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第十三章 繋がる願い
第八話 辿り着いた光 前編
薄暗い細い路地を縫うように、ダイチは歩いていた。
崩れかけた石壁。
積み上げられた木箱。
湿った地面。
どこからか漂う酒と煙の匂い。
表通りの賑わいはもう届かない。
ここはラディスの裏側。
力を持たない者達が、誰にも頼らず生きている場所だった。
建物の影では男達が低い声で何かを話している。
道端には疲れた顔の子供達。
壁際から向けられる視線は鋭い。
歓迎されていない。
それでもダイチは足を止めなかった。
「……ジント……」
無意識に名前が漏れる。
必ず見つける。
その思いだけで暗い路地を進んでいた。
その時、建物の影で一人の男が木箱へ腰掛けて煙草を吸っているのが見えた。
ダイチは近付く。
「……ちょっと聞きたいんやけど」
男は顔を上げる。
鋭い目。
警戒するような視線。
「……また白い服の連中か?」
「え?」
ダイチが眉を顰める。
男は煙を吐きながら続けた。
「違うなら何だ」
「ここに来る奴なんざ、だいたい面倒事だ」
ダイチは一瞬迷った。
だが時間がない。
「黒髪の男を探しとる」
「俺と同じくらいの歳で……」
その瞬間、男の目が僅かに動いた。
「……兄ちゃんもか」
「え?」
「さっきも聞かれたんだよ」
男は面倒そうに肩を竦める。
「白装束の連中が、“黒髪の月蝕の子”を探してるってな」
ダイチの拳が強く握られる。
やっぱり、ジントを追っている。
「なぁ」
男が首を傾げる。
「その月蝕の子ってのは、そんな危ねぇ奴なのか?」
「教会があんな必死になるくらいだろ」
ダイチは少し黙った。
そして静かに答える。
「……違う」
男は少し意外そうな顔をした。
だがダイチはそれ以上何も言わず、男に背を向けた。
「邪魔したな」
その場を離れる。
胸の奥に、僅かな希望だけを残して。
ーージントはまだラディスにいる。
なら、必ず会える。
少し先に進んだ時、別の男の姿が見えた。
声を掛けようとした瞬間、男はサッと建物の中へ消えてしまう。
「チッ……」
どう探せばいい。
焦りが募る。
その時だった。
「あっ」
小さな影が路地を横切る。
ダイチは咄嗟に声を掛けた。
「待って!」
その腕を掴む。
少年はびくりと肩を震わせた。
「あ……ご、ごめん!」
ダイチはすぐ手を離す。
少年は警戒した目でこちらを見る。
薄茶色の髪。
不安そうな瞳。
まだ幼さの残る顔。
シアンと同じ年頃の少年。
ダイチは屈んで、目線を合わせた。
「怖がらせるつもりやない」
「黒髪の男を探しとるんや」
「俺の大事な友達や」
少年は黙ってダイチを見る。
その青い瞳を。
必死な表情を。
しばらくして、少年は小さく息を吐いた。
「……兄ちゃん」
「教会の人じゃないよね?」
ダイチは頷く。
「違う。俺はそいつの友達や」
「早く見つけてやらな…心配なんや……」
その言葉に、少年の表情が少し変わった。
やがて小さく呟く。
「……ツヨシ兄ちゃんに怒られるかな……」
「え?」
「……こっち」
少年はそう言うと、細い路地を走り出した。
「待って!」
ダイチも慌てて後を追う。
何度も角を曲がる。
表とは違う、入り組んだ道。
やがて古びた建物の前で少年が止まった。
コンコン。
扉を叩く。
「ツヨシ兄ちゃん! 俺!」
しばらくして、ギィ、と扉が開いた。
現れたのは、背の高い男だった。
焦げ茶色の髪。
鋭い目。
鍛えられた身体。
男はダイチを見るなり、警戒したように目を細めた。
「……コウ、誰だこいつ」
「黒髪の兄ちゃんの友達だって」
少年が答える。
ツヨシは黙ったまま、ダイチを観察した。
服装。
髪。
瞳。
そして身に纏う雰囲気。
「……表の人間か」
低い声。
ダイチの身体が僅かに強張る。
だがツヨシは続けた。
「ソルトのもんだな」
「……なんで分かるんや」
「分かるさ」
ツヨシはため息を吐く。
「隠せてると思ったか?」
そう言ってダイチのフードをサッと下ろす。
露わになる群青色の髪。
青い瞳。
「っ!!」
ダイチは思わず身構える。
ツヨシはそれを見ても特に驚かなかった。
ただ確認するように言う。
「……ジントを探してるんだろ」
ダイチの表情が変わる。
「……知っとるんか」
一歩近付く。
「ジントは……!」
声が震える。
「無事なん……!?」
その必死な顔を見て、ツヨシは小さく息を吐いた。
そして
「……入れ」
短く言った。
扉の奥を示す。
「本人から聞け」
ダイチの心臓が大きく跳ねる。
生きている。
そこにいる。
震える足で中へ入る。
薄暗い部屋。
小さな寝台。
掛けられた薄い布が、呼吸に合わせて僅かに上下している。
ダイチはゆっくりと歩み寄ると、傍へしゃがみ込んだ。
そっと顔を覗き込む。
その瞬間、張り詰めていたものが切れた。
「……ジント……」
探し続けた。
ずっと。
会いたかった。
震える手で、そっと頬へ触れる。
温かい。
生きている。
「……ジント……っ」
声が震える。
「ジントぉ……っ!」
堪えていた涙が、一気に溢れ落ちた。
コメント
9件
よかったーー!いや、絶対に見つけると思ってましたよ? けどね…いやはや…💦 でも目覚めた一言目が気になってしかたない! 私の予想通りであってほしい!!
よかったよー😭 もうここまでドキドキしてましたー! 本当に展開がうますぎます… 2人が出会えてとりあえず一旦 一安心です😭
ジントが見つかって本当によかった😭ダイチが必死にジントを探してるシーンはこっちも焦る気持ちで応援してました😭
#恋愛
ばたっちゅ
4,548
成瀬りん
148
#怪異
215