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第十三章 繋がる願い
第九話 辿り着いた光 後編
零れ落ちる涙を拭うこともせず、ダイチは震える手でそっとジントの頬へ触れた。
「……温かい……」
掠れた声が漏れる。
「生きとる……!」
青白い顔。
額にはうっすら汗が滲み、
頬や首には細かな擦り傷が残っている。
呼吸は浅いが、確かに生きている。
その事実だけで、胸の奥に積み上げられていた不安が溶けていくようだった。
「……必死に、逃げてきたんやな……」
ダイチは苦しそうに呟く。
そして布から覗いたジントの腕が目に入る。
「——っ……!?」
思わず呼吸が止まった。
細い手首。
そこに残る生々しい縄の痕。
簡単な手当てはされている。
だが赤く擦り切れ、血が滲み酷く腫れていた。
ローブの裾も破れ泥と埃で汚れている。
そっとめくった布の下の白い素足も、傷だらけだった。
ダイチは唇を強く噛んだ。
もっと早く見つけていれば。
いや、最初から自分が傍にいれば。
こんな目に遭わせずに済んだのに。
「……っ」
胸の奥が痛い。
ダイチは乱暴に腕で涙を拭った。
その時、背後に人の気配がした。
「……さっきより呼吸は落ち着いてる」
低い声。
ダイチが振り返ると、ツヨシが部屋の入口へ立っていた。
ジントの様子を見ながら、どこかホッとしたように呟く。
ダイチは再びジントへ視線を戻したまま、小さな声で言った。
「……ツヨシ、やっけ」
「ジントのこと……助けてくれたんやろ?」
ツヨシは肩を竦めた。
「まぁな」
ダイチはゆっくり顔を上げる。
「なんで……?」
「こんな……教会に追われた、知らん人間を」
ツヨシは少し黙った。
そして、ダイチの赤くなった目を見てふっと小さく笑う。
「……オレもよく分かんねぇよ」
ぶっきらぼうな声。
「ただ」
ツヨシは小さく息を吐いた。
「こんなにボロボロになるまで逃げてきた奴を、見捨てるほど冷たくねぇだけだ」
そして、眠っているジントへ視線を戻す。
その目は、驚くほど優しかった。
ツヨシは続ける。
「こいつさ…ずっと怯えてた」
「教会の連中に追われてることより……」
「自分のせいで誰かが巻き込まれることを気にしてた」
その言葉に、ダイチの目が揺れた。
ああやっぱり、ジントらしい。
いつだってそうだった。
自分が傷付くことより、誰かが傷付くことを怖がる。
「……ほんま、馬鹿やな」
ダイチは小さく呟いた。
声が震える。
怒っているわけじゃない。
ただ、無事でいてくれたことが嬉しくて。
その時だった。
「……お前、ダイチだろ?」
突然名前を呼ばれ、ダイチはハッと顔を上げる。
ツヨシは少しだけ笑った。
「こいつ、寝言で呼んでたぜ」
ダイチの瞳が揺れる。
「俺のこと……?」
「あぁ」
ツヨシはベッドへ視線を向ける。
「何度もな」
「相当、大事なんじゃねぇの」
そして頭を掻きながらフッと笑う。
「ったく…誰が世話してやったと思ってんだか」
その言葉に、ダイチは何も返せなかった。
胸の奥が熱くなる。
自分の名前を、呼んでいた。
苦しい時に、自分を思い出してくれていた。
その事実に、胸がぎゅーっと締め付けられる。
そして同時に、胸の奥に小さな引っ掛かりが残った。
自分が知らない時間。
自分が知らない場所。
そこで、この男はジントの傍にいた。
ジントを助けた。
それは当然感謝している。
本当に。
でも言葉にできない何かが、胸の奥で静かに燻っている。
ダイチはその感情の名前をまだ知らなかった。
ただ、目の前のジントを見つめる。
閉じられた瞼。
うっすらと涙の痕が見える。
傷だらけの姿。
必死に一人で耐えていた姿。
もう二度と、こんな姿を見たくない。
「……ありがとう」
「ジントのこと、助けてくれて」
ツヨシは鼻で笑う。
「別に」
「オレはオレのやりたいようにやっただけだ」
「礼言われる筋合いはねぇよ」
ぶっきらぼうな声。
でも拒むような冷たさはなかった。
そして
「おい、コウ!」
ツヨシが扉の向こうへ声を掛ける。
「頼んだもん買ってきたか?」
「買えたよー!」
元気な返事が返ってくる。
「おー」
ツヨシは軽く手を上げた。
そう言って部屋を出ていく。
扉が静かに閉まった。
再び静寂が落ちる。
ダイチはゆっくり、ジントの髪へ触れた。
さらりと指を滑る黒髪。
「……ほんま、心配させんなや」
小さく呟やく。
返事はない。
けれど、今はそれでよかった。
生きている。
ここにいる。
それだけで十分だった。
コメント
1件
**美月ゆめか🌸の感想** ダイチがジントの頬に触れて「温かい…生きとる…!」って言うシーン、もう涙止まらんかった😭💕 傷だらけのジント見て自分を責めるダイチの心情が痛いほど伝わってきて…。それに、ツヨシが「寝言で呼んでたぜ」って言うところ、胸がぎゅーってなったよ! ジントが苦しい時にダイチの名前呼んでたって事実に、ダイチの気持ちが揺れてる描写がエモすぎる…。でもダイチの胸の奥で燻る引っ掛かり、これからどうなるんだろう? 続きが気になって仕方ない!