事を随分前から聞いていた。偶に惚気話は聞いていたが、喧嘩等のネガティブな話は聞くのは初めてだ。
《…まあ、もう彼奴は僕のこと嫌いになったのかもしれませんけど》
あはは、と笑う敦さんの目には、微かに涙が浮かんでいた。明らかに無理をした笑顔であることは、手に取るように判った。
「敦さん…」
《って、済みません!こんな話…》
「いえ、いいんですよ」
「…敦さん。もし良ければ、俺が仲直りの花束を作りましょうか?」
《え?》
俺の中には、とある一つの花が思い浮かんでいた。仲直りにぴったりの、白くて優しい花。
《い、良いんですか?》
敦さんの顔が仄かに輝く。
「ええ。任せてください」
にこやかに告げた。
花は、自分の気持ちを伝える為にあるもの。花屋の店長として、今の敦さんの思いを最大限に伝えられる花束を作ってやろうではないか。
《じゃあ…お願いします》
「判りました」
目的の花がある場所へ一直線に向かう。
これだけでは見劣りするので、他の花も入れよう。うん、イメージは完璧。
慣れた手つきで花を横向きに置き、ピンク色の包み紙で包んでいく。
敦さんは其の様子をただ見つめていた。
「…よし」
《わぁ…!》
出来上がった花束を見る。色も花のチョイスも完璧。我ながら善い出来だと思う。
《綺麗ですね…》
「有難う御座います」
《ところで…此の花は…?》
「ああ、ガーベラとカモミールです」
花束には、中心に三本のガーベラを置き、その周りにスパイス程度の白色のカモミールを散らせている。
ガーベラの色は、ピンク色と黄色、そして赤色だ。
「赤色のガーベラが燃える神秘の愛、ピンク色が熱愛と感謝、黄色が究極の愛、そしてカモミールが仲直りです」
《あ、愛と、仲直り…》
ほんのりと顔を赤く染める。
「そして、三本のガーベラには…貴方を愛していますという意味があるんですよ」
《う、うぅ…す、ストレートですね…》
「仲直りのついでに、日頃の愛の言葉でも伝えたら喜ぶと思いますよ」
《…確かに。そうですね》
覚悟を決めた様に、しっかりと顔を上げる。
《僕、頑張ってみます》
《中也さん、本当に有難う御座いました》
「いえ、此れが仕事ですから」
「頑張ってくださいね」
《…!はい!》
花束を受け取った敦さんの顔は、今までで一番晴れやかな笑顔だった。
其の笑顔で、俺も釣られて笑顔になる。
代金を置き、大切なものを守るかのように花束を両手で包むと、軽い足取りで店を出て行った。
「…ふぅ」
大仕事が終わったかの様に、ほっと息を吐く。
其れと同時に、今まで陰から見守っていた太宰が出てくる。
『ちゅーやっ!お疲れ様』
「嗚呼、有難う」
『凄いね〜中也は。お客さん、すっごく喜んでたじゃん』
「こういうお客さんの笑顔が見れるから、俺は花屋が好きなんだよな」
『へぇ…ふふ、お人好しな中也にぴったりだね』
「…其れ褒めてんのか?」
『褒めてるよっ!!』
ぷくーっと顔を膨らませて反論する太宰に、不覚にも可愛いと思ってしまう。
『違うよ。私はかっこいいだから!』
「なんで心の中読めてんだよ!」
『顔に書いてあるもん』
そう云って、くすくすと悪戯っぽく笑う。
今日は、ずっと太宰に弄ばれてばかりな気がする。
なんとか仕返し出来ねぇか…?
『あ、そうそう中也』
「あ?」
『折角だから、私も花買っていいかな?』
「え?ああ…別にいいけど」
『ふふっ、じゃあ此れで』
太宰が背中に隠していた花を出す。
出した花は、立派に咲いた向日葵。
其れを見た途端、俺の中で一つの仕返しが思いつく。
「一輪でいいのか?」
『うん。それか、中也のお勧めの本数があるなら、それが善いな』
「ん、じゃあ三本な」
『はーい♪』
三本にしたのには、勿論仕返しに使う為。
太宰がどんな顔をするのか楽しみだ。
残り二本、特別綺麗な物を取ると、白色と向日葵と同じ黄色の包み紙で綺麗に包んでいく。
そして、最後に淡いピンク色のリボンを結ぶ。
『流石中也。綺麗に包むねぇ』
「当たり前だ。花屋の店長だし」
『ふふ、そうだったね』
「太宰、此れの花言葉、何か知ってるか?」
『花言葉…?いや、判らないよ。生憎、花には余り興味が無かったものだから』
「ふーん…?」
よし、いける。
これ迄の悪戯も含めて、一寸した仕返しをしてやろう。
「向日葵の花言葉は、”貴方だけを見つめる”だ」
『え?』
「折角だし、此れは俺からお前にくれてやる」
「俺がお前のことを好きだという証でな」ニヤ
普段は口ごもって素直に言えない言葉。
偶には、こんな風に格好善く云うのも悪くないだろう。
『………』
「…何だよ。せめて何か云えよ」
太宰は、一言も発さず、ポカーン…とまるで生気が抜けたような間抜け面をしていた。
何だよ、折角仕返ししたってのに。反応がどうも詰まらない。
「だざ…..、!!」
『中也…』
どうやら我に返ったらしい。今の太宰は、仄かに顔を赤く染め、何かに耐えているような顔をしていた。
『流石に不意打ちは狡いよ、中也』
そっと頬を撫でる。
『此れ、本当は中也にあげる予定だったんだよ』
「は、?お、俺に?」
『うん』
今度は此方が驚いた。あの花は俺にあげる用だったとは。
『でも、流石にあんな事云われちゃあね。受け取らない訳にもいかないじゃないか』
優しく微笑み、愛おしそうにまた頬を撫でる。
「…折角普段やらねぇ事やったのに、思ったより反応薄いな」
『あれ、中也にはそう見える?』
『ふふ…之でも私は必死に耐えてるんだよ 』
「?」
頭に疑問符を浮かべる俺を他所に、にこにこしながらずいっと近づく。
鼻と鼻が後数ミリで触れそうな程の距離。
耳に顔を近づけ、吐息混じりの声で囁く。
『こんな可愛い愛の言葉を伝えてくれた中也を、今すぐにでも抱きたいって思ってるんだから…』
「は、」
「はああああ!?!?/////////」
『だけどね、こんな処でやる訳にもいかないから、今必死に耐えてるのー』ニコ
「ちょ、だ、太宰ぃ…!!/////」
『中也から云ったのに、中也が照れて如何するの(笑)』
俺から仕返しをした心算が、逆に彼奴から仕返しを貰った様で、複雑な気持ちになる。
「くっそ…なんだよお前ばっか…」
『いやいや、今日は私の敗けだよ。悔しいけど照れちゃったしね』
『有難う、中也。すっごく嬉しい』ギュッ
「〜〜…//////ど、どういたしまして…?」
なんだかんだで仕返しは成功した…と云って善いのかは判らないが、まあ成功という事にしておこう。
『ふふ、じゃあ後の仕事も見守っておくからね』
「あ”ぁ!?手前はもう帰れッ!!」
『えぇー!?なんでよ〜』
「手前が居ると気が散るんだよ!!」
『酷い〜!普段見れない中也を観察したかったのにぃ〜!』
「いいから帰りやがれッ!!」
『もしかしてあれ?自分が云った事が今になって恥ずかしくなったとか?』
「あぁ”!?違ぇわ莫迦太宰!!」
『お、図星だね〜顔赤いよ〜』
「〜〜〜ッ!!!////////」
店内にも関わらず、ぎゃあぎゃあ騒ぎながら云い合いをする二人の横には、先程包んだ向日葵がキラリと光っていた。
中也の思いを代弁する様に_____
ガチャ
「ただいまー……」
ドアを開けて、何時もの合図を送る。
普段なら返事を返してくれるのだが、今日は返事が無い。
靴を見ると、見慣れた靴は無かった。
如何やら出掛けている様だ。
「……」
目線を下げると、両手には、先程中也さんに包んでもらった花束が収まっている。
ちゃんと渡せるのかという不安や、仲直り出来るのかという恐怖が頭の中で次々に巡る。
「はぁ……」
ため息を一つ吐くと、手を洗う為に洗面所へ向かった。
バシャッ バシャッ
不安な気持ちをもみ消す様に、何度も顔に水をかける。
そうすると、なんだか、顔の輪郭が戻ってきたような気がした。
“頑張ってくださいね”
「……」
何度も何度も、頭の中で呪文の様に唱える。
大丈夫。中也さんは”頑張れ”と云ってくれた。そして、やると覚悟したのだから。
「(ちゃんと仲直りするって決めたもん。大丈夫。僕なら出来る)」
しっかりと顔を上げると、横に置いていた花束を抱え、リビングに戻って行った。
「はぁーつっかれたぁ…」
花束はそっとテーブルに置き、ソファに思いっきりダイブする。
今日は一日中悩みっぱなしだったから思っていたよりも、精神的に疲れていた様だ。
「…早く芥川、帰って来ないかなぁ…」
そう呟くと、其の儘意識を手放した。
なんだか、あったかい。
それに、頭の位置が少し高くなった様な…
心地善いなぁ…
ぼやーっと次々と浮かぶ言葉。
まだ少し重い瞼に逆らって、ゆっくりと目を開ける。
『…起きたか』
「あぇ…?」
目を開けると、此方を見下ろす芥川の顔があった。
反射的に目を逸らすと、頭が芥川の躰にぶつかる。
芥川の膝を枕にして寝ていたのだと、漸く理解した。
「あれ…なんで芥川が…膝枕…」
喧嘩してる筈なのに、という言葉は、喉につっかえて出てこなかった。
『何を莫迦な事を云っている。貴様が僕を求めたのだろう』
「へっ…?ど、如何いう事…?」
芥川の膝から起き上がり、此方を見つめる芥川を見つめ返す。
頭の中が疑問符でいっぱいで、云っている事が理解出来なかった。確かに僕は一人で寝ていた筈だ。
『貴様…真逆覚えていないとは』
「え、いや、うん…僕何かしたの?」
『僕が仕事から帰宅した時、貴様がソファで眠っていた故、毛布をかけて離れようとしたら服を掴んで引き止められたのだ』
「え、」
返ってきたのは、想像よりも斜め上の言葉。全く身に覚えが無かった。大方寝ぼけていたのだろうが、流石にここ迄の事をしてしまっていたとは想像も出来なかった。
「ご、ごめん、全く身に覚えが無い…」
『…そうか』
寝ていても、芥川のことを求めてしまうのか。そんなに芥川のことが好きなのか。と、少し恥ずかしくなる。
「(あれ、てか、毛布…)」
そして、自分の躰に毛布がかけられていることを、芥川に云われたことで今更気づいた。
芥川の優しさだろうか。
喧嘩しているのに?
じんわりと目尻が熱くなる。
『…それと、敦』
気まずそうに口を開く。察した僕は、芥川が云うよりも先に口を開いた。
「ごめん」
『は、?』
「今日、その…色々云いすぎちゃったなぁ、って…」
「芥川も仕事で忙しくて、疲れてたのも判ってた心算だったけど…どうしても、抑えきれなくなっちゃって」
「…ほんと、ごめん」
『……』
自分が芥川に云ってしまった言葉が脳内にフラッシュバックする。
酷い事を云ってしまったと、今更になって後悔した。
嫌われてても可笑しくないだろう。でも、それでもいい。伝えれる事は伝えよう。
「…あのね」
テーブルに置いていた花束を持つ。
芥川は、目を見開き、少し驚いていた。
「もう、芥川は僕のこと嫌いになったかもしれないけど、別れたいと思ってるかもしれないけど、」
“仲直りのついでに、日頃の愛の言葉でも伝えたら喜ぶと思いますよ”
「(愛の、言葉)」
嫌われてるかもしれないのに、云っていいのだろうか。
駄目、云わないと。
後で後悔することになる。
でも、怖い。
“頑張ってくださいね”
………
ぽたり
『!?お、おい、敦…』
「あ、ごめ…」
ぽたり、ぽたりと、次々に瞳から溢れ出る涙。手で擦っても擦っても、お構い無しにどんどん溢れ、花に迄零れてしまう。
慌てて花を横に退けるが、今度はソファに滲みを作っていく。
芥川は、見たことも無い位に驚いていた。そして眉間に皺を寄せ、不快とでも云いたそうな顔で此方を見る。
でも、直ぐに優しく微笑んだ。
『おい、余り目を擦るな。腫れるだろう』
頬に手を添え、瞳から溢れる涙を拭う。
直接伝わる温かみが何とも心地善くて、胸がきゅうっと締め付けられた。
『先程貴様は、僕が貴様のことを嫌っているのかもしれないと云ったな』
『其の考えを、根本的に潰してやる』
「え?」
『僕は敦のことを嫌いになどなっておらぬ』
『別れるなど、以ての外』
「へ…?」
困惑している僕を他所に、更に続ける。
『抑も、本来先に謝るべきなのは僕の方だ。敦が傷つくと判っていながら、思ってもない事を云ってしまった。…すまぬ』
芥川のこんな悲しそうな顔なんて、今まで見たことが無かった。
普段、仏頂面の芥川でもこんな顔が出来るのかと、場違いな考えが頭に浮かぶ。
『その…敦が善いと云うのならば、仲直りをしたい』
「なかなおり、」
噛み締める様に呟く。芥川も同じ事を思っていたという嬉しさと驚きが混ざって、何とも云えない気持ちになる。
『…善いか?』
「……..…」
そんなの、答えは一つだ。
「…勿論!」
精一杯の笑顔ではっきりと告げる。
其れと同時に、ほっと全身の力が抜けた。
芥川は、優しく微笑むと、今度は悪戯っぽく笑い、僕に訊く。
『今、敦が抱えている其の花束は、僕への物か?』
「うん。そうだよ。此れで仲直りしようと思ってて…」
「僕の行きつけの花屋さんで包んでもらったんだ」
花束に視線を下ろし、ガーベラをそっと撫でる。
“仲直りのついでに、日頃の愛の言葉でも伝えたら喜ぶと思いますよ”
「(愛の言葉…)」
先程迄は嫌われてるかもしれないと思っていたから云えなかったが、仲直りした今なら云っても大丈夫だろう。
でも、矢っ張り恥ずかしい。
なら、花に乗せて伝えるとしよう。
「芥川、はい、あげる。花は嫌いかもしれないけど…」
『…可愛い恋人からの贈り物だ。有難く貰い、飾るとしよう』
花束を受け取ると、ふっ、と目を細めて愛おしそうに優しく笑う。
「…そういう所だけ素直に云うの、狡い」
『?貴様は僕に素直になってほしいのか?』
「ん〜まあ、少し?」
『成程…ならば、今思っている事を率直に伝えるとしよう』
「へ?」
思わぬ回答に間抜けな声を出す。
芥川は僕の左手を片手ですくい上げると、口を開く。
『敦。僕は、貴様のことを愛している。其れはこの先も変わらない。これからも僕と添い遂げてほしいと思っている。故に、喧嘩如きで貴様を嫌うことは一切無いと、其の頭に刻みつけておけ 』
ちゅっとリップ音を立てて、すくい上げた僕の手の甲にキスをした。
「ちょ、あ、あく、〜〜〜ッ///////」
『如何した』
「もう無理ッ!!先刻の言葉撤回!!やっぱ素直にならないで!!」
『貴様から望んだくせにか?』
「いいから!!心臓に悪い…!!」
あんな甘い言葉を毎日云われたら、多分、否絶対に心臓がもたないだろう。
それに、それに…
「なんか…ぷ、プロポーズみたいで…一瞬勘違いしかけたじゃん… 」
目線を逸らし、もごもごしながら呟く。多分、今の僕の顔は相当赤くなっているだろう。
対して芥川は、一瞬驚いた顔をして、くつくつと笑う。
『プロポーズは、先程の比では無いぞ。敦』
「え”、あれよりもヤバいの…?」
『然り。此の程度で其の反応では、貴様の心臓がもたぬぞ』
「う”…が、頑張ります…」
頑張ります、というのも可笑しい気がするが…
『ふっ…其の日を楽しみにしておけ』
ちゅっ
軽く触れるだけのキスを落とす。
「…楽しみにしとく」
頬を紅潮させながら、今度は僕から芥川にキスをした。
『そして敦。プロポーズをしているのは貴様もであろう』
「え?僕?」
当の僕はプロポーズしている気等無かった為に、思わず素っ頓狂な声をあげる。
『此の花…ガーベラは、花言葉を意識して選んだのであろう?』
『色と本数、全てに愛の花言葉が付いている事…偶然とは思えぬが』
「え、あ、いや、それは…」
全部図星だ。
正確には僕じゃなくて中也さんが選んだのだが、恥ずかしさで頭が爆発しそうな僕には、言い訳の言葉が思いつかない。
というか、なんで芥川は花言葉とか知ってるの?
『貴様も中々愛い事をする…』
「ううううぅっ…!!/////////」
「芥川のバカっ!!///////」
『そう自棄になるな。貴様の愛い一面を知れた故、問題無い』
「こっちは問題大ありだよっ!!!なんで花言葉知ってるの!?」
『貴様が偶に花を買ってくるからな。僕も少し気になった故』
「もう…!!」
その後、誕生日や記念日に花や花系の小物を送る習慣が芥敦の中で生まれた事は、また別の話。
おまけ
彼氏にドロドロにされる敦と中也
〜みんなの栄養剤になったら良いな〜
芥敦
「ん”♡♡ん”ん…♡♡」
ちゅっ…ちゅぅ…じゅるるるっ…♡
「ん”ぁ♡♡ん”〜〜ッ”♡♡♡」
ソファに座る芥川と、芥川の膝に跨る僕。
口内を舐められ、歯列をなぞられ、脳が溶ける程の強い快楽に溺れていた。
「あ”ぅ”♡♡♡あ”ぁ♡♡♡」
『ふっ…ん…』
気持ちよすぎて、何も考えられなくなる。
芥川は、初めてなのかと疑う位、キスが上手い。
疑問に思って訊くと、”貴様が初めてに決まっているだろう。その質問は二度とするな愚者が”と一蹴されてしまった。
「あ”…♡♡あ”うぅ♡♡」
飲みきれなかった唾液が、顎を伝って零れる。
じゅるる…ぐちゅっ♡
「ッ”あ”!?♡♡♡」
舌を奥に入れられ、視界がバチバチと弾けた。
これ以上は駄目だと本能が警笛を鳴らし、トントンと芥川の胸板を押す。
「ぷはっ…はぁ、はぁ…♡♡」
『ふっ…之だけでもう蕩けたのか』
「だっ、て…気持ちいいからぁっ…♡あぅ…♡」
口に残る余韻で、軽く喘いでしまう。
まだ躰は芥川を求めているらしく、びくびくとしていた。
すりっ…
「あ”ッ”!?♡♡♡」
弱い耳を撫でられ、一際大きく声をあげてしまう。
『矢張り…貴様の蕩けた顔は堪らぬ』
ふうっ…(息をかける)
「ん”ッ”♡♡」ビクビクッ
『敦…』
「や”♡♡んぅ”♡♡」
吐息混じりの声で耳元で囁かれる。
ただでさえ弱いのに、僕の好きな声が重なって、どろりと頭が溶けてしまう。
『覚悟しておけ、敦。僕が貴様を更に蕩けさせてやる』
その言葉に、また躰がびくりと震えた。
太中
「あ”ッ♡♡ん”ぅ♡♡」
『可愛いねぇ…ちゅーや…♡』
「や”ッ♡♡耳だめっ”♡♡だめぇ”♡あ”ッ”♡♡」
『なんで…?好きでしょ?耳♡』
「すき、♡だけどぉっ”♡♡」
『なぁに?』
態と耳元で話せば、甘ったるい喘ぎ声をあげる。私の腕の中で鳴く中也が可愛くて可愛くて仕方がない。
「きもちよすき”てッ”…♡♡おか”しくなるぅ”…♡♡」
『ふふ…良いんだよ。可笑しくなって♡』
『其の顔、もっと私に見せて…?』
「あ”ッ”♡♡♡」
「善く鳴くねぇ、中也♡」
レロッ…♡
「〜〜〜ッ”“♡♡♡♡」
『可愛い…♡あ、顔下げないでよー…』
「や”ッ”…♡♡ぁ”っ”…♡♡」
『ほら、中也♡』グイッ
顎を持ってグイッと上げると、唾液と涙でぐしゃぐしゃになり、酷く赤面している中也の顔があった。
目の中にハートを浮かべ、物欲しそうに此方を見つめる瞳に、私の欲が更にせり上がってくる。
「おしゃ、むぅ…♡♡」
『如何したの?』
「きすぅ…♡♡」
『はいはい♡ チュッ』
ぐちゅぐちゅ♡レログチュッ…♡
「ん”〜〜〜ッ”“♡♡”♡♡」
『(びくびくしてる…♡可愛いなぁ♡)』
すりっ♡(耳)
「ん”ッ”!?!?♡♡♡♡♡」
大好きな耳を触ってあげれば、一際大きく躰を震わせ、鳴く。
「ん”ッ”♡♡ん”ー!♡♡♡♡」
流石に刺激が強すぎたのか、胸板を押して抵抗してくる。
でも、其れが逆に私の中の悪戯心を加速させる。
グイッ
れろっ♡♡ぐちゅっ…♡ スリッ…♡
「あ”ぇ”!?♡♡♡あ”ぁ”♡♡」
『逃げちゃ駄目だよ、ちゅーや♡』
一旦キスを辞め、絶対に逃がさないと云わんばかりの目で中也を見つめれば、更に顔が歪む。
かろうじて理性はほんの少しだけあるらしいが、完全に切れるのも時間の問題だろう。
『此の顔は私だけ。私だけの物。他の人には見せちゃ駄目だよ…?♡♡』
「ん”ぅ♡♡」コクコク
【祝】人生初の一万文字です…(笑)
コメント
6件
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!尊い、幸せ、生きてて良かった。この人生に一遍の悔いな…_:( _ ́ཫ`):_
あ…あれ……三途の川が…、、😇 あれ…あそこに居るのは織田作…?😇 まんまイメージ通りだった…、 え、こんな…すご…??!! ちゅやんも敦くんにも 腰をお大事にと伝えといて…😇(((殴