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ゆずき
691
夢野ひより
1,818
#オフィスラブ
泉屋乃苺
800
ミィのスマホにはショートメッセージを投稿できるSNSの画面が表示されている。その画面を目を凝らして読んでみると……。
”メルラブのマイは2万以上のシャンパンを注文するだけで、簡単にヤれる。”
と書かれていた。いや、それだけじゃない。画面をスクロースすると、
”マイの誕生日イベントでオリシャン(オリジナルシャンパン)を注文したら向こうから誘ってきた。”
”マイは鬼枕で人気を稼いでいるだけの売女。”
”メルラブのマイは新宿のコンカフェ界隈で一番のビッチ。”
……等々、次から次へ、様々なアカウントで無数に書かれている。適当なアカウントをタップしてみたが、マイに関する呟き以外にも沢山の呟きが投稿されており、どうやらマイを叩くために作成されたアカウントではないように見える。
「これ……。」
俺はアイさんを見ながらミィのスマホを指さすと、アイさんは頭を押さえながら首を振った。
「本人にも聞いてみたんだけれど否定をしなかったわ。正直、怒りながら否定をしてくれた方が良かったんだけれど……。」
「もし、このままだとマイさんは……?」
「辞めて貰うしか……ないわね。お店の評判も落ちちゃうし……。それに『マイがシてくれるんなら、他のキャストも同じようなサービスをしてくれるだろう。』と考えるお客様が増ると困っちゃうから……。」
それは当然の決断だろう。これらの書き込みをこのまま放置して更に多くの人達が拡散をしたら、お店全体に被害が及ぶだろう。通常であれば聞くまでもなくマイを辞めさせるべきだ。
ミィはスマホをポケットに閉まって必死の形相で俺の両手を掴んだ。
「ねぇ、ユウトからも否定してよ! マイさんがこんなことをするわけ無いって! マイさんはいつも楽しそうにお給仕をしていたの! 好きでもない人の相手をしながら、あんなに楽しそうに働くことなんて出来る分け無い!」
「そうは言っても、マイさん自身が否定をしてくれないと……なんとも言えないだろ……。」
「なんとも言えないだろ……。」なんて言ったが、俺に対するマイの行動を考えると、どうしても、マイが”こういうこと”を行うのではないかと考えてしまう。信じたくはないが……。
ミィは俺の考えている事を察したようで、目の端に涙を浮かべながら俺の事を睨みつけた。
「もういい! 今日、マイさんにこの書き込みの事をしっかりと聞くから! 私がこんな書き込み、嘘だって証明してやるんだから!!!」
◆◆◆◆
もうすでに14:00を回っている。しかし小説の進捗は、ほぼ0だ。あの後ミィは俺の部屋を飛び出し、アイさんもミィの事を追うように帰って行った。それからPCと睨めっこをしているが、頭の中で文章を上手く組み立てることが出来ない。マイのこと、そしてアイさんやミィのことが頭の中でグルグルと巡り、俺の頭脳の中の、文章を作成する部分を圧迫しているみたいだ。
もう今日は諦めて散歩でもしよう! そう決意をしてPCを閉じてジャケットを羽織った。別に目的地があるわけではない。気の向くままに適当に歩き、時には電車に乗って気ままに様々な場所を巡る。執筆に行き詰まり、どうしようもないときに時々行うのだ……これで事態が改善したことは過去に一度もないのだが……。
◆◆◆◆
家を出てから約30分、気の向くままに歩き電車に乗った結果、新宿へとたどり着いた。何故行く当てのない人は繁華街へとたどり着くのだろう……。単純に乗り換えの多い駅にたどり着いているだけなのか……。それとも、人間は人の沢山いる空間へと引き寄せられる性質があるのか……。
どちらにせよ、人間観察すると小説のアイディアが浮かぶこともある。普段は歌舞伎町か西口の飲み屋で時間を潰すのだが、今日はまだ開店前だろう。それに、どうせ人間観察をするのであれば、普段は行かないようなお店へと行った方が良いだろう。そう考えて新宿三丁目へと向かうと大通りの脇に”CAFE”と書かれた三角の旗が見えた。
その旗の場所へと向かうと人一人がやっと通れるような、穴倉のような入り口があり、その入り口の先には地下へと向かう階段が伸びていた。
俺は引き寄せられるようにその階段を降りると、ガッツポーズをしたくなる程美味しそうなコーヒーの香りがする。散歩中に、隠れた名店に出会えると嬉しくなってしまう。これが俺の小説に、どのように生きるのかは分からないがとにかく気分が良い。
俺は階段の先にある扉を開いた。部屋の中は地下とは思えないような木目調のデザインで統一されており、暖色のライトがとても暖かな雰囲気を演出している。思ったよりも席数が多く――恐らく10組~15組くらいの座席がある。
しかも、とても入りやすいとは思えないような入り口にも関わらず店内は大繁盛だ。なんせ、座席に案内されるタイミングで80分制限と書かれたプレートを渡される程だ。チェーン店ではよく見るプレートだが、個人経営であろうこのお店でも滞在時間に制限をかけているとは……。
確かに周りを見回すと、ほぼすべての席が埋まっている――男女のペアで来ている人が多いな……。そう思いつつ更に観察をすると……俺よりも年上に見える男性が多い。一方、女性は若い娘が多く見える。下手をすれば中学生か高校生に見える娘までいるぞ……!?
まさかと思い、俺はスマホを取り出した。
コメント
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ああ、59話読みました…。ミィがマイさんを必死に否定しようとする姿に胸が詰まりましたね。「好きでもない人の相手をしながら楽しそうに働けるわけがない」って言葉、真っ直ぐすぎて痛いほど伝わってきました。でも、マイさん自身が否定しなかったのがすごく気になる…ユウトが「俺に対するマイの行動を考えると」って思うところ、読んでてこっちまで複雑な気持ちになりました。 ラストのカフェの描写、あの客層の違和感がゾッとしました。ああいう“裏がありそうな空間”を日常の延長で描くの、すごく巧いなって。次が気になります。